118:拙いものはぶん回してやろう
大きく跳ねたセプターセレン。
恵体を重装鎧に包んだ私を背にした重騎馬ながら翼が生えたような高さに。
ここから私は深く引き絞った大弓を放つ。
太い矢は乾いた音を立てて空を走り、目前の光を粉砕。その奥にいた鉄巨兵の腰をも貫き砕く。
機体の要を失った鋼の巨体は泣き別れの下半身に置いていかれて地に沈む。
余波を受けた周囲の鉄巨兵を巻き込んで、だ。
この衝撃に乗り手が意識を失ったしたか、鉄の防塁に変わったそれにセプターセレンは蹄を乗せ、踏み切りまたも跳躍。この鞍上から私は指揮官機に開いた射線を矢で徹し、敵機の腰を射抜いてやる。
脆いな。
崩れた機体の起こす地響きを愛馬の蹄越しに感じながら、私は胸中で独り言ちる。
ちょいと力は入れてやったが、どれもただの一射で潰れてしまう。
命令系統を軽くかき乱してやれば、跳んだ騎馬を悠々と着地させてしまうほどに連係も取れない。
確信した。そして安心したよ。
これらの中に我が精兵は一人たりとも混じってはいない。鎧と着込んだ鉄巨兵も含めてな。
私の作らせている鉄巨兵なれば、これほどまでにヤワな仕上がりになるはずがない。明らかにモナルケスらの手による粗製品だ。
こんなモノを頼りに私を排してフェリシア女皇を傀儡にしようだなどと、まったく片腹痛いほどに戯けた企みだ。
そう。私はこの企みを知っていた。
お抱えの密偵たる「影の刃」の働きはもちろんの事、他ならぬフェリシア女皇直々に告げられてだ。
私に前線への出征を望んでいた冠持ちら。彼らの同志がフェリシア女皇に摂政である私からの独立を促してきたのだと。
当然言葉そのものは直接的に私と手を切らせるような物言いではなかったとの事だった。が、私が皇家を良いように操って女皇気取りでいるように見える。そんな様を憂う我らこそが忠臣で御座いと嘯いて。
まあ私と女皇との信頼関係の間に入るには至らなかった訳だが。
実務と象徴とで分担する私の計画に賛同し、義姉妹として日頃から細々とした相談事も行う我々の仲を裂くとなれば生半の謀略では足りないがな。
それで女皇が私を遠ざけに動かないのならと、使う手段が外から戦力を招き寄せる事なのだからまた愚かしい。
それで万一に成功したとして、招いた戦力の向けられる先が己になるとは考えられないのか。思いついた上でも実行する程に追い詰められていたのか、なんとでもできる気になるように唆されたか。
どちらにせよ愚かである事には違いないがな。
それでも偏った知恵を絞って私の名に傷をつけるべく私主催の大会を選んだのだろう。だがそれで、それだけで上手くいくと考えるとはな。
完全に防がれてしまえば逆にまた我が名を上げるだけであるというのに。
というわけで私はまた一矢放って敵を崩しつつ右腕からエナジー・ソードウィップ。すでに倒れていた鉄巨兵と、それを乗り越えようとしていたモノを刺し貫く。
倒れた味方に怯まぬのは良し。標的への最短を征こうとするのもまた良し。
だが意識の飛んだだけの人的資源を踏み潰してでもというのはもったいないが過ぎる。
なので刺し貫いた鉄の塊を中心に波動を。この波が及ぶ範囲の敵機は残らずその乗り手を拒絶する。
殻を剥かれたかのようにポロポロと地面に転がる敵兵たち。
切り離された鎧に手を伸ばす彼らの前で、私の支配下に下った機体はその形を変えていく。
それにしても不出来極まる。
まず数を揃えただけの即席粗製である事を考慮しても、この鉄巨兵はまったく出来が悪い。
私が手首からの剣鞭を介して繋がったモノとその間近のならばともかく、その足音が届く範囲程度にまで支配が及ぶとはな。
無防備が過ぎる。
不出来なのはそこだけではない。機体そのものも最初期の鹵獲品と比較してもなんの性能向上が無い。それどころかより脆弱に、乗り手からの操作も難しくなってすらいる。
私ならばこんなモノは許さない。許せない。
少なくとも使い手が十中八九怪我をするようなモノを配下に使わせるだなどとあり得ない。
つまり鉄巨兵を作らせた元同胞は最初から何の期待もせず、人間たちにただ材料と組み立て方だけを放り投げて放り出したのだ。
人間たち自身に何の研究もさせず、ただ一足二足と飛ばした答えだけしか用意していない。だから技術として身につけて改良するにも時間がかかる。見様見真似での点検修復で質も落ちる。
まったくもったいないにも程がある。
いや、これすらも……私に容易く奪われる程度である事すら仕様のひとつであるのかもしれんな。
「死にたくない者は機体を捨てよッ!!」
波動で強化した大音声。コレが広まるのを待つ間に私はソードