正義の襲撃
「で、話は戻って残り4割の男は何なんだ? 自分を拷問したいとでも思っているのか?」
「それは除外しての話、屈強だから戦力としてほしいってのが三割」
「残り一割は?」
「ノーコメント。まあシオンが良ければ斡旋しても良いけどね。積まれた金銭は中々だったかな。その辺りは亜人姿のテオの方が割合高いけど」
「おい」
と、何やらワニ男が本気で困ったように眉を寄せてましたな。
なんて雑談をしながら今夜の奴隷売買は行われて行くのでしたぞ。
と、思っていたのですが……町内の屋敷や秘密の売買会場を梯子している最中の事……魔物商の配下が俺たちの所へと駆けつけてきたのですぞ。
「どうしたの?」
「そ、それが……」
ヒソヒソとお義父さんに魔物商の配下が耳打ちしておりますぞ。
深々とお義父さんはため息をしてましたな。
「まだ商談がある予定だったんだけど、帰ろうか……先方に伝達をお願いするよ」
「は!」
と、魔物商の配下は敬礼してから行こうとしていた所へと向かって行ったようでしたぞ。
「どうしたのですかな?」
「テントの方で問題発生って所……だね。正義の味方ご一行の襲撃とでも言った方が皮肉が効いてるのかな?」
「大丈夫なのか?」
「一応って所かな。まあ、急いで帰らないといけないみたい」
「よくわかりませんが帰りますわ」
ユキちゃんの言葉に同意ですぞ。
という訳で俺達は予定を変更してテントへと戻りました。
「樹」
サーカステントに帰るなり、お義父さんはテントの中央で待ち構えていたとばかりの樹とウサギ男に声を掛けましたな。
おや? パンダ一家も近くでため息交じりに待機してますぞ。
一体どうしたのですかな?
と、思っていると麻痺して転がされている燻製共が居ますな。
「ああ、尚文さん。ワザワザ帰って来たんですか? 別にやる事自体はいつもの事ですし、早急に報告する程じゃないと思いますが?」
「そうも言ってられないでしょ」
「一体何があったのですかな?」
どうも燻製共と樹が遭遇してこうして転がされているのだけはわかりますが、経緯がまるで分りませんぞ。
「何があったも何も……岩谷様たちが出かけてしばらくしたらいきなりこいつらが『我らは弓の勇者一行である! ここにとんでもない重犯罪者がいるのを見かけた! 正義の名の下に鉄槌を下しに来た!』と乗り込んできたんですよ」
ウサギ男が事情を説明しますぞ。
「うん。俺もそこまでは聞いたんだけど樹……」
樹の元配下連中ですからな。
その後はどうなったのかは見るだけでわかるような気はしますがお義父さんが念のために尋ねるようですぞ。
「最初は尚文さん。貴方の補佐をしている者たちが応答してましたけど、こいつらの目的は当然のように僕の様でしたね。もしやと思ってさりげなく顔を覗かせたら鬼の首を取ったように有無を言わさずに殺そうとしてきましてね」
「制止を振り切り文字通り飛び掛かる勢いでした」
シルトヴェルトの使者がケガをしたらしく傷の手当てを受けてますぞ。
「ブー」
怠け豚は颯爽と退避していたのか無傷ですな。
こういう時こそ、こいつらの足止めの為に前に出ろですぞ。
「なんか一人は妙な叫びを起こしながらアタイに飛び掛かってきたねぇ……『今度こそお前にまけねええええ!』 ってね」
パンダも何やら狙われたようですな。
「何か恨みでも買っていたんじゃないの? ラーサ……」
ゾウがパンダに尋ねてますぞ。
「まあ傭兵なんてそんなも……いや、知らないねぇ、こんな奴ら……アタイは覚えてないよ」
「今度こそって所で変な所で恨みでもあったって事でしょ」
「はん! 傭兵やってりゃどこかで恨みを持たれる事もあるさね! 一々気にしてたらやっていけないさね。なんだい? こんな程度でもアタイは叱られるさね?」
と、パンダは眉を寄せて養父と祖父へと言いますぞ。
