120:刃と言葉の交差
「はぁーあぁ? なーにをヌルい事言ってんのさぁ? 都合が良いも何も、たった今お前は弱くなってんじゃなーい」
バイザーカメラに嘲弄のリズムを灯しながらペリトロペーが私を見下ろす。
なるほど確かに。
今の私は意識を宿した肉体のみ。その肉体も美貌の恵体で人間相手ならば大柄だが、上空で嘲る二名からすれば人と仔犬程の差がある。
質量は力だからな。
今の私が本領からは程遠く弱いと言うのは間違い無い。
だがだからと言ってコイツらの勝利が確定した訳では無いがな。
「ふむ。その弱くなった私を相手に随分と距離を置くでは無いか。さらに高さと重力の壁も加えて、か。よほど前に受けた痛手が効いたと見える」
「はぁーあぁッ!? コッチがビビってるって言いたいワケぇッ!?」
「そうは言っていない。踏み潰してしまえそうな相手に安全圏まで距離をとって……むしろ痛手を被った事を良き教訓として対処していると褒めているつもりだぞ?」
「お前ッ!?」
学習できていてえらい!
そんな私の煽りにローターの向きを傾けるペリトロペー。だがその顔面、バイザーカメラを焙るように通り過ぎる光弾が。
言うまでも無いがアクティスキナによる制止の威嚇射撃だ。
「アクティスキナッ!! お前だって煽られてバカスカ撃ちまくってたクセにィーッ!?」
頭でっかちのダブスタ野郎が、と食って掛かるペリトロペー。だが対するアクティスキナは無言で、威嚇の銃口を外さない。
当然私に向けたモノもだ。
やれやれ。煽れば面白いように乗るヘリ女はまだ楽な相手だというのに、地雷を突いてもすぐに復旧するアクティスキナと組まれては厄介だな。
まあそれはそれで良い。
足並みの乱しようはいくらでもあるというもの。
地上にいる私を無視して睨み合う敵を他所に置いて、私は巨大メカ馬の本性を出した愛馬を味方のフォローへ派遣。
重々しい馬蹄の響きを受けて、ペリトロペーは足止めのアームカノンを放つ。
この当然の動きに私もまた合わせて当然の動きを。
馬上湾刀に乗せた波動による飛ぶ斬撃に躓かせ、明後日の方向に流してやる。
「おやおや。弱い弱いと生身の私を嘲る割に、この程度でしか無いのか? もしや以前に与えたダメージが癒えていないのか? 戦線復帰は修復とメンテナンスを入念に行ってからをオススメするぞ」
「ニクスレイアぁあッ!?」
連続の挑発にペリトロペーは完全にかかった。来ると分かっていればとばかりに身内の威嚇射撃をローターブレードで弾き、蹴り足からの急降下。
対する私はふわりとステップ。ヤツの地を砕く蹴りの衝撃で舞い上がる土砂と共に宙へ。
ただ身を守るだけの波動に包まり、勢いに逆らわずに飛んだ私を見上げてバイザーカメラが明滅。
当惑のリズムを刻むそれに、私はエナジー・ソードウィップを一閃。
「がぁッ!? クッソがぁーッ!!」
浅く散る火花を散らす程度。しかしセンサー系等へのダメージはヘリ女のメンタルに火を着ける。
光学関係が一時絶えた中でデタラメに振るわれる腕やエネルギー弾。
コレを私は光鞭を用いての振り子移動ですり抜け、背中の装甲の隙間に湾刀を滑らせてやる。
斬撃と共に抜けた私はもう一撃……と行きたい欲を抑えて離脱。その直後に私を掠めたエネルギー弾がペリトロペーに触れて爆発する。
「てぇーめえー!? アクティスキナぁーあッ!!」
「……問題なし。ターゲットへの攻撃を優先」
「無くねぇわ! 無ーくねぇわぁッ!! コッチ巻き込んどいてぇー無くねぇわァッ!!」
巻き込みのフレンドリィファイアに対するけたたましい抗議も賑やかな事だ。
炙られた火傷が痛まなければ漫才として笑ってやれただろうにもったいない。
そんな風に惜しんでいる間にも、ヘリ女を無視した十字面からのビーム砲が私を狙って来ている。
ある追尾弾はソードウィップで別の弾の前に誘導。あるモノは太刀にて切り払い。そうしてできた隙間を縫って私は避けて回る。
