希望の象徴
「勇者様たち!」
婚約者が城に来て俺達、お義父さんの元へと駆け寄って来ましたな。
おお、フィーロたんもおりますぞ。
「城を取り戻したと聞きました! 父上達は?」
「メルティちゃん。女王様と王様も無事だよ。まあ……城を占拠した連中は排除した形だね」
「ぶーフィーロも行きたかったーけど槍の人いるし……ぶー」
「あはは、フィーロもメルティちゃんを守ってくれてありがとうね」
おお、フィーロたんですぞ。
飛びつきたいですが、近寄ろうとすると婚約者とお義父さんが警戒しているので飛び掛かれませんぞ。
「ヴォフ……お城の中、俺達来て良い?」
ヴォルフが周囲をキョロキョロと見渡しながらお義父さんに尋ねますぞ。
ツメの勇者なので今回は参加できませんでしたかな。
「一応、事が片付いたし、女王の来賓客って事で招く形だね。もうギャーギャー騒げる貴族が居ないってのも大きいかな」
まあ、一番大きい奴が居ない訳じゃないけどね。
お義父さんが露骨に眉を寄せつつ呟いてはおりましたぞ。
「勇者様方、女王陛下がお呼びです」
「じゃあ行こうか」
という事で……改めて玉座の間に俺たちは呼ばれましたぞ。
玉座の間に行くと女王が立っており、一礼してから玉座に腰かけましたぞ。
クズはその隣で立たされておりますが、周囲には影等の者達によって半ば捕縛状態のようですな。
まあ、そこまで抵抗している素振りではないですぞ。フェアリーモーフのショックで放心状態でもあるようですな。
ちなみに別のループでクズに同様の魔法を掛けた際には掛からない事がありましたぞ。
杖の加護が強くなっていないとダメみたいですな。
クズが色々と魔法が掛ったりする勇者としての部分が大きくなっているのは虎娘と虎男もいるからでしょうな。
「勇者様方、此度は城を不当に占拠した邪教から我がメルロマルクをよくぞ救ってくださいました」
「邪教、ものは良いようですね。都合が悪く成れば国教も邪教として断ずる。勝てば官軍とはこの事ですよ」
クスス……と樹が相変わらずあざ笑っている様子ですな。
「……返す言葉もございません。潜在的にはまだ国内の者達や此度の騒動に加担していなかった貴族も私の判断に納得はしないでしょうが……」
「そうじゃ! あのような過激な権力に溺れた者たちが三勇教ではないのじゃ! 妻よ! 考え直すのじゃ!」
「一部だと、そう言いたいのでしょうが国内の者達が今、どのような宗派を信仰しているのかオルトクレイ、あなたは理解しているのですか?」
「それは……」
クズが言葉に迷うような顔をしながら俺たちの……主に錬の方へと視線を向けますぞ。
錬は周囲の視線が集まるのを感じてキョロキョロと見返してますぞ。
今更どうしたのですかな?
「どうやらわかっているようですね。そうです。民は国内の問題を率先して解決した剣の勇者様を信仰すれば国内、世界で起こっている問題から救ってくださると……思っているのです」
サッと立ち上がって女王は錬の方へと歩いて行きますぞ。
「く……おい。それ以上……うう」
「錬、いくら何でもここでそんな態度じゃ良くないよ」
近づかれる分だけ錬は逃げようとしますが逃げ場所が無いのか諦めてキリっとした顔で女王の接近を許しますぞ。
女王は錬に頭を垂れてからその手を握りますな。
錬は握られた直後に全身を使って引こうとしてそのまま引っ張られる形で婚約者と共に玉座に腰かけさせられましたぞ。
その膝の上に婚約者もセットですな。
「え? え? は!?」
「……」
クズも渋々と言った様子で黙って成り行きを見守っておりますぞ。
「剣の勇者であるアマキ様、どうか国内の混乱を収める為に国の代表として玉座に座って頂けませんか?」
「は? い、いや俺じゃない――いくら何でも!?」
驚きの表情で錬は婚約者と顔を見合わせていますぞ。
「国民の支持も厚く、アマキ様こそ我が国の王に相応しいと皆が思っています。どうかメルティと良くしてくださいね」
この雰囲気、メルロマルクに留まったループで名声を稼ぎ過ぎたお義父さんとのやり取りと非常によく似てますぞ。
まあ、ラフミが錬の代わりに活躍しすぎた所為ですな。
メルロマルクの希望の象徴、剣の勇者ですな!
