デスゾの北村
「ワガママな奴め。オリジナルもこの姿なら文句も言わんだろうに……」
「悪意で行動するなですぞ! どうして貴様はそんなに刹那的な面白さを追求するのですかな? 愚かにも程があるのですぞ! バーカなのですぞ! だから貴様は罠にかかって馬糞チョコ製造装置に改造されそうになったのですぞ」
「フ……抜かしたな? 私の善意を踏みにじるとはな……良いだろう。ならば後腐れが無い姿で盾の勇者に迫ってやろうじゃないか」
と、ラフミは更に姿を変えましたぞ。
その姿はなんだったかというと……首から下がフィーロたんで顔だけラフミだったのですぞ。
うげぇ……ですぞ。一体どういう意図でそんな姿をしているのかわかりませんぞ。
うう、フィーロたんへの侮辱ですぞ。
本能的な気持ち悪さで吐き気がこみ上げてきますぞ。
であると同時に攻撃して消し飛ばすにしてもフィーロたんのお姿なので攻撃もしづらいですぞ。
「どうだ槍の勇者、天使ラフミだぞ? ほら、萌えろよ」
「どうして顔だけ元の姿なのですかな!」
「これが私の素顔だからだ。さて……では行くとするか」
「させませんぞ! ブリュー――」
さっとラフミが顔をフィーロたんに変えますぞ。
「槍の人ー」
「くっ!」
ブリューナクを咄嗟にキャンセルですぞ。
フィーロたんに攻撃などできませんぞ!
俺が攻撃を中断するとラフミは顔を元に戻しましたな。
「ガエリオンの愛から盾の勇者を守る愛の守護者の仕事だ。盾の勇者はテントの皺の数でも数えさせれば良い」
「やめろですぞ! いえ、やめてくださいですぞ! お願いですぞ! 無理やりお義父さんや周囲の者たちにお願いするのは自粛するので勘弁してほしいのですぞ!」
俺はラフミの前に回り込んで頭を下げましたが、ラフミは聞かないとばかりにスタスタと行くので土下座をしてお願いしたのですぞ。
「いいではないかと思うが? 雌のガエリオンが来る前に卒業させておきたいのだろう? 安心しろ、槍の勇者。お前には証拠の映像を送ってやる。いえーい槍の人見てるー? とな、馬糞チョコの件で私も本気になろうと思ってな」
何処の間男だお前は……と脳内のお義父さんがラフミに指摘してますぞ。
出て来てはダメですぞお義父さん! 犯されてしまいますぞ。
「本当にやめて欲しいのですぞ! 馬糞チョコに改造されそうになった件は謝るのですぞ!」
「ほう……まあ良いだろう。二度目は無いぞ? 言葉には気を付けるのだな」
「ハハーですぞ」
ポンとラフミは元の姿に戻って立ち去って行くのを俺は土下座をして待ち続けたのでしたぞ。
「……」
そうしてラフミの気配が無くなってから俺はわなわなと震えました。
くうううう……ですぞ。
危なかったですぞ。色々とですな。
ラフミの弱みである過去の出来事で突いた結果、こんな行動に出られる事になるとはですぞ。
ううう……ですぞ。
俺はよろよろと立ち上がりますぞ。
「あれ? 元康くん?」
するとそこにお義父さんが偶然、現れましたぞ。
どうやらご無事のようですな。
俺はヨロヨロとお義父さんに近寄り、相談しますぞ。
「お義父さん。どうしたらラフミを退治できますかな? アイツを退治できる人の心当たりは有りませんかな? お手紙出したいですぞ」
お義父さんのコネクションにラフミに強い人は居ませんかな?
「なんか目玉の親を持つ妖怪退治の少年漫画みたいなタッチの顔みたいになってるけどどうしたの?」
お義父さんが何を言ってるのかちょっと分かりませんぞ。
脳内のお義父さんが俺にデスゾの北村ってか? 途中まで同じだな、いや……デデデの北村か? その場合は大王はお前でペンギンになるが、と仰ってましたがよくわかりませんぞ。
ペンギンはお義父さんですぞ。
「確かに妖怪ですな。退治屋が欲しいですぞ」
妖怪ラフミを誰か退治できませんかな? 切に願うのですぞ。
ビーストランスで倒せない妖怪なのですぞ。
「なんかよくわからないけど喧嘩は程々にね?」
色々と説明したかったのですが、そんな気力さえも俺は大きく削がれてしまった出来事だったのですぞ。
文字通り、俺にとって非常に危ない出来事でしたな。
ライバルにお義父さんの童貞を奪われるのとどっちが嫌かと言われたら……負けられないくらい、嫌な選択肢だったのですぞ。
ラフミの所為で精神ダメージを負ってから数日後ですぞ。
俺たちはメルロマルクを巡っているのですぞ。
「野生のフィロリアル様がいらっしゃいますぞ!」
この時期、この場所……間違いないですぞ!
「あー……野生のフィロリアルとかがこの辺りに生息してるのかな?」
「この時期には見ますぞ」
「色々とあってこの辺りに丁度いるのだろうな。追いかけて生け捕りにするか?」
ラフミが不吉な事を抜かしましたぞ。
「させませんぞ。野生のフィロリアル様も大事な存在なのですぞ」
「つまらんなぁ? ヴォルフ、狩りに行かんか?」
「ヴォフ……やだ」
ラフミがヴォルフを囲い込もうとしましたが拒否されてますぞ。
ザマァないですな。
「ではテオドール、貴様が行くのはどうだ? ウサギがフィロリアル狩りをするのだ。最近走り込みをしているだろう?」
「あなたの誘いに乗ったらどんな目に遭うか火を見るより明らかではないですか」
「やれやれ……つまらんなぁ。見つかったら全員捕らえるなり全滅させればイベントのカットが出来るかもしれんというのに」
「何を言っているのですかな!?」
「まあ、する意味は薄いか……」
と雑談しているとサッと野生のフィロリアル様が俺たちとユキちゃんやコウ、フィーロたんを目撃されましたぞ。
もちろん他にも大量に馬車を引くフィロリアル様たちもですな。
「「「グア!?」」」
警戒の声を上げております。
「ほら、槍の勇者。今のお前なら走って追いかける事が出来るではないか。そのままずーっと追いかけて行くのだ」
「ラフミの命令は拒否しますぞ。追いかけたらいけない気がしますな」
そもそも俺の記憶が正しければ……場合によっては婚約者が出没する予兆のような出来事では無いですかな?
メルロマルクに留まったループを思い出しますぞ。
このループも似たように留まってしまっていますからな。
あのループとは色々と違って、既に樹や錬が同行している状況ではありますがな。
ですがちょっと追いかけたい気持ちもありますぞ。
この衝動は……ユキちゃんを撫でる事で我慢しましょう。フィーロたんに飛びつきたくもありますがラフミが化けてそうですからな。
「も、元康様。ありがとうございますわ!」
見ているうちに野生のフィロリアル様たちは走り去って行ってしまわれたのですぞ。
「ちなみにお義父さん。野生のフィロリアル様に俺たちが安易に出会わないのはユキちゃん達、フィロリアル様が縄張りに踏み込まない様に配慮して下さっているのですぞ」
「そ、そうなんだ?」
「ですぞ」
「そうなのー? んー?」
フィーロたんは特に理由は無いと言った様子ですな。
ですがサクラちゃんは配慮していたような……? いえ、このフィーロたんはラフミなのでこのような反応をしている……のかもしれないですぞ。
本物でしたらもしやフィーロたん、よくお考えになっておられないという事でしょうか?
最初の世界のお義父さんは野生のフィロリアル様を見たことがあるような話しぶりでしたぞ。
この頃のお義父さん達のフィロリアル様はフィーロたんだけでしたので仲間意識が薄かったらしいというのを聞いた気がします。
あまり考えずによく遭遇したのかもしれませんな。
「さてと……道行く野生のフィロリアルは見たし、特に何もなければ良いんだけどねー」
と、のどかな道を平和にサーカスキャラバンが進んで行っていると……近づいてくる一団が現れました。
「ふむ……やっと登場か、これで私の警護も満了か。フィーロ、これからしっかりと色々と学んで行くのだぞ」
「んー?」
ラフミが何やらフィーロたんに教え込んでますぞ。
何を抜かしているのでしょうかな?
それよりも近づいてきた一団ですぞ。
なんで今回は現れたのでしょうかな?
あんまりお義父さんは有名になるような事をしてませんぞ。
各地を行脚しながらサーカスと奴隷売買をしていただけで、有名なのはラフミが影武者をしている錬と、暗躍して貴族共を次々と血祭りにあげている樹……暗殺者リスーカですぞ。
「たのもー!」
と、高圧的なメルロマルクの騎士が声を掛けてきました。




