自虐自粛
「元康くんと樹、それとみんなお帰り。結果はどうだった?」
「楽勝でしたぞ」
「国の連中が駆けつける前に処理しましたよ。驚く位楽勝ですね。実に僕が愚かな行動を予定していたのか、改めて実感しました」
「常時、この調子で激しく面倒でしたよ。岩谷様も弓の勇者を甘やかすのも程々にしないとずっとこれですよ?」
「うーん……まあ樹もそろそろ、自虐ネタをやめて行かない? 過去の自分が許せないのかもしれないけど、許してあげないと樹がいつか壊れちゃいそうで不安だよ。エミアさんやリーシアさんも願ってるからさ」
お義父さんのお優しい言葉に樹は申し訳なさそうに視線を反らしますぞ。
「……他ならぬ尚文さんの言葉ですからね。善処しますよ」
樹はどうやら自虐ネタを自粛する方向に努力していくようですな。
「まあメルロマルクに関しちゃ問題ないようで良かったね。一応シルトヴェルトとゼルトブルの方での波も秘密裏に俺たちが沈める手はずの取引は済んでるけどね。元康くんたちは休んでても良いけどどうする?」
「あんなの疲れにもなりませんよ。フィロリアルに乗ってただけですし」
「了解。とは言ってもヴォルフ達も暴れたい、世界の為に戦いたいってのがあるから……休みになるかもしれないのは覚えておいて」
「ええ、活躍所を邪魔する程無粋ではありませんよ。話によるとどこかの槍の人は無粋な事をしでかしたとか」
「誰の事ですかな?」
お前だお前、とお義父さんの声が聞こえるような気がしますが気のせいですな。
「……で、メルロマルクの波も相変わらず俺の活躍って事になるんだろうな」
ルナちゃんとキールを連れた錬がへそを曲げたように愚痴りますぞ。
「そこは逃げ切ってるから元康くんと樹の活躍で良いと思うけどなーこう、メルロマルクの三勇教の陰謀をくじいた後にさ、国は暴走してても勇者は使命を全うしていたという流れで行けると思うんだよ」
「そうか、ならしっかりとそう言う流れにしろ! 俺じゃない俺の活躍にするな!」
錬が随分と必死のようでしたぞ。
波の手柄はどうするかはこうして錬に集中ではなく俺たちに分散する形になりましたな。
「ま……後はメルロマルクの騒動が収まれば良いんだけどね」
「収まるんですかね? 全人類の敵、盾の勇者を駆逐しないと終わらないって様子でしたけど、あの流れでシルトヴェルトに進軍して返り討ちで壊滅するんですね。わかります」
クスス……と樹は相変わらず皮肉めいた笑みをしますぞ。
「国内の戦力が危ないラインまで下がってるんだし、そこから攻めろってのは無理じゃない? そもそも王様もそれ所じゃ無いだろうし」
「どうでしょうかね。むしろ落とし所は何処にあるのかまったく僕は見えませんが……ああ、キングアゾットが争うなと声をあげれば支持率の関係で聞き入れる国民が出るとか淡い期待がありそうですね」
お義父さんが善行をしていた例を考えると聞く連中もいるような気はしますな。
ですが今度は錬……ではなくラフミが化けた錬の風聞が下がる事件が起こるような気はしますぞ。
で、錬の仲間がライバルを目撃しているので何か錬に報告したそうな顔はしていましたな。
「あの……」
「なんだ?」
「えーっと……」
ライバルに関しては余計な一言はしなくて良いですぞ。
奴の存在が迷惑なのですからな。
「何はともあれお疲れ様。波に参加したみんなの為にご飯は作っておいたよ。今日はゆっくりね」
「わーい!」
「ごはーん」
と、フィロリアル様たちを始めとした波に参加した者たちはお義父さん達が用意した絶品料理を食べて満足をしたのですぞ。
そうして……二度目の波を終えた翌日ですぞ。
「波は鎮めたし、メルロマルク国内で出来る事はほとんどないわけだけど……機会を伺うのはそれはそれで暇だね」