「おやおや。ガストロリトス傘下の者どもはあいも変わらず纏まりの無いこと。前衛をやらせた下っ端を諸共撃つような忠臣殿はやはり主君にそっくりだな。コレは裏切りを招いて当たり前だな」
かつての上役を揶揄する言葉に合わせての飛ぶ斬撃。コレをアクティスキナは一層に力の籠もったビーム砲を放ってかき消す。
私がその真下を潜って踏み込むのを認めてか読んでか、ペリトロペーに急かすような威嚇射撃も加えて。
やれやれ馬にも鞭やら拍車やらで合図は送る。が、だとしても荒っぽいというか、音声を使えば良いだろうに。
しかしペリトロペーはこんな仕打ちにも舌打ちをひとつ。誤射への抗議で上空を向いていた顔を私に向ける。
「そっちはそうやって煽るけどさぁーあ? お前だって実は大したボスはやれてなーいんじゃ無いのぉ? コッチはお前の事情やらを誰から仕入れたと思ってるワケ?」
突き出された腕に合わせて迫るブレードローター。空をかき混ぜ唸るそれに合わせての嘲弄の声を聞きつつ、私は伸びる刹那に横ステップ。光の刃を逃れる。
「おおかたスメラヴィアの冠持ち、それも古い名門出だのと名乗る連中であろう。そやつらにも食うに困らぬ待遇は用意してやったと言うのにな」
「んなぁーあ?」
サラリとした私の答弁に、ペリトロペーが辿々しいリズムでバイザーを明滅させる。
どうした。アテが外れてガッカリしたか?
ヤツらとしては配下の裏切りを匂わせて私の動揺を誘おうとしての一言だったのだろう。
だがお生憎様、外患誘致をやらかす連中を抱えている事など最初から織り込み済み。
自分と自分の身内。己の権力基盤。それらを守るための面従腹背、二枚舌三枚舌は政に携わる者の必須スキルよ。
それらを用いて出来うる限りの人間に不足ない暮らしを営ませ、犠牲を限りなくゼロに寄せる事こそが肝要。
つまり私自身が人間の国家運営に携わった以上は、どこかにしわ寄せ取りこぼしを出しかねない。
私に叛きかねない、叛いた者がそれらを拾い上げる事もあれば逆もまた然り。ただ手っ取り早いからと私がすべてを片付け、従わぬモノを雁字搦めに縛れば世は泰平、となるモノではないのだ。
「だからと私とて叛くリスクと従うメリットを示し続けているのだが、コレがなかなかな。そういう意味では私が統治者として至らぬという事は認めよう。しかし、思い通りに進まぬからこそ面白い。食事の次には悩ましくも楽しんでいるのだぞ」
ペリトロペーとアクティスキナ。二名が揃って絶句し攻勢を緩ませる。
私はこの隙に乗じて刃を振るう……のではなく、言葉を続ける。
何を仰天しているのか分からぬが、ここは刃よりも言葉の方がより効くだろう。
そうだ。なんなら馬上刀も腰に提げた鞘に戻してやろう。
「どうだ。お前たちも人間達と共に生きてみないか? 破壊や殺戮で更地を作るのには飽いては来ていないか? なんなら一度土地いじりや建築に携わってみるといい。破壊や蹂躙のような虚しいモノとはまるで違う面白みと支配欲の満足があるぞ」
壊し奪う事よりも創造の面白みをと、改めて寝返りの打診を重ねる。
戦闘狂の女と意義を挟まず従う事だけが忠義と勘違いしたようなヤツだが能力に間違いはない。活かしようはいくらでもあるというもの。
この誘いにペリトロペーは刃とバイザーカメラに躊躇のリズムを。が、そんな彼女の背に光が突き刺さる。
「……あのお方への裏切りは許さぬ」
「……あ、アクティスキナ……てぇーめえー……!?」
揺らぎすら許さぬと身内を撃った十字面に、ペリトロペーは苦悶と怒りに喘ぐ。
そしてアクティスキナは反撃をと身を捻るペリトロペーへのトドメ。そのついでに私への返事とばかりにエネルギー弾を放つ。
容赦無くヘリ女へと吸い込まれていくそれは、しかし私の足踏みと共に突き出た金属塊によって挟み切られるのであった。




