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121:我が新たなる配下

「な、なぁーんだこりゃあ?」


「なんだこりゃとはご挨拶な。お前を凶弾から庇った我が配下に」


 私が戸惑うペリトロペーの口振りを咎めている間に、我々とアクティスキナとの間を阻んだ巨大なハサミがさらにせり上がる。

 それに伴って私の足元の大地もまた持ち上がり、その下に潜んでいたもの……巨大なハサミの持ち主がその姿を現す。


「まずまずのタイミングだなクラブアンカーよ」


 軽い足踏みと共に一声。すると地面ごとに私とペリトロペーを背負った巨蟹型機械生命体が、甲高い駆動音を響かせてハサミを持ち上げる。

 大きなハサミと土を被った甲殻は分厚く頑健。そしてそれを動かすパワーも充分。

 四対ある脚の内最後の一対は平たいヒレ状で、備えた装備と合わせて水中での機動性も高い水準で併せ持つ、蟹は蟹でもいわゆるガザミ型だ。

 ガザミと言えば茹で、蒸し、スープにしても美味であったな。肉は勿論ミソも内子も素晴らしい。旬は冬なのだがまた食べたくなってきた。

 おっとクラブアンカーよ。機械生命体のお前はどうやっても食えまいが。怯える事はなかろう。


「な、あ? こんなヤツ、いつの間にぃーい?」


「つい先程に私が生み出した。素材はそれこそヤツが撃ち抜き割ってくれたジャンクフリスビーだ」


 知らない新顔の存在に戸惑うペリトロペーに紹介してやれば、バイザーカメラをチカチカと絶句する。

 そのままではガラクタでしかなかった鉄巨兵の残骸の塊。それをより有効的に活躍できるように振り回している間に設計図を書き込み、作り替えたのだ。

 確かに途中で割られはしたが、すでにその段階で土中に隠れて自力で再構築を進められるくらいにはなっていたからな。後は時間さえ稼げれば、という寸法よ。


「というわけで。そっちの思惑がどうであれ、時間稼ぎに乗ってくれた事に感謝するぞアクティスキナ」


 煽り半分に感謝のカーテシーをやってやる。がしかし高まる波動が解き放たれる様子は無い。

 撃たれたならまたクラブアンカーのハサミが弾くだけであるが、はてどうした事か。と、改めて推力任せに浮くヤツを見上げたなら、その顔面に灯る光点が激しく明滅して縦横無尽に。


「……不敬な、不敬不敬不敬……!!」


 おうおう。コレはまた随分と滾っている事で。

 アステルマエロルならばともかく、無口な忠臣には珍しい激発ぶり。コレには私も呆気に取られた。


「まったくらしくないな。そんなに私にしてやられたのが悔しいか?」


 熱暴走さえ起こす激情にさらに熱を注ぐべく、私は言葉と共にクラブアンカーからの波動砲を。

 大鋏を支える太い第一脚。その付け根から突き出した迎撃性能を重視の連射砲は空に向かって帯の如く連なった光弾を二条。

 アクティスキナはコレに反射的に機体を空に滑らせ、同時に誘導弾をばら撒く。

 対象の放つ波動を導にして自動追跡する誘導弾はその仕組みと仮想敵から、実際人間サイズ向けには誘導性を発揮しづらい。

 もっとも、レイア相手であれば何の制限も無く、狙いを誤る事なく落下してくるのだが。

 自ずと落下点を調整して落ちてくるこれらに、クラブアンカーはトゲのように伸びた波動砲を連射。この対空弾幕によって傘を張る。

 ぶつかり合い弾けた雨が風と光で空を隠す。

 ここで私はまたクラブアンカーの背中を一踏み。これを合図に上げた鋏が光の幕を突き破ったアクティスキナの突撃とぶつかる。


「おっと、少しばかりズレたか」


 受けるのではなく挟んで捕まえるつもりであったのだが。

 鋏によるブロック。加えて私のこの発言にもか、アクティスキナは顔の光点を明滅。

 しかしすぐさまにエネルギーカノンを発射、控えの鋏から逃れる。


「ふむ。やはり少々機敏さには欠けるか。しかし能力というのはどこまで行っても一長一短。作る時に求めた性能については調べた限りでは問題は無さそう。ならば後は分担と司令官の技量か」


