援護射撃
「さあ、姫様が名乗ったのだ。分をわきまえないお前に対する、姫の慈悲に感謝し素顔を見せて名乗るが良い!」
一体誰の立場でお前は抜かしているのですかな?
「随分と偉そうですね……まだあんな奴が居たのですか……本当、消しても消しても湧きますね」
樹が馬車の中から殺気を放って弓に手を掛けようとしてますぞ。
「樹、落ち着け。まだ様子を見るだけで十分だ。まあ……妙な気配を放ってるから警戒はすべきだが」
そんな樹を錬が制止してますぞ。
「どちらが分をわきまえない態度かしら? そのような高圧的な態度で接しろと母上は命じていたかしら? 言葉には気を付けなさい」
婚約者がここで騎士へ注意しますぞ。
「はっ……は!」
隙あらば婚約者に刃を向ける愚かな奴らですぞ。
今回もぶち殺してやりますかな?
正体を現したら仕留めるのが良いですぞ。
結果が分かっているので俺も準備をすべきでしょう。
婚約者はお義父さんの方へと顔を向けますぞ。
「部下が失礼しました。この国では大変な苦労をしていると耳にしております。そんな中でもめげずに我が国を盛り上げようと活動なさっていると、私直々に父上と姉上の無礼を謝罪しに来た次第です」
婚約者が謝っても赤豚とクズの罪状は許されませんがな。
まあ、蜂の巣にしようと樹が虎視眈々と婚約者と騎士に馬車の中から弓を構えて狙っていますが……さすがに婚約者に当てさせるわけにはいきませんぞ。
「ラフミ、いざとなったら婚約者は庇うのですな?」
「そうだな。それくらいはしてやっても良いぞ? 介入して出番を削って良い所ではないと思うがな」
とりあえず婚約者をケガさせる訳にはいきませんぞ。
「お義父さんのカッコいい所を婚約者には見せるのはよくありませんな」
「その件に関しては関与する気はない。それもまた面白くはあるぞ? まあ、盾の勇者の好みとは程遠いから難しいとは思うぞ」
「ふ……愛の守護者の割にお前は何もわかってませんな」
ラフミの愛の守護者はこの程度なのですぞ。
俺は愛の狩人ですからわかるのですぞ。
「一体、お前らは何の話をしているんだ?」
錬の指摘は無視ですぞ。
何にしてもお義父さんの事情を理解してここで謝罪に会いに来たと暗に婚約者は伝えに来たようですぞ。
何もしてないのに来るというのは実に不思議ではありますな。
一体どのような条件なのでしょうな?
少なくとも最初の世界では第二の波の後に会いに来て随分と子供らしく騒いでいたらしいですぞ。
後で聞いた話だと……タクトの妹豚に随分と絡まれてストレスが溜まっていたとか聞いたような気がしましたが……どこで聞いたのでしたかな?
「君が俺への謝罪に来たのは……良いとしても、事の原因であるあの王と王女が反省してないんじゃ意味は無いかと思うんだけど……」
「その件で私が代表として、姉上はともかく父上と和解をして頂きたいのです」
今のクズと和解ですかな?
方法が……無くはないとは思いますが、今のタイミングで出来るのですかな?
まあ、フレオンちゃんと再会したループでクズはお義父さんに頭を下げる映像水晶を用意していたので可能性はありますが、このループで出来ますかなー?
毒殺しようとして自爆に見せかける流れに出来ますかな?
赤豚は俺が多種多彩に惨たらしく殺さねばなりませんからな。
そろそろ処分したい頃合いではありますぞ。
どう仕留めるかというとタクトのように苦しめてやりたいですな。
もしくは豚王にそのまま出荷が良いですかな? タクトが既に処理済みですから最初の世界のお義父さんの命令通りに処理も可能なはずですぞ。
問題は女王がこの手を許可するのが難しい所でしょうかな。
秘密裏に運び込んで献上とか出来ませんかな?
