なりきりヒーロー
「覆面ヒーローてのは素顔を隠す、目立たない事を意識しているけれど根本は正義感だから手段とかを大事にするの。人質とか取られたら人質救出を第一に動くし、その行動に正当性を求める。あくまで架空の誰かになりきって動くヒーローと思えば良いね」
「なるほどなの。確かにこのタイプは今までのフレオンや弓の勇者なの」
なりきりヒーロー……確かにフレオンちゃんもマジカルフレオンと自身の名前を入れてますが変身衣装が好きですな。
「で、ダークヒーローってのは世間一般の善とは異なる信念を持ちつつ、手段を択ばない。程度もあるけど人質が取られていたとしても殺さないといけない相手を倒すチャンスなら人質ごと仕留めるって事も躊躇わない。闇落ちとか言われたりするし、覆面性とかは実はないね。だから樹はリスーカ姿で平然と活動してるし人に戻る事に興味がない」
「ある意味、今までのループ内では珍しい弓の勇者なの」
「そうなんだろうね。まあ、樹からするとフレオンちゃんというかテオやリーシアさんの持つ正義は昔の自分が掲げる正義だったって温かい目で見てるのかも」
なんかそう言うキャラっぽいねとお義父さんは仰ってましたな。
どうもお義父さんの知るアニメに居るそうですぞ。
「ワイルド尚文みたいなものなの?」
「そこで俺に行きつくの?」
「確かになおふみはワイルドになってもそこまで変わらないなの。口は悪いけどみんなの面倒見てたなの」
「まあ俺は盾の勇者で手段を択ばずってのは中々難しいだろうね」
ここで俺の脳裏にカーススキルを放つお義父さんが思い浮かびました。
……確かにお義父さんは人質を傷つけるとかは出来る人ではありませんでしたが、自身を傷つける事は厭わない方ですな。
ですが……おそらく、このお優しいお義父さんもそこは変わらない気がしますぞ。
「それでクロはブラックサンダー、ダークヒーローや闇が好みってのはわかるなの。だけどヘタレなの。本当の深淵に見られた時は逃げたなの」
「本当の深淵って……ガエリオンちゃん会ったことあるみたいな事を言って……」
「マジであるなの」
ライバルはきっとアークの事を言っているのでしょう。
あの方は違うのですぞ。
凄まじい戦いをするだけでお優しい方なのですぞ。
「お優しい方でしたな。夜は安らかな眠りの為にあるくらいが良いと仰ってました」
「へー……なんか奥が深そうな気がするなぁ」
「ともかく、フレオンちゃんと樹が仲良く出来ないという事はフレオンちゃんの遊び相手が居ないという事に他ならないのですぞ。錬が遊び相手になるならちゃんとお膳立てしないといけませんな」
「元康くん、君はウサウニーで散々暴れたんだから自粛しないとダメだよ」
お義父さんに怒られてしまいました。
くっ……フレオンちゃんのためとはいえ、錬に嗾けられないのは口惜しいのですぞ。
「ラフミちゃん辺りが遊んでくれそうではあるけど……どうなんだろ?」
「フレオンの遊び相手にラフミはならねえけど悪ふざけに便乗はきっとするなの」
「その辺りが良い落とし所なのかなぁ……ラフミちゃんも性質悪いからなぁ。経過観察としようか」
そんなこんなでフィーロたん達が城から脱出して一週間経過したのですぞ。
その間に俺たちは女王と合流することが出来たのですな。
メルロマルクの南西方向から移動中の女王派の者達の部隊に先回りして話を付ける事になった際に、女王がそう挨拶をしたのですな。
女王が率いる部隊が建てた基地に俺たちは来て、作戦本部で話をするのですぞ。
「四聖勇者の皆様、お会いできてこの度は……我が国の問題に多大な迷惑をかけた事をここに深く謝罪致します」
代表でお義父さんが相手をすることになったのですぞ。
ちなみに樹はリスーカのままですな。お義父さんに乗ってますぞ。俺も乗りたいのにお義父さんが人姿で居ろと命じたので人姿なのですぞ。
