リスーカのお勉強タイム
次に樹が気づいた時は……奴隷商人の檻の中だったそうですぞ。
「こ、ここは……っー……」
ガバっと起き上がった樹は後頭部の痛みで悶絶しそうになったのですな。
そして自身の手足に手かせ足かせを着けられていたとの事ですぞ。
「ここは一体……どこですか!?」
「お? お目覚めのようだな」
檻に寝転がされている樹に声を掛けてきたのは奴隷商人だそうですぞ。
俺たちの知る魔物商とは異なる人物のようですな。
「お前は奴隷として売られたんだよ、汚れた獣人よぉ……」
「な……そ、それはどういう事ですか! いったい誰が僕を売るなんて真似をしたんですか!」
「客の事を態々奴隷に話す必要なんかないだろ。どうもよく分からんが奴隷紋は施せねえ変な獣人だが、それはそれで売れない訳じゃねないしな。おい」
「は!」
「な、まだ話はありますやめ――ふぐう――」
という所で目覚めた樹にさるぐつわを着けられそうになったのですぞ。
奴隷紋が施せないのは武器の力ですな。
お義父さんは元より俺や樹、錬もそうですがこの周回ではヴォルフが奴隷紋を解除されてますぞ。
何はともあれこれまでの経緯や現状証拠から推測して燻製たちが樹を失神させてそのまま奴隷商人に売り払ったのは明白ですな。
「――」
樹は咄嗟に魔法の詠唱に入って唱えようとしていたようですな。
「おっと魔法を使えるみたいですぜ」
「させるかよ!」
「っ――!?」
ゴスっと腹を蹴られて樹は悶絶して魔法を中断してしまったようですな。
「おい。魔法を使う奴隷用の拘束具を用意しな! ったく、奴隷紋が効けばこんな代物を着けなくても良いってのによ」
と、いう事で樹には魔法を使用できないようにする拘束具がつけられたとの話ですぞ。
「ご丁寧に外せない呪われた弓なんか持ってやがって……変な奴隷だぜ全く、弓の勇者を僭称する罪深い下等生物とか言ってたが、はは、なりきりも本格的だな」
そのまま樹は喋れないようにさせられたまま、手かせ足かせに重りまでつけられて奴隷経験をする羽目になったようですぞ。
しばらくは奴隷商人の檻の中で寝転がされていたそうですな。
ポータルスキルを使用するのに僅かにLvが足りずに逃げるに逃げれなくなっている状況に陥ってしまっていたのですな。
「――っ」
どうにか弓を動かして抵抗しようとはしたのですが手かせの所為で上手く引くのが困難だったそうですぞ。
それでも使用できるものは全部使う気概で尻尾で矢を引いて反撃したそうですな。
もちろん狙っているのを見破られてそのままボコボコにされたらしいですぞ。
やがて樹は拷問目的で貴族に購入されたそうですぞ。
「オラァ! もっと泣き叫べ! フハハハハ!」
地下牢で両手を宙づりにされ、むち打ちは元より腹や顔面を鈍器で殴りつけられたりする拷問を受けるようになっていたのですな。
その頃には魔法を唱えると首が強く締まる首輪をつけられて拷問されるようになっていたそうですぞ。
「ァアアアアア!? くううう……や、やめ――た、助けて――」
もはやあまりの痛みに意識を失っても水を掛けられて無理やり意識を戻させて泣き叫ぶまで拷問をされていたとの事ですぞ。
「ひ、あああああ……や、やめて……」
同じようにその牢屋には奴隷となっている者が居たそうですが樹は顔をよく見ていなかったと語ってましたな。
「こんな事を……例え国が許そうとも……僕が、正義が許すはず……」
「何を言うかと思えば、正義は私たち人間にあるものだ。お前ら汚れた獣人共にあるはずがないだろう!」
「うぐ――」
「奴隷に神はいねえんだよ!」
それでも樹は正義は必ず執行される、ここから出られた暁にはこの貴族にふさわしい罰を下すと心に誓っていたのですな。
体の底から沸騰するような怒りが沸き起こっても居たのですぞ。
このような理不尽な目に遭っているのは誰の所為だ? ウサウニー? しっかりと話をしたはずなのに信じずに自分を売り払った仲間たち? それとも買い取った奴隷商人? 拷問する貴族? 亜人獣人を悪と決めつける国?
