力無き正義(煽り)
「イダダ! ぐぬぬぬ……」
「ザァコザァコー!」
フィーロたんがラフミから教わったメスガキ言語を燻製にぶちかましましたぞ。
「いや、ちょっとフィーロ? あんまり煽らないように」
「えー?」
「そうそう、その調子ですよ。良いじゃないですか、フィーロさん。もっと言ってやってください」
「ちょっと樹?」
「フィーロたんに妙な言葉を定着させてはいけませんぞ!」
「ザァコ、ザァコ。せーぎ言ってたのに弱くて大変だねぇー力無き正義は無力だって誰か言ってたよー無力ー!」
「いつのまにか煽り力が上がってる……ラフミちゃん、絶対暗躍してるでしょ……大丈夫かな。他の子も真似したら大変だ」
「おのれぇええええええ――!」
ズバン! っと燻製が敵意を見せた瞬間、燻製の耳が射貫かれましたぞ。
「え、は……は、は?」
麻痺で痛覚が鈍感になっているので一瞬、燻製は何が起こったのか分からないと言った顔をしてましたな。
サッと樹が千切れた耳を拾って目の前に放り捨てましたぞ。
「――っ!? ギャアアアアァァーー!?」
「やかましいですね! この程度で叫ぶとは情けない!」
ズタン! っと樹は沈黙効果のあるサイレンスアロー辺りを燻製にぶちかましましたぞ。
「ッ! ーーッ!」
「大して痛くも無いのに騒ぐもんじゃないですよ。この国の奴隷達がどれだけ傷みを、叫びを上げているのか貴方は知らないからそんな声を上げれるんですよ。いえ、知っていても理解できないのでしょうね」
さて、と樹は寒気がするような笑みを浮かべて、燻製達を見つめてからお義父さんに声を掛けますぞ。
「ここまでされると逆に清々しい気持ちになりますね。これがコイツ等の正体とは……本当、尚文さんに頭が上がりませんよ。誠に申し訳ありませんね。何度も謝るしか出来ませんよまったく!」
「い、樹、もう気にしてないからさ……程々にね? フィーロが煽ったのがいけないんだし」
「んー?」
「そうは行きません。僕は調子に乗って貴方を何処までも、正義を確信して残忍になりましたからね。五体投地で謝れば良いですかね」
「卑屈すぎて嫌みになってるよ樹」
はぁ……と、お義父さんがこれまでに無いほど深くため息を吐いてましたな。
「結局、コイツ等は何を企んで居たのですかな? 何か暴露したとは思うのですぞ?」
豚の言葉がわからないのでお義父さんに翻訳をお願いしますぞ。
ユキちゃんにして貰っても良いですが、ユキちゃんなりの解釈が入るので、間違ったら大変ですからな。
お義父さんに教えて貰うのが良いでしょう。
「まあ……なんて言うの? リスーカになった樹をだまし討ちして売っちゃった事に気付いたコイツ等は、その権力を維持したまま好き勝手活動をしていたみたい」
錬が来訪した辺りで気付いたらしいですぞ。
そりゃあ錬がイヌルトになったと述べる話が樹が行方不明になった日に、樹を騙る似たサイズの獣人を売って一夜の酒代に変えた日なのですからな。
もちろん燻製達は手を使って樹を取り戻そうとしたのも後の祭り、売り払った業者が確認を怠ったそうで行方が掴めなくなってしまったんだそうですぞ。
だから燻製達は考えたらしいですな。
何処かで樹を見つけたら問答無用で口封じに殺し、全ての責任を盾の勇者であるお義父さんになすりつける計画だったようですぞ。
弓の勇者であるイツキ様は盾の勇者に殺された! ですな。
樹からしても想像通りの、お義父さんへ冤罪を被せるなら何をしても許される理論だったのですぞ。
そんな樹……リスーカをサーカスでチラッと見かけた。
間違い無い。けれどお義父さんや俺が居たら阻止されるかも知れない。
なので留守を狙って襲撃に来た……と言う流れだそうですぞ。
何処までも愚かな連中で、だからこそこざかしい悪知恵を画策してこうして捕縛されたのですぞ。
「ショーの最中に狙えば良かったんじゃ無いの? って思うんだけどね」
「そこは僕仕込みの正義行動でしょう。結構な頻度で夜間に押しかけて悪人を捕縛するって手を使いましたから」
