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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
外伝 真・槍の勇者のやり直し
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リスーカのお勉強タイム2

「ちょっと僕も見てきた不幸に酔ってますかね……まあ酔って話せる様になったのなら少しは回復したんだと思う事にします。話を続けますね」


 などと自嘲しながら続けました。




 やがて……ひんやりとした感覚に目が覚めたそうですぞ。


「う……」

「気づきましたか?」


 ぼんやりとした視線のまま何度か瞬きした所で、視界がクリアになった樹の目に映ったのはモグラの獣人が膝枕をして手当てをしてくれていたのですぞ。

 これまでの出来事が夢だったらと、樹は周囲を見渡し貴族の屋敷にある牢屋に入れられているのを改めて理解したのですな。


「どうにか止血と応急手当はしたのですが……」

「あなたは……」

「私は……エミア=ニルウェン=リーセラ=テレティ=クーアリーズと申します。貴方と同じ、奴隷としてここに連れて来られました」


 朦朧としたまま樹は出会ったモグラの介抱を受けながら話をしたそうですぞ。

 手当をされ、話を最後まで聞いてくれているモグラに樹は久しぶりに優しさを感じて涙を流していたのですな。

 モグラはそのまま樹を膝枕して優しく寝かしつけてくれていたのですな。

 それからしばらくは拷問の日々だったようですぞ。


「ほら! アイヴィレッド嬢、お前もこの罪深き悪魔共に神聖なる贖罪の一撃を施すのだ」

「嫌です! 私は、そんな事、例え何があってもしません!」


 ちなみに樹を庇ったリースカは連日に樹を拷問する場に呼ばれてむち打ちをするように命じられたのですがその都度、大声で拒否したのですな。

 どうもこの貴族は獣人を拷問する楽しい遊びの楽しさをリースカに教えようとしていたようですぞ。

 あれですな。最初は拒否していたけれど徐々に手を付け逃れられなくなるという代物でしょうな。

 ですがリースカは何があってもせずに自分が鞭で打たれても悠然と立ちはだかっていたとの話で、貴族は相当いら立っていたのだとか。

 樹もリースカのその勇気ある態度があったからこそ、正義はまだ世界に残っていると思えていたんだとか。


「強情な奴だ!」


 リースカが何処までも拒否するのでそのまま別室に連れていかれてしまったそうですな。

 戻ってきた貴族はより強く樹にむち打ちを含めた拷問をしたのですぞ。


「ああぁあああああ!?」

「ふん! もっと叫べ!」

「ま、まだイツキさんは体力が回復していないんです! そのままじゃ死んでしまいます!」

「口答えをするな! ふん! では次は余計な事を言ったお前だ! 楽になれると思うなよ!」

「い、良いでしょう! 私が、イツキさんの分まで受けます!」


 スッと立ち上がり、痛みから解放されることを内心安堵していた樹はそこで自身を恥じたと改めて語ったのですな。

 ですが虐待されて動くことすらできなかった樹は痛みに悶絶しながら牢屋に転がされて寝転がっていたとの話ですぞ。


「う、うう……エミアさん。申し訳……ありません」


 モグラは掠れる声で述べる樹に無言で優しく微笑んで首を横に振ったのですな。

 大丈夫、あなたは悪くない。

 との態度に樹は涙したとの話ですぞ。


「獣人が何をふざけた茶番をしているんだ!」


 バチバチっと貴族が奴隷紋を作動させてモグラを締め上げましたぞ。


「ああああぁああああ――!?」

「ふん! 不愉快なものを見せおって! 今夜は長いと思うがいい!」


 そうして樹の目の前でモグラへの拷問は長く続いたのですな。

 ボロボロになるまで拷問されたモグラは息も絶え気味でしたがそれでも耐えきり、二人で牢屋の中、寝転がされたのですな。


「うう、エミ……アさん……」

「は、はは……大丈夫……ですか、イツキさん……」

「ぼ、ぼくは……」


 どうしてこんな、と樹はこれまでの日々を忘れるほどに今の状況に絶望をしつつ目の前の自分の分まで拷問を引き受けてくれたモグラの事で頭がいっぱいになって行ったそうですな。

 モグラはボロボロで毛並みは乱れ、体中に無数の傷が出来ていましたな。

 もちろん樹も同様で相当衰弱していましたぞ。

 魔法を使おうとすると首がしまって使わせてくれない。

 せめて……と樹は弓にある調合技能で薬をモグラに出して転がせたのですぞ。


「傷薬……です。どうかそれで」


 貴族が居ない今、わずかでも傷を治すことが必要だと持っている物資を駆使してどうにかする手立てを樹は考えたのですな。

 モグラは転がってきた傷薬を手にして……衰弱をした体で樹の傷口に薬を塗り始めたのですぞ。


「ぼ、僕ではなく、あなたを先に」

「大丈夫……」


 スッと傷薬が効果を発揮して樹の傷が徐々に治って行ったのですぞ。

 ですが体力までは回復しませんぞ。

 樹の手当てを終えてからモグラは残った僅かな傷薬で少しだけケガを治したのですな。


「どうして……あなたの方が酷い傷なのに……」


 尻尾の半分を切断されてはいたけれどモグラほどの酷い状態ではなくなっていた樹は聞きました。


「もう、怯えたり、逃げたくないんです……」

「それはどういう……」

「私は、住んでいた集落に奴隷狩りが徒党を組んで襲ってきた時、みんな殺されたり連れ去られたりしました。そんな中で……集落の、家族が殺される現場を恐怖で震えて何もできずに居ました」


