コンプライアンス
「ゾウ、コウを始めとしたフィロリアル様たちに色々と教えてくれる優秀な先生であるお前はお義父さんの事をどう想っておりますかな? 諦めているのならば俺も協力しますぞ」
ゾウは良いぞうですぞう。なのでこういう時にもしかしたら淡い恋心も芽生えて居ませんかな?
「あら? そうなの? エルメロちゃん」
うふ、っとお姉さんのお姉さんがゾウにお尋ねしますぞ。
「あなた……自分の事は後回しにしておきながら人の恋路の可能性を見つけた時の反応が盾の勇者様と同じ顔になるのはどうなの……」
「あらー?」
ゾウがため息をしてますな、俺の質問に答えて下さいませんぞ!
そのままお姉さんのお姉さんとパンダ達は飲みに行く流れでお出かけして行こうとしております。
くう……みんな悠長に構え過ぎなのですぞ。
時間の猶予が無いのですぞ。ライバルはお義父さんの攻略法を知っているので遭遇したらあっという間にお義父さんの童貞を奪われてしまうのですぞ。
「時間が無いのですぞ! お義父さんの童貞が奴に奪われかねないのですぞ!」
「また騒いでますね。岩谷様に報告すべきでしょうか」
ウサギ男が通りかかって呟くので睨むとサッと顔を反らして立ち去られましたぞ。
あの時のトラウマが疼くのですぞ!
「ふむ……そんなにも盾の勇者の童貞が奴に奪われるのが嫌なのか?」
と、そこで聞きたくない声がしましたぞ。
振り返ると事もあろうにラフミが立っておりました。
「お前には言ってませんぞ!」
ラフミは論外なのですぞ。お義父さんのお相手は健全に女性が良いと、お義父さんからのお言葉なのですぞ。
「まるで聞いて欲しいと叫んでいたのは槍の勇者、お前では無いか。何より、盾の勇者もお前のその辺りに手を焼いているようなので私も介入しようとな」
「なんですかな? お義父さんと良い感じの人物がいるのを知っているのですかな? お義父さんの童貞を解消してくれる人物ですぞ」
「盾の勇者の童貞を解消する方法などそこまで難しくは無いだろう? 何だかんだ周囲は意識している者ばかりではないか、ちょっと小突けば容易いではないか」
「そう思っていると身持ちの硬さに後れを取るのですぞ」
俺の経験談なのですぞ。
「フ……ずいぶんと苦戦しているという事か。まあ処女の方は焚きつければ現状は容易そうだが」
「ライバルのようなセリフを言うのをやめろですぞ!」
ライバルは童貞を当初は諦めて処女を狙っていましたが今は元に戻っているのですぞ。
記憶の中のライバルが「だから狙ってねえなの! おめーいい加減、学習しろなの!」 と述べてますが俺は信じませんぞ!
「この前、ゼルトブルとシルトヴェルトの風俗街をお義父さんとお出かけしてしつこく話題にしたら長いお時間お説教されてしまったのですぞ」
ちょっと元康くん、この件に関して何を心配しているのかわからないけどクドイからやめて欲しいんだよね? とお義父さんは俺にそれはもう注意して反省文を書くまで見張っておりました。
見られてゾクゾクとしましたが問題は解決してないのですぞ。
「なるほど、槍の勇者がどれだけ説明しても事態の重さを理解していないと、そう言いたいのだな?」
「ですぞ」
お義父さんの童貞をライバルに奪われるというのは俺にとって大敗北なのですぞ。
何がなんでも阻止しなくてはいけないのですぞ。
「ああ……ライバルにその身を捧げてしまったお義父さん、あなたのその献身が最悪の事態を避けてくれたのは事実ですがダメなのですぞ」
「そうか、そんなにも雌のガエリオンに盾の勇者の童貞を奪われるのが、何をしても嫌なのだな?」
「さっきからそう言ってますぞ」
「では、この私が盾の勇者の童貞を卒業させてやろうではないか」
と、ラフミが抜かしました。
「何を言っているのですかな!」
よりによってお前がお義父さんの童貞を奪うとはどういう事ですかな!
