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同居してみた。

 


 黄昏の幻影トワイライトミラージュをプレイして早半年。

 紋寧はシャルロットと同居している。

 ハイスペックな二人が、クエストを楽しんだ結果。 

 得たのは大量の資金に資材。

 どうにも寄生したがるプレイヤーが多く、集られそうになることもしばし。

 懐が暖かい二人が、有象無象につきまとわれないために、どうしたらいいかと悩んでいたタイミングで、島の所有権が販売されたのだ。


 リアルでも家族以外との同居経験はあったが、相手が男を連れ込んで終了したり、価値観の相違が激しく喧嘩が絶えなかったり、アパートそのものに欠陥があったりと、様々な問題が生じてしまった。

 長くて一年弱という経緯もあり、シャルロットに同居の話を持ち込まれたとき、一度は断ったのだ。


 それでも同居に踏み切ったのは、リアルでは生粋のお嬢様らしいシャルロットの懇願に負けたからだ……。


『紋寧と一緒に暮らしてみたいですわ。あちらでの同居や同棲は許されませんの……駄目かしら?』


 自分好みの美女からの涙目上目遣いによる懇願を、拒否できる人がいるなら教えてほしい!

 無理でしょ、絶対。


 島が売り出されて比較的早い段階で購入したけど、最初は別に暮らすつもりだったんだ、私は!

 でもよくよく考えれば、シャルは一人で生活できなくね? と思い至って、一緒のお屋敷に住むようになったんだよね。


 住んでみたら、びっくりするほど快適だった。

 シャルロットの距離の取り方がちょうど良かったんだよね。

 付かず離れず。

 構ってほしいときは適度に相手をしてくれるし、一人にしてほしいときは放置してくれる。

 お互いぐいぐい来られるのは苦手だったから、その点に気をつけたら快適だったってわけです。

 本当に、良かった。


 島の大きさは各種あったけど、基本的には無人島。

 果物が多くてモンスターが少ない島を選びました。

 島の大きさの割には高い買い物になりましたが、二人とも納得した良物件です。


 屋敷は島の南の高台に建ててもらいました。

 NPCの大工さんで一番人気のところに頼みましたよ。

 錬金術で作った、度数の高いお酒を出したら、大喜びで受けてくれましたとさ。

 ドワーフあるあるですね。


 屋敷の掃除はさすがに大変だなぁ……と思っていたら、大工さんに家事妖精を薦められたので雇用しましたよ。

 ええ、鉄板のシルキーさんです!

 純白のメイド服(個人的に好ましいロングタイプ)は、常に清潔を保っている証なのだとか。

 紋寧が料理を作るというと難色を示されましたが、シャルロットの大好きなオペラを作って見せたところ、知らない料理を教えることで許可がおりて一安心です。

 