「それもあるけど目撃者が多い状況で下手に樹に逃げられたら困るってのもあるんじゃない? 他に幾ら指名手配の獣人だと叫んでもさ。抵抗もしてない獣人を問答無用で殺す様を周囲に見られる事になる訳だし……抵抗してそれこそ勇者としての力を一般人に目撃されたらね」
「その可能性もありましたか、どちらにしてもこうして這いつくばっている状況では結果は見えてましたね」
「実に愚かですな」
「ええ、許す気はありませんでした。何かする事無く頭を下げれば少しは手心を加えたかもしれなかったのですがね」
「所で錬は?」
「ルナさんから逃げてここに居ませんよ」
ああ、だから先ほどから姿が見えないのですな。
「キールくん辺りが一緒かな? 連絡しておいた方が良いかな? ラフミちゃんにお願いした方が早いかも」
「何にしても……」
樹が転がって居る燻製共を踏みにじりながら毛を逆立たせて邪悪に笑いますぞ。
「樹、邪悪に笑っている」
「おっと、表情が隠せませんね」
飛んで火に入る夏の虫とばかりに樹が笑っていましたな。
「どうしたもんかね……ちなみに俺が仕入れた情報によると弓の勇者一行の風聞、メチャクチャ悪くなってるんだよね。なんだかんだ樹のお陰で制御出来てたって事かも知れない」
ちなみに樹の影武者とばかりに一人が弓を持って覆面をしていたとかですな。
あっさりと暴かれてますぞ。
「尚文さん。コイツ等の処遇なんて決まってるじゃないですか、シルトヴェルトの貴族に売りつけるんですよ。もちろん、拷問目的で」
「「「ッ! ――!!」」」
樹の元仲間である燻製共は揃って抵抗しようとしていますが全く動く事が出来ない様ですぞ。
「僕が受けた地獄を追体験して貰いましょうかね。ああ、もちろん頑張って生き残って下さいね。亜人獣人より上の存在である人間なら生き残る事は容易いはずですよね。上位存在なんでしょ? 頑張って下さい」
さあ! っと、樹は魔物商の配下とお義父さん達に燻製達を奴隷にするように命じましたぞ。
「元仲間だけど愛着とかそう言った感情は消し飛んでしまったよね……身から出た錆、もう少し深く状況を見る事さえ出来れば良かったとすべきか、こっちも被害が出てるからね」
負傷者が出ている手前、お義父さんも手心をするつもりはないのですぞ。
「ブ、ブブ」
おや? 豚の麻痺が若干弱いのか喋ってますぞ。
「ああ、乗り込んだ貴方たちが帰ってこなかったら疑う連中がいると? 残念でしたね。その辺りの対処を面白ければしてくれる方がこちらには居るんで問題無いんですよ」
「なんだ? 呼んだか?」
と、ここでラフミが登場ですぞ。
「ふむ、なるほど」
ポンっとラフミは燻製達に化けましたぞ。
「どうやらこのテントには探していた犯罪者はいなかったようだ! では失礼する! 私達は正義で忙しいのだ!」
と、燻製そっくりな声音で言ってテントから出て行きますぞ。
「後は宿屋辺りにでも目撃者として周囲に認知させて姿を眩ませれば十分ですよ……わかりましたか? ええ、その顔が僕は見たかったんですよ。ははははは」
樹がかなり見られてはいけない顔で告げましたな。
その顔をウサギ男と何時の間にか居たリースカは眉を寄せて見つめてました。
「ブエエエエ……」
「正義の皮を被った悪な連中だからしょうがないとは思いますが……避けて通れない因縁と片付ける事だったとしましょう。じゃないと……どうにもなりませんし、素直に謝罪すればこっちも多少は擁護できたはずなんですけどね」
そんな訳で燻製達は樹の指示で奴隷化させられシルトヴェルトの方で樹の奴隷体験を追体験する事になったようですぞ。
追加報告を後で閲覧する事になったのですが、燻製は随分と良い感じに叫んで拷問を喜ぶ連中は楽器の如く楽しんだとかですな。
「アイツらの売却金額で今夜は一杯楽しみましょうー! ほら、僕の奢りですよ! 皆さん楽しんでー!」
「楽しめないって」
「アイツらは楽しんだんですから僕はテンション高く楽しまないと気がすまないのですよ! ほら、リーシアさん、ウサギの貴方もぐいっとして下さい」
「ここまで楽しくない祝い事は初めてですよ」
「ぶええええ……」
なんて様子で樹はウサギ男達に盛大に絡んでいたのが印象的な出来事でした。




