愛国心
こうして三勇教が画策した婚約者誘拐騒動は一瞬で鎮圧出来たのですな。
ですが別の問題が即座に浮上をするのは明白ですぞ。
言質を確かに取ったのですが国内でお義父さんの指名手配の撤回が行われるのが非常に遅れている様子ですぞ。
婚約者も配下の者に命じているのですがな。
それが判明するよりも前、隠蔽状態で俺はラフミの方へと行きますぞ。
するとラフミは錬の姿で錬の仲間たちと一緒の部屋で休みながら何やら注意をするようですな。
「お前ら、あまり単独で活動するのは控えておいた方が良いぞ。クロも注意するんだぞ」
「んー?」
「それはどういった理由で?」
「勇者たちの不和を国が画策する際に嗾ける理由として仲間を殺させるという話があるそうだ。現状のメルロマルクの暗部がその手を使うには絶好の機会だ」
ヒヤリと言った様子で錬の仲間のリーダーが冷や汗を流しましたぞ。
そして仲間たちと顔を見合わせますな。
「き、肝に銘じておきます」
「何より、色々と悪さをするには人員が足りなくなっている三勇教だ。亜人獣人憎悪で徴兵まで画策している現状からすると、私としても計算外の事も仕出かしかねん。何をするかをデータとして取れて面白くはあるがな」
クックック……と邪悪に錬に化けたラフミが笑いますぞ。
「おー」
その姿にクロちゃんの目がキラキラしてますな。
中二っぽいのでしょうかな?
「な? 槍の勇者よ」
「そうですな」
サッと姿を現して頷きますぞ。
「さっさと女王を帰還させるのが無難ですぞ」
「帰って来る前にもう少し掃除しておくのが後々有利だと私は判断している。今帰って来ても面倒なだけだ。三勇教の面子を潰さねばならんだろう?」
とは思いますが上手く行くか怪しいラインではありますな。
まあ、最悪、ポータルで国外に逃げれば良いですな。
フィーロたんと婚約者の身の安全は最優先ですぞ。
と言った形でラフミが城で待機して……三勇教が正体を現して暴れようとする事件はそのまま時間が過ぎて行くのですぞ。
当然のようにお義父さんの指名手配の撤回が遅れに遅れている状況がしばらく続いておりますな。
挙句、錬に化けたラフミにギルドから届いたのはメルロマルクの各町村で盾の勇者による放火や略奪の報告だったのですな。
「盾の悪魔め! 俺たちのメルロマルクを滅茶苦茶にされてなるものか! みんな! 一丸となって国に志願しよう!」
「「「おおー!」」」
どうやら三勇教はお義父さんのイメージを極限まで下げて、義憤に駆られた愛国心溢れる国民を兵士として補充する狙いがあるようですぞ。
各町村ではそういった流れで兵士に志願する国民が増えているとかなんとかですぞ。
さらに三勇教は声明を出したそうですな。
「剣の勇者以外の勇者は偽者であり盾の勇者の手の掛かった獣人共だったのだ! みんな! 奴らの暗躍から世界を守れ!」
「「おおー!」」
「我らの愛しい家族を奪い去った亜人獣人共に制裁をー!」
「「「おおー!」」」
何やら不穏な雰囲気にどんどんメルロマルクは染まって行っている様子ですな。
善行をしないでいると三勇教の宣伝活動を止めるのが難しくなりますぞ。
そういった情報が怠け豚経由でお義父さんの方にも流れ込んできたらしいですな。
愛しい家族とは盗賊に偽装した三勇教徒の事を抜かしているのですかな?