ループを再開した時はタクトが錬と樹を仕留めてしまっていたのでその辺りの残党処理に追われていたので忙しかったのが記憶にありますな。
何だかんだ今のお義父さんは魔物商の弟子という事でゼルトブルの方でもコネクションが出来ているのですぞ。
コロシアムでも安定した闘士の投入もしているのでそろそろ魔物商の弟子から卒業して独り立ちが出来る時期かもしれないですぞ。
そう考えると冤罪から助けることが出来なかったお義父さんとお優しいお義父さんが両方ともゼルトブルでこの人ありの商人に成り上がれるのですな。
さすがお義父さんですぞ。
「することは変わりませんよ。各地を巡って高等存在人間様を刈り取って然るべき所に送ってやれば良いんです」
「樹……君もいい加減、学習してほしいんだけどなぁ……」
「とは言っても煽動している連中がいるのも事実ですよ?」
「そこはそうなんだけどねぇ……暗殺した方が良いとは俺は言えなくてね。というか……さすがにメルロマルクの国民も疲れて来てると思うよ? 憎み続けるのって結構疲れるもんだし」
「僕は全く疲れませんがね」
「擦り切れて行く樹をみんな心配してるので説得力は無いかな」
お義父さんの言葉に樹は言い返したいけど心配するモグラとリースカに黙り込んでしまったのですぞ。
「お義父さん、少し気になるのですが聞いて良いですかな?」
「何?」
「ゼルトブルでお義父さんの立場は大分向上していないのですかな?」
「え? まあ、奴隷商から色々と依託は受けてコロシアムとかにシオンとかヴォルフとか出てもらってるね。何よりサディナさんとかも気まぐれに出場してもらうのは元よりこっちで健全なサーカスも手広くやってるよ?」
「ではゼルトブルからメルロマルクの暗部に遠回しに打撃を与えるとかは出来るのですかな?」
お義父さんにお尋ねするとちょっと考えていますぞ。
「確かにこう……血生臭い話ではあるのだけどそう言う危ない事とかをお金さえ積めばやってくれそうな組織ってのはあるみたいではあるよ。工作員を三勇教に忍び込ませるとかで暗殺とか情報収集とかお願い出来るかもね」
「何だかんだ尚文さんも腹黒い組織とのつながりがありますね」
「樹ぃ……君がどこぞの貴族の屋敷に忍び込んで奴隷にした奴らを秘密裏に売って行けば自然とその辺りのコネクションが出来ちゃうのが分からないのかなー?」
ニコリとお義父さんが笑いながら樹の頬を広げてますぞ。
「ムムム――やめてください! く、痛みがないけど伸びる頬袋でしかりつけるとはやりますね、尚文さん」
「どんな褒め方だよ、樹。ともかく……物騒だけど遠回しに情報収集とか暗殺依頼は出来なくは、無いけどそれがどうしたの?」
「暗殺は俺も樹も出来ますからな。ゼルトブルはどれくらいのことまで出来るのか気になったので聞いたのですぞ」
「尚文さん。ゼルトブルの情報屋のつながりがあるのですよね? ウサウニーに関して調べられませんか? そんなコネクションがあるなら調べるのが一番でしょう」
ギク、ですぞ。
そんな情報屋がいるという事は開拓地の妖精の名前だというのが一発でバレますぞ。
「頼むならやっても良いけど……見つかるかなぁ。というかサラッと暗殺が得意とか……」
く……ライバルが来ている手前、ウサウニーの正体が判明するのも時間の問題ですかな?
「錬さんも探していると思いますよ」
「まあ、見つけて樹は元に戻して貰わないといけないもんね」
「錬さんは元に戻りたいでしょうね」
「樹、君はどうなのかな?」
「元に戻る事に関してあまり興味は無いですね。高等存在人間に戻ってもあまりメリットを感じませんし」
どうやら樹はリスーカ姿を気に入っているようですぞ。