 島にはベリッシモと名付けられました。

 名付けは当然シャルロット。

 イタリア語で超綺麗! という意味なのだとか。

 確かに風光明媚な自慢の島なので、文句のつけ用はなかったですよ。


 島には素敵な採取、狩りポイントがあるので、一日一度はポイントに足を運びます。

 この島特有の果実は人気があるので、卸したりもします。

 一度、シャルロットと二人で果実をギルドに持ち込んだら、跡をつけられて困ったので、便利な転移装置を設置して、ギルドへ直接届けるようにしました。

 ギルドからの提案で、費用もギルド持ちじゃなかったら、卸すのをやめたかもしれません。

 全くやれやれですよ。


 起床はゆっくりで雨の日は専ら読書。

 大量の本を持ち込んでいる屋敷には管理完璧の図書室があります。

 二人の気合いが運営に届いたのか、なんと、司書妖精が湧きました。

 ええ、ある日突然湧きました。

 半ズボンと眼鏡の似合うショタっ子です。

 シャルロットが静かに悶えていました。

 彼女の知られざる一面を知って、どきどきしたのはここだけの話ですよ。

 司書妖精は大変優秀で、お勧めの本に外れはありません。

 全ての本に防護魔法をかけているらしく、御茶を飲みながら読んでも怒られないのは有り難いですね。


 食事は基本三度。

 朝、昼、夜。

 昼がお弁当になったり、アフタヌーンティーが追加されたり、寝酒タイムが設けられたりもします。

 紋寧とシャルロットの気分次第ですが、一日の内一食は紋寧が作ります。

 エッグベネティクトとオペラは私が作った方が美味しいと言われて、家事妖精が燃えに燃えていました。

 作っていない料理はさて置き、提供した料理で負けると家事妖精のプライドにかかわるのだとか。

 それ以外は同じか、彼女の作る物の方が美味しいので気にしないでほしいのですが、どうにも難しいようですね。


 地下室に憧れがあるんだよねーと呟いたら、シャルロットがこっそりと作ってくれました。

 しかもワインセラー。

 まぁ、ワインだけじゃなくて、いろいろなお酒が納められているんだけどね。

 かなりなレア物も多いよ。

 シャルロットがオークションで入手した高価な酒も、日常的に出される辺りが凄い。

 最近ではベリッシモ島にしか生息しない果実で作られた、果実酒なんかも保管されている。

 数が揃ったらオークションに出品するのも面白そうですわ、とシャルロットが悪役令嬢っぽく笑っていたっけ。


 お風呂は基本毎日入ります。

 屋敷には猫足バスタブに広いバスルームが設置されており、シャルロットが入ると実に絵になるのです。

 紋寧も入りますが絵にはなりません、ええ。

 他には島の北側に露天風呂があります。

 モンスターも入ってきますが、露天風呂には厳格なルールがあるらしく、決して戦闘にはなりません。

 もふもふ系はさて置き、つるんと系(スライムやは虫類など)も入ってくるのには、いまだ慣れないのですよ。

 シャルロットも時々、きゃ! と可愛い悲鳴を上げています。

 昆虫系には本当に驚かされるのですよ。

 黒光りする、あんちくしょうがいないのは、しみじみ感謝です。

 運営に大嫌いな人がいたのかもしれません。

 同志!


 パジャマパーティーもよくします。

 シャルロットはネグリジェ、私は浴衣。

 二人だけでも話題はつきません。

 時々、リアルの話も出ます。

 リアルでも会いたいです……なんて話も。

 ただ、まだリアルで会うのは怖いですね。

 どうにも、シャルロットはお嬢様のようなので。

 ほら、身分的に相応しくない、みたいな?

あとはあれ。

 リアルの私は平々凡々の見本で、ゲーム内の紋寧とは別人だからね。

 落胆されたくないんだ……。


「……明日は、久しぶりに島を出ましょうか?」


「ああ、もしかして新ダンジョンですか?」


「ええ。家具ダンジョンなんて、驚きましたわ」


「モンスターの名前は、ふざけてますけどね」


「ネーミングセンスが残念な方が担当されたのでしょうね……」


 ドロップする家具の名前がそのままモンスター名になっているようなのだが、それがあんまりなのだ。


「ワンソファ ホワイトで、ドロップするのは白の一人掛けソファ」


「しかもモンスターの形状が、家具の形のままですから……」


 ワンソファだと、一人がけのソファに足が生えた感じ。

 あぁ、付喪神に似てるのかな?

 ドロップすると普通のソファになるんだけどね。

 結構シュールな絵面です、家具ダンジョンモンスター。


「その癖、驚きの充実度」


 ソファの形だけで十種類。

 色は十二色。

 素材は革と布の二種類と見せかけて、皮の種類が十二種類、布の種類に至っては五十種類。

 組み合わせを考えたら……ソファだけでも何種類になるのかしら?


「コンプリートをすると、国主になれるとか……」


「ダンジョンマスターじゃなくて、国主? っていうか、そんな王様……おもしろいのかな?」


 その辺りの情報はさらっと読んでしまったので細かいところは不明だ。

 むしろダンジョンマスターとなってダンジョンを管理する方が面白そうだけど。


「コンプリートは無理でも、シリーズで集めるのは面白そうですわ」


「それはそれで大変な気もしますけど、ね」


「最後まで付き合ってくださいまし」


「それは当然」


 明日の予定も決まったところで、家事妖精がホットミルクを持ってくる。

 私たちの話を聞いていたのだろう。

 普段ならお互い違う物が用意されるのだ。

 

「……今日は久しぶりに一緒に寝ましょうね」


「ふふふ。寝相が悪くなくて良かったと、シャルと一緒に寝る度に思うな」


「まぁ!」


 くすくすと笑えば、シャルロットもはにかんだように笑う。

 悪役令嬢の、こんなにも愛らしい笑顔を知っているのは私だけだろう。


「じゃあ、おやすみ。シャル」


「ええ、お休みなさいまし。紋寧」


 四人寝てもまだ余裕があるシャルロットの部屋の天蓋ベッドで、二人。

 寝落ちするのは仲良く一緒だったようだ。


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