錬はどうしてこうなった、という顔で俺達を見渡しております。
「ええ……は、母上……」
「メルティ、あなたも分かっているでしょう?」
「そ、そうですが……」
フハハハハ! どうやら婚約者は錬と婚約を結ぶことに決まってしまったのですぞ。
お義父さんに色目を使う暇なく錬と結ばれるとは滑稽ですな。
これはつまりメルロマルクで善行をし過ぎたあのループと近い状況が錬に発生したという事に他ならないのですぞ。
お義父さんでもなくフィーロたんでも無く錬ですぞ! これはチャンスですな!
女王は錬に王位を与えたのですな。
国民を納得させるのにふさわしい活躍している勇者である錬を据える事で現状をどうにかしたいのですぞ。
クズの権威は失脚という程はしてませんが偽者が城を乗っ取り、やむなく逃げざるを得なかったという事になっていたのですな。
ふむ……錬が王ですかな?
勤まるのですか? まあ、座っているだけでも結構どうにかなるのではないかとは思いますな。
王事や公務なんかは女王が引き続きしてくれるでしょうし、婚約者が本来の役目なのでクズの様にお飾りの王でもどうにかなりますぞ。
メルロマルクに留まった際やシルトヴェルトで代表をするお義父さんはしっかりとお勤めしてましたがな。
何にしても無難な案ですな。
「私も国の代表として行動は致しますが、どうか……我が国の為にこれまで以上に人々を救い、波を沈めてくださるようお願いします」
「お、おい……」
お義父さんが王になる際は散々抵抗する素振りを見せるクズですが錬が玉座に座っている事に関して特に抗議は無いようで黙って見てますな。
「それでは此度の騒動に勇者様方を巻きこんでしまった事を深くお詫び申し上げます」
女王はそう言って深々と頭を下げたのですぞ。
「問題ないよ。これでやっと俺の冤罪も晴れると思うと気が楽かな。エクレールさんの領地もやっと取り戻せるし」
「うむ」
「ラフタリアちゃん達との約束にやっと本腰を入れられるくらいだよ」
「既に永住しているような状況では無いですか?」
「おい! 俺を勝手に王に据えるな!」
お義父さん達が万事解決と言った様子の態度に錬が玉座から立ち上がろうとして声を上げ続けてますぞ。
「何分、国内で確認出来ている貴族も随分と減っているのが判明しています。三勇教の教義を妄信していた私の反対派も数を減らしている今こそ……国内の膿の完全除去をする時でしょう」
女王にも追い風という事ですな。
「ところで勇者様方、三勇教の教皇及び一部の貴族が邪悪な宴を行い、それを弓の勇者様が断罪を行った事に関しては承知したのですが他に国内の治安維持が困難になるほどに貴族や兵士、人々の行方が掴めない事件があるのですがその件に関して取り組んで頂く事は可能でしょうか? 一部が戻ってきているとの報告はありますが何分未解決な問題でもありまして」
女王がポロっと俺たちに尋ねますぞ。
「弓の勇者様がそのような姿になり、国内の貴族を処分したというのは察したのですが……それよりも前から発生していましてね」
サッと、視線がお義父さんと樹に向かいますな。
これは判断を仰がねばいけない事ですぞ。
「さ、さあ? さすがに俺たちも襲ってくる三勇教の連中を返り討ちにしたけど、そこまでのは心当たりは……ないなー」
お義父さんがそう答えるとみんな合わせる事にしたようですぞ。
「……」
エクレアが何か言いたそうにしてましたがワニ男がため息をしていたのでそのまま黙ってしまいましたな。
薄々女王も察しては居るようですぞ。