女王が樹に視線を結構長い事向けてましたぞ。
後は国内の評価が高い錬の方を見てますな。
錬は嫌な予感がしているのかお義父さんを盾にするように数歩下がって後ろに居ますぞ。
余計な飛び火を避けたいと顔に書いてありますぞ。
ちなみに最近はクロちゃんに錬は絡まれてますぞ。ルナちゃんが近寄らなくなったら次はこいつか! と愚痴ってますな。
「えーっと……多少話は通してあるのでご理解して頂いていると思いますが、盾の勇者である岩谷尚文です。こっちは槍の勇者の北村元康くん、で剣の勇者の天木錬で……この子が色々と苦労した挙句、元康くんの魔法でリスーカって妖精姿になってしまった弓の勇者である川澄樹です」
「よろしくですぞ!」
「……ふん」
「よろしくお願いしますね」
「私はメルロマルク国女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。助けに来るのが遅れて申し訳ありません」
「まったくですね。とんでもない国ですよ。滅ぼした方が世の中の為じゃないですか?」
樹がここぞとばかりに当てこすりをしてますな。
「返す言葉もございません。ですがここを乗り越えれば我が国の根深い膿を追い出せるのもまた事実……どうか、多大な迷惑をかけてしまっていますが、何卒協力をして頂きたい」
若干ハラハラとした様子の女王が経過儀礼的な説明をしたのですな。
「うん。正直、メルロマルクの膿に関しちゃ俺と樹がかなり迷惑を被ってるからね。いい加減決着はつけたいと思ってるんだ」
お義父さんも思う所があるので今回の行動はやる気があるのですぞ。
「その……国内で潜伏して立ち往生しているはずの勇者様方が平然と国外にいるという話を耳にして驚きましたが……」
「まあ、あんまり勇者を馬鹿にしないで欲しいって感じだね」
「それと――」
「女王陛下!」
女王が何か言おうとした所で連れて来たエクレアが一歩踏み出して膝をついて敬礼しながら会話に入りますぞ。
「騎士エクレールですね……報告は耳にしております。盾の勇者様に保護されたと。その件に関して私が罰を下す事はありません。出来る限りあなたの言葉を聞こうと思っていますよ」
信頼していた亡きあなたの父の事もあります。と、女王は続きますな。
「継続して勇者様方の力となって居て下さい。此度の事件が解決した後はセーアエットの地位復権を約束しましょう」
「女王様の寛大な慈悲に感謝致します」
「それでですね。我が国の国民は元より貴族の行方が――」
「まどろっこしい話は面倒なんで本題に入りませんか?」
樹が苛立った様子で話をさっさとしろと述べましたぞ。
女王が質問をしようとしているのを意図したのか遮っていますぞ。
「……失礼しました。現在、メルロマルクは三勇教が暴走し城を占拠しています。そしてオルトクレイ、メルティを含めた者たちが国内に逃げ延びて潜伏しながら活動している所まではこちらも状況を把握しています」
「とりあえずあの……王と合流することが必要だと思うのですが俺では拗れる可能性が高く、他の勇者たちも今の王を刺激するのは良くないのではないかと判断していまして、女王様……協力をお願いできないでしょうか?」
「その事に関してはこちらからお願いする事でございます」
女王も目的は同じだとばかりにお義父さんの提案に同意してますな。
「現在、メルロマルクはイワタニ様への憎悪の炎を滾らせている情勢の中で非常に申し訳なく思いますが協力に感謝致します。イワタニ様は避難して頂き、私たちがオルトクレイと合流を図ろうと思っております」
「その辺りは……あまり見つからないように俺も協力しようと思っています。現場を離れるのは勇者としてどうかと思うので」
「ですが……」
「大丈夫、国民を刺激したりはしないから」
出来る限り目立たないようにとお義父さんは付け加えました。