「フ……槍の勇者よ。そんなにも盾の勇者が雌のガエリオンに奪われるのが嫌なのだろう? ならば私が人肌脱いでやろうと言っているのだ」
「論外ですぞ!」
「そういうな。私とてガエリオンという名に関して思う所はあるのだ。あのチョコレートで色々と盾の勇者にしてしまったのでな」
最初の世界のバレンタインで起こったあの出来事ですぞ。
お義父さんが助けを求めたあの出来事は今でも俺は覚えております。
このラフミはあのチョコレートモンスターの成れの果てなのですぞ。
「槍の勇者よ。勇者になる前の世界で他の女共がなぜ盾の勇者に手を出さないかと言うとな。あれは誰とも一線を踏み込まない。だから困ったときに声を掛ければ良いと無意識に思わせてしまうオーラを持っているのだ。むしろみんな仲良く、関係が変わる事を周囲に恐れさせる存在だぞ?」
「くそですぞ! ですがお姉さんのお姉さん達は違うのですぞ。お義父さんもそんな存在では無いですぞ」
ループ次第ではお姉さんのお姉さんやパンダはお義父さんとやってますぞ!
ですから出来るはずなのですぞ。
「御託は良い。槍の勇者、貴様は盾の勇者に歓楽街に行って経験をさせようとしたではないか。つまり貴様は相手が雌のガエリオン以外ならだれでも良いという事に他ならんだろ」
「く……」
これは否定できない状況になってしまっていますぞ。
「ならば私でも問題あるまい?」
「ダメなのですぞ! お義父さんにショックを与えてはいけないのですぞ」
お前と関係を持ちそうになった最初の世界のお義父さんはしばらくショックを受けてしまわれてましたぞ。
震えるお義父さんを俺は覚えておりますからな!
「暴走していた私ならともかく、今の私はあのような無様な真似はせん。なーに、私の凄腕テクを盾の勇者にしてやればお前も満足する」
「だからお前は論外だと言ってますぞ」
「なんだ? 何が気に食わんのか。ああこの姿か? 盾の勇者は外見に拘らない、内面重視の奴だろ? 私のようなサバサバ系でも好意と善意を見せれば相手をしてくれるはずではないか」
「お前のはサバサバでは無いのですぞ」
自称サバサバ系等信用できませんな。
「お義父さんは守ってくれるお姉さんタイプが良いのですぞ!」
「私は愛の守護者だぞ?」
「意味が違うのですぞ!」
「ワガママな奴だ。ではこの姿で行けば問題あるまい」
ボン! っとラフミが大人になったお姉さんの姿に……突如変身しました!
く……なんてお姿ですかな!
このループのお姉さんは幼い姿ですので、この姿で俺を睨むのは何とも嫌らしいですぞ。
「絵的にも貴様にとって見覚えのある姿だ。最初の世界の盾の勇者もオリジナルのこの姿を見て笑みを浮かべていたではないか」
「お姉さんではお義父さんは関係を持つのに時間が掛かるのですぞ!」
記憶の中のお姉さんが切ない顔をしている気がしますぞ。
確かにお姉さんはお義父さんに対して非常に奥手でしたからな。
最終的にお姉さんとお義父さんが関係を持ったのはずいぶんと後だったのですぞ。
「そういうな。盾の勇者もこの姿でお姉さんムーブで行けばイチコロだろう。幼い姿から成長しているのではなく、私が化けていると教えれば抵抗もないはずだぞ」
元康、このままの姿でラフミを行かせてはいけない。このままいかせたら将来、お義父さんと再会できてもお姉さんに撲殺されるのは元より俺にとって最悪の結末である元の世界に戻されてすっかり忘却させられるようになる。
そんな危機感が脳裏を過ったのですぞ。
世界はともかく俺の危機なのですぞ。何が何でも阻止しなくてはいけないのですぞ。
「ダメですぞ! 俺が色々な意味で抹殺される未来しか見えないのですぞ! 何よりお前が消去されるのですぞ! コンプライアンスを考えろですぞぉおおおお!」
思いっきり地面に寝転がって駄々を捏ねますぞ。
何やら騒ぎを聞きつけて覗きに来る連中が居ますが俺とラフミを見てすぐに去っていきますぞ。