逆恨みでキャラバンに襲撃を企てた奴にふさわしい末路ですぞ。
「城のお触れを無視してるっぽいね。あの手この手でよくやるなぁ……印象操作って大事って事かね」
「この世の全ての悪、盾の魔王ですか。大変ですね尚文さん。やはりこの国は滅ぼした方が世界の為じゃないですか?」
樹が軽蔑のまなざしでそんな情報を耳にして言いましたぞ。
「人心の制御が悪い方向で進んでるだけでしょ。で、メルティちゃんや王様は俺の指名手配を撤回しようとはしてくれたんだよね?」
「言質は取りましたな」
「ああ、そう言っていたぞ? ちなみにあの王は今、城内で渡した奴隷を三勇教の連中の暗躍から守るのに必死になっているな。さすがに空気で命を狙っているのが分かっている様だぞ」
自室に虎娘を連れて行き、妙な刺客が来ても返り討ちにしようとクズは目を光らせているようでした。
婚約者にも非常に気にかけておりましたな。
あまり眠れない状況になっているようですぞ。
「軽い概要程度しか知りませんがあの王にとって大事な亜人を渡したのでしたっけ? そりゃあこんな国の中心、幹部の目の前でそんな真似をしたら危ないのは馬鹿でもわかるって事でしょうに、良い時間稼ぎですね」
樹もクススと笑っております。
「王様が孤軍奮闘してるって事だよね……まあ、俺としても見たいような気がするけど預けた子の事を考えると不安だな」
「その点は同意ですね。何かあるような事をするわけには行きませんよ」
「ところでさ……ラフミちゃんと元康くん。ゼルトブルの方にある拠点にフォウルって子が殴りこんできたんだけど何か心当たりはないかな?」
お義父さんの笑顔の威圧にサッとラフミは顔を反らしましたぞ。
留守にしていたので虎娘だけを保護してクズに献上したのですぞ。
相変わらず突撃してきたのですな。
「あの王に預けた子のお兄さんらしいよ? 出来れば早めに会わせないとこっちが大変なんだけど?」
「面白いだろう? 王のシスコン仲間だぞ」
「そういうのはあんまり面白くないなー……ラーサさんが丁度いたから押さえつけてくれたんだけどさ。そのラーサさんも一体何をしたのかって俺に聞いて来てるんだけど? ラーサさんの養父さんは察してたみたいだよ」
そういえばパンダは稼ぎの一部を虎兄妹に匿名で渡しているのでしたな。
件の兄妹だとパンダも察したという事ですぞ。
「わかった。ではササッと会わせてやるとするか。通過儀礼的な面白さをこっちにも提供したのだ」
「客観的には面白いのかもしれないけどやめてよね。まったく……もう少しで波が発生するって言うのに……」
色々と立て込んでいて目が回る状況とはこの事ですな。
しかし思うのですが……メルロマルクに留まり名声を稼がずにいるとこのようになるのですな。
三勇教の思う壺な状況に追い詰められていくと言った流れですな。
まあ、聖戦とか抜かしてノコノコ雁首揃えて現れた所で皆殺しにすれば不穏分子の殲滅は出来ると思いますがな。
それももう少しという所でしょうかな。
とにかく、ラフミは虎男を城へと連れて行きクズへと会わせたようですぞ。
この辺りは俺も確認していたのですが前に似たようなやり取りがあったのであまり印象に残る事はありませんでしたぞ。
ただ、城内ではクズへの不信感を大臣共が持っているようで所々で「あの王は今、亜人獣人に懐柔されてしまっている」「盾の悪魔め……卑劣な懐柔を」「ハクコが我が国の城に居る等、メルロマルクの設立以来の不祥事」などと囁いている声が聞こえたのですぞ。
クズ側はガタガタになってきているのは日を見るよりも明らかになりましたな。
そうして……波の時刻が近づいてきたのですぞ。
「今回のメルロマルクの波はどう処理しようか?」
勇者たちが集まってゼルトブルの方のサーカス内で作戦会議となりましたぞ。
「俺が速攻で沈めますぞ」
ライバルがこっちに来る可能性のある波なのは間違いないので速攻で沈めて来れない様にしないといけませんからな。
「その辺りが無難か」
「お土産はもちろん持ち帰りますぞ。フレオンちゃんのご飯にもするのですぞ」
「ああ、なんかそういった話をしてましたね」
「素材の一部は寄越せよ」
「恵んでやりますぞ」
俺にはもう不要な素材ですからな。
お義父さん達に分けて上げますぞ。
そう思いつつ樹に目を向けますな。
あの時は……波を速攻で沈めると同時に樹が襲ってきてそれを返り討ちにして生け捕りにしたのでしたな。
それが今は俺たち側で作戦会議に参加しているとは色々と状況が変わるとはこの事ですぞ。