「姉上に関しては相応に責任を取らせるよう言付かってはおります」
「責任ね……具体的にはどんな事をしてくれる訳?」
「えー……その件に関してはどのような処罰がお望みかを聞いて、判断する予定です。最低でも……継承権のはく奪は間違いないです」
「なるほど……で、王の方は? まずは、君の母親がどうにかしないといけないんじゃないかな?」
「それは――」
「貴様! メルティ様の頼みを聞けないと申すのか!」
やはりというか記憶通りの出来事のようですな。
騎士がお義父さんと婚約者の話の間に入り込みましたぞ。
この後の流れは間違いなくお義父さんへの罪を掛けるつもりでしょう。
とはいえ……錬も樹もこちらにいるのに三勇教の連中はどういった腹積もりでこんな真似をするのでしょうかな?
全く理解できませんぞ。
「さっきから気になってたけど、まだ話は終わっていないんだから黙っていてくれないか?」
何が起こるか薄々察しているお義父さんがムッとしながら騎士に注意してますぞ。
既に予測済みなようなので何かあっても婚約者は問題ないですな。
ラフミも幻覚を施す準備は万端なのが分かりますぞ。
それとフィーロたんやフィロリアル様たちがみんな警戒態勢を取っていますな。
「あの後方でここぞとばかりに何か撮影をしていますね。貴族共が拷問映像を撮影する時に見た機材を掲げているのが見えます」
既に後方の馬車に居るパンダやゾウが警戒を強めて暗に逃げ道を塞ぐように忍び足で回り込んでいるようですぞ。
メルロマルクに留まった時よりはるかに人員が多いのでここにいる国の連中たちが不審な真似をしたら一発で御用ですな。
むしろ婚約者をどう黙らせるかの方が苦労する状況ですぞ。
というより、これだけの人員が居る中で妙な真似をして逃げ切れると思っている時点でお花畑では無いですかな?
「ねーねーこの人、なんか心にもない事言ってるよー」
ジリ……ジリ……とフィーロたんが怪しげな雰囲気に婚約者を心配するように詰め寄りますぞ。
「姫様に近寄るな邪悪な魔物め!」
もちろんエクレアとワニ男も近くにいて、いつでも婚約者との間に入れる距離に居ますな。
「おやめなさい! 私達は盾の勇者様と和解の為に――」
身の程を知らない騎士が笑みを浮かべて婚約者に切りかかろうとしましたが既にエクレアが抜剣して騎士の剣を跳ね飛ばして喉に剣を向けてましたぞ。
「殺気を放ち、メルティ王女に何をするつもりだ?」
「き、貴様――!? おのれ、盾と野蛮な獣人共め! 姫を人質にするとは!」
「はぁ?」
「何を言っているのだ貴様は?」
絶句したようにエクレアが詰問するように剣を向けて尋ねますが、騎士は笑みを浮かべたままですぞ。
フィーロたんは元より、ワニ男が婚約者を守るように間に入りましたぞ。
「人質って……不穏な事を仕出かそうとしたのはどっち?」
「メルロマルクと盾の悪魔が和解する必要など無い。売国王女にはその為の犠牲になってもらう! 存分に刹那的な勝利を喜ぶんだな! メルロマルクの軍人の風上におけないビッチめ!」
と、騎士はエクレアに吐きつけましたぞ。
「エクレール様になんて言葉を!」
「シオン! 気にするな! 今はメルティ様に何かがあってはいかん」
しかし……エクレアとワニ男がいると俺やお義父さんが出る前に守る事が出来るようですな。
「盾は悪! 最初からそう決まっているのだ! 裏切り者のお前と売国王女共々消えてもらう!」
で、仲間である後方の騎士連中に援護をして貰う手はずであったようですが……。
「おい! 早くしろ! 何を悠長に――」
騎士が後方を見たのですが、既に後ろに居た騎士共は揃って眉間に矢が突き刺さってました。
「グフッ――」
「ガハ――」
「そん――な――」
パリンと映像水晶も同様に素早く射抜かれてましたな。
「妙な真似をしたのが悪いんですよ」
手が早くなり過ぎた樹が既に後方で魔法をぶっぱなす準備をしていた連中を撃ち抜いていたのですぞ。