 もう一つ上にあって欲しい所はあるが、求め続けてはキリがない。

 そう言い聞かせるように独り言ちつつ、クラブアンカーに対空迎撃をさせ続ける。


「こ、こーんな……こんな事って……ニクスレイア……アンタ、コイツを作ったってーの? マジで、そんなあり得ない事を……?」


「アクティスキナといいお前たちは何を言っているのだ。何度も言うが、こんなもの同胞なら昔から、誰でもやっている事の掛け合わせと応用に過ぎんのだぞ」


 私のクラブアンカーへの性能所感を聞いてか、ペリトロペーまでもが妙な事を抜かす。

 素材はある。干渉も出来る。ならそれほど難しいモノでもなかろう。食材も道具も無しに一皿仕上げたわけでもあるまいに。


「お前も相当手痛い目に合わされていたが、どれ少し診てやろう」


「な、何をッ!?」


「心配する事は無い。メンテナンスチームのちょっとした真似事だ。交換用のパーツに充分な用意があるわけでは無いがな」


 使えそうな部品があれば、間に合わせ程度にはなるが用意出来なくも無い。

 それもまずは必要があるのかどうかの所を診てからになる。

 というわけでバイザーのリズムに怯えのあるヘリ女の機体をスキャンする。

 アクティスキナのばら撒くエネルギー弾が当方の迎撃弾を受けて弾ける光と音が我が身を叩く中であるが、ダメージ箇所のチェックに問題は無し。

 うむ。軽くは無いが取り返しのきかないようなダメージは皆無。コレならば繋ぎ直し程度の応急処置で動くことは出来そうだな。

 その事を伝えてやればペリトロペーはバイザーに安堵と戸惑いのリズムを刻む。


「抵抗はしてくれるなよ。さすがに明瞭な意志のある機体相手には大人しくしてもらう程度の協力が必要になる」


「お、オーケーオーケー……色々とおかしくないってぇーのは本音だけど、こうなったら大人しくするっきゃーないからね」


「賢明な事だな」


 内部構造を見抜かれ、イジられている状態。これは逆の立場であれば生殺与奪を握られたも同然。それも相手次第では回復はしてもらえたとして何を仕込まれるか分かったものでは無い。

 こうなってしまっては、内心はともかく少しでも不興を買わないようにするほか無いからな。

 目の前の状況を受け入れるこの潔さ。

 コレがあるから、この戦闘狂のヘリ女の事は嫌いにはなれん。

 折り合い悪い同胞らの中では特別にな。

 しかしそれにしても一見すれば私以上に旧世界むかしのままを保っているように見えるペリトロペーであったが、深く見てみれば中身には思っていた以上に歪みが多い。

 変形の際に明らかに干渉して邪魔をしてくるパーツがあったり、熱を逃がすためのラジエーターが本来収まるべき所からはみ出していたり。そんな例が細々と無数に。

 有機生命体で言えば骨や内臓を本人由来のモノでないので補った上、外見から分からないように無理矢理に帳尻合わせをしていると例えれば良いか。

 我ながら想像してみて中々にグロテスクな様相であるな。

 ともあれ、足りないパーツをどうにか間に合わせ、そのための不具合を抱えながらもそうと見せないように動く技量と労苦を思うとこみ上げてくるものさえある。


「……お前も辛酸を味わって来ているのだな」


「お? おぉー……まぁそりゃあね」


 私の労いの言葉に戸惑いながらもヘリ女は曖昧な返事を。

 まさか自分の抱える不具合に気づいていないとでも言うのか。

 そんな事があるわけがない。が、感覚的に補正を入れるだけで細かには把握せずに放置しているくらいはあるかもしれん。

 それならばとこの際に出来る限りの所を整えてやる事にしよう。

 そうして現状のペリトロペーの中身に必要最小限の再構築し、出来うる限りの最適化を施してやる。

 と、そこで私は違和感に気がつく。

 ペリトロペーの心臓部。そこに溶接されたように明らかに不要な部品が付け加えられているのだ。

 多少のパワー補助効果はあるのかもしれん。が、それ以上にデメリットの多いだろう邪魔なパーツだ。

 これに私はなんというべきか……そう、寄生虫を見つけたような不快感を覚える。


「なんだこんなものを……」


「ニクスレイアッ!? いかんッ!!」


 取り除くべきを取り除く。そのために動こうとした私の耳を警鐘の声が打つ。

 だが私が反応するよりも早く、ペリトロペーの鉄拳が私の生身にぶち当たっていた。

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心臓部のパーツとはいったい……!?
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