「そこまで言わないさね。私だって恨みくらい持たれるさね」
「あんな連中に恨まれたとして気にするだけ無駄だ。絡んで来たら散らせば良いだけだろう」
養父も祖父もパンダに注意する気は無いのですな。
ですがパンダは叱られるとでも思っていたのか嫌味を言っていたみたいですぞ。
「どうも卑屈な返事をするようになっちゃったさね。無理やりやらせていると思ってるさね?」
「ある程度、仕事はさせた。嫌ならやめるか?」
「べ、別にそんな事言っちゃいないさね。任された仕事はやり遂げるさね」
「あら」
「エルメロ、あの飲んだくれみたいな事言うんじゃないよ!」
パンダは仕事内容に関して不満は無いようですぞ。
ゾウもそんなパンダの反応を茶化すように口元に手を当てて笑ってますぞ。
「なんだい! アタイをからかうのはやめるさね! さっさと話を聞くのが良いんじゃ無いかい?」
「そうだね。で、コイツ等……確かに樹の仲間達だったと思うけど、一体何が目的で来たんだろうね」
「必死の形相でしたね『イツキ様の名を騙った罪、さらに悪事を重ねるお前に正義の鉄槌を下す!』 って抜かしてましたよ」
ゲシっと樹は燻製の顔面を足蹴にしてましたぞ。
弓を使わないのでダメージはほぼ入りませんがニヤニヤと不敵な笑みで笑ってましたな。
「―ッ このぉおおお……ニセモノ、がぁあああああああ! こ、ころぉ」
殺すの発音でしたぞ。
同様にどうにかして立ち上がろうと麻痺で動けないにも関わらず樹への殺意を全開でいるようですな。
「ブ、ブブ……ブヒ」
「おお、ここに来て命乞いかー『私は信じてましたよイツキ様、素直に申せず申し訳ありません。全てはマルド達に脅されてたんです』って……」
「そうですかそうですか、それで? 弓の勇者一行の偉大な仲間達が何をしようとしていたのですか?」
と、目が全く笑っていない樹は話を聞いていますよと言った微笑を浮かべてますぞ。
「ブブ、ブ……ブブブ、ブブ」
で、樹の元仲間である豚が何か鳴いてましたな。
お義父さんは眉を寄せて目を細めて哀れむような視線を向けてましたぞ。
で、樹はと言うと誰かコイツ等を後ろから殴れと何度も合図を送ってきてますな。
しょうがないですな。
樹の指示通りに従ってやりましょう。
スリープランスで良いですかな? と後ろでアピールすると頷かれたのでやってやりましょう。
「喰らえですぞ!」
「ブ――ブヒャ!?」
「は、ざまぁみろ! イツキ様、俺を信じて――」
「信じるわけないでしょうが! 元康さん。ああ、そうそうマルドで良いですか。そいつだけは寝かさないで下さい。次の絶望を叩き込みたいので」
クイッと樹は親指で首を切る動作をしたのでそのまま昏倒させてやりましたぞ。
「ふう……やり返すというのは中々良いモノですね。ハハハ。その裏切られたと絶望しながら昏倒する顔が見たかったんですよ!」
なんでしょうか、最初の世界のお義父さんらしい所が樹にはありますな。
俺達は樹とその仲間達のやりとりに介入する隙間は無いようですぞ。
「さて……」
仲間達が次々と昏倒している状況で燻製は顔を青ざめていますぞ。
「い、イツキ様だった、のですね! このマルド、真実に気づけず上げる頭がありま、せん。が、何卒、俺だけでも慈悲を下さると幸いです」
激しく脂汗を流しながら命乞いのセリフを言ってますな。
「いや、自分だけ助けては逆効果だと思うけど……」
お義父さんも心の底から呆れてしますぞ。
「白々しいですねぇ……百歩譲って僕がわからなかったというのは許すとしても、声を掛けてきた亜人獣人を不意打ちで昏倒させ、奴隷商人に売るというのは正義とやらを掲げる者としてして良い事だとは思えませんがね。あれだけ僕が禁止にしたいと言っていたものを一体、この耳は何を聞いて居たでしょうね」
グイっと樹は力の限り燻製の耳を引っ張りますぞ。