ドクン……ドクンと樹の弓が鼓動をしているのを感じたのですな。
カースシリーズ
――の弓の条件が解放されました。
心の底からどす黒い感情が沸き上がるのをふつふつと感じていたのですぞ。
「うぐうううう……絶対にお前らを許さない」
「いつまでも口が減らない奴だ。おい」
「は!」
と、樹はそこで台に手足を拘束されて寝かされる事になったそうですな。
そして尻尾を伸ばして拘束し、樹を購入した貴族は樹に見せつけるかのようにノコギリを取り出したそうですぞ。
「その反抗的な態度がいかんのだ。貴様にはしっかりとその報いを受けねばなぁ?」
と、加虐心溢れる貴族は伸ばした樹の尻尾にギコギコと……じわりじわりと前後していったのですな。
「な、何をする気だ! や、やめなさい! やめ――いぎいいいい……あああぁああああ」
出来る限り苦しむように樹の尻尾に貴族は何度も何度もノコギリの刃を通していったのですぞ。
もちろん激痛と出血をして刃は血に染まっていったのですな。
やがてブツッっと尻尾は途中から完全に切れてしまったのですぞ。
この話を聞いている最中、お義父さんは青い顔をして聞くに堪えないという顔をしてましたぞ。
それでも辞めなかったのは樹が話を続けていたからのようですな。
「あぁああああああ! あああああ……」
樹は切断された自分の尻尾を痛みで悶絶しながら目の前に置かれたそうですぞ。
リスーカにならなければ存在しなかった尻尾ではありますが自分の一部を切断されたという事は相当な喪失感を覚えるものですぞ。
怒りが鳴りを潜め絶望感が目の前に広がっていたとかなんとかですな。
「ほら、これで身の程がわかったか? わからないようならもっと痛い目を見せなければ楽にはさせてやらんぞ?」
そんな絶望感の中で樹は力なく廃人のように放心するしかできなかったのですな。
どうして、どうしてこんな目に……これもすべてウサウニーという奴の所為……という考えが最初は浮かんでいたけれど徐々に樹の中で原因はウサウニーではなく燻製達やこの国の連中にあるのだというのに怒りで考えが染まった際に気づいて行ったのですな。
それでも今の自分に出来る事は何もないと、拘束されて動けない自分を激しく呪っていたのですな。
「こ、これは……一体どういう事ですかぁ!」
そんな……状況の中で、樹の叫び声が届いたのか少女が部屋に入って来て拷問される樹に目を向けて声を上げたのですぞ。
「おやおや、アイヴィレッド嬢ではないか。どういう事も何も奴隷に身の程を叩き込んでいるんです。貴方もこの国の貴族ならこれくらいの嗜みを覚えるのは大事な事ですよ。こいつらが居るから世界は平和にならないのですから」
「いくら奴隷とは言え、このような行為はいけないです! 国に通報します!」
「アイヴィレッド嬢、あなたは自身の立場がまるでわかっていないようだ。貧乏貴族のあなたの両親が奉公にここに来たのでしょう? そんな事をしては両親が悲しむぞ」
「ふえぇ……いいえ、パパやママだって、許してくれます。こんな事はいけないです。この国の法律では禁止されている拷問行為ですから!」
「まったく……親共々嘆かわしい。おい。この身の程知らずの女を別室に連れていけ」
「ふえええ! 獣人さん! ふええええ!」
と、抗議したメイドらしき少女は貴族の部下の命令でそのまま拘束されてどこかに連れていかれてしまったのを樹は朦朧とした意識のまま見つめる事しかできなかった。
ああ……まだ、勇気を振り絞って自分を助けようとしてくれた人はいる。
まだ大丈夫、自分は狂う訳にはいかないとリースカの言葉に僅かに信じる心が残ったとかなんとか思い出に浸るように樹は遠い目をして酔ってました。
そこで意識は遠くなったそうですぞ。