 モグラは遠い目をして後悔を語ったのですぞ。


「家族を、親を……目の前で殺されて泣いている子に何もしてあげられなかった。あの子のお母さんはお腹に子供が居たのに、目の前でお腹を裂かれて……だからもう、目の前で辛い目に遭っている人が居るなら、その人の代わりに成れるなら、もう満足なんです」


 それはモグラから聞いた奴隷狩りの現実、樹は今まで自分がどれだけ驕っていたのかを自覚したそうですぞ。

 もちろん奴隷なんて制度を撤廃させるし奴隷を使役している連中には罰則を下そうと思っていた。

 けれど、奴隷狩りをする連中がこんなにも悲しい事を仕出かしているなんて他人事でしかなかった。

 過去の地球にも存在したのだから、異世界で、魔法で、ファンタジーなのだから奴隷制度くらいあっても不思議じゃない、くらいの軽い認識だった。

 その当事者たちがどんな風に考えて生きているのか、想像すら出来なかった。


 なんて甘い正義感で生きていたんだと……そして、このモグラが自分の身よりも他人を救いたいという心に深く感銘を受けたんだそうですぞ。

 やがてモグラは樹の手当てをした後、両手を合わせて空へと祈ったそうですぞ。


「どうか盾の勇者様がこのような悲劇を救ってくださりますように……」


 モグラの祈りに樹はこの世界の勇者がどんな存在なのかわかったのでしょう。

 であると同時に盾の勇者である尚文がどれだけ亜人獣人たちに期待されていたのか、それをこの国の連中がどうやって踏みにじろうとしているのかを理解できた。

 そう、苦しめられている亜人獣人たちにとっての希望が盾の勇者……その勇者が非道な人間であればそれだけで希望を潰せる。

 だからこそ盾の勇者は外道でなくてはならない。

 決闘をした時の事を樹は思い出し、赤豚やクズの顔が思い浮かんでいました。

 なるほど……あれが人間というモノかと。


『いい加減、この国がどういう国なのかを自身の目で確かめるべきだと言ってるんです。誰かを責めるのは楽で楽しいですよね。あなたも勇者なら慈悲深くあるべきではありませんか?』


 ウサギ男の言葉が樹の胸に深く深く刺さったのですな。

 次にお義父さんの言葉ですぞ。


『言った通りの意味だよ。知っているかい? この世で最も人間が残酷になるのは自分を正義だと確信した時って言葉があるんだ。何せ自分が正しいと確信している訳だからね。何をしても許される。そんな確信が人間をどこまでも残忍にするんだよ』


 亜人や獣人を苦しめることが正義だと確信している者の残忍さを樹は身に染みてわかったのですな。

 お義父さんが奴隷商人をしている。心からお義父さんを慕っている奴隷たちの姿は、きっと本当に慕っている。

 モグラの体に刻まれている奴隷紋は貴族の事を悪く言う事に反応はしていない。

 樹にとって奴隷紋は洗脳に近い効果があると思っていた。

 言えないけれど意のままに命じて従わせる。

 そんな代物なのだろうというふんわりとした認識だったのですぞ。

 ちなみにお姉さん達や今の樹を拷問するように自らむち打ちをする貴族と、狩りの獲物として領地内で逃がして狩る貴族が居るそうですぞ。


 つまり、お義父さんたちが正しくて、自分が間違っていた。

 物事を正確に見えていたのはお義父さんで、都合の良いモノを見させられていた……いや、そういう事の方が自分の甘い正義感には都合が良かったんだ、と樹は思ったそうですぞ。


 けれど、どれだけ後悔しても、もう遅い。

 彼等の希望である盾の勇者やその配下のウサギ男の説得を無碍にして払いのけたのは自分自身なのだから。


 そんな拷問をされる日々を樹が打破する事件が起こったのですぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奴隷狩りや三勇教の連中にもこの魔法をかけられたら良いな。そうすれば良い薬になりそうな気がする...いや絶対無理かもね。
[一言] なんとなく、弓の勇者の病み上がり、みたいな感じのお話しでしたねw いや、まだ病んでそうだけどもw
[一言] この周回で初めて樹ハーレム展開に行くのか?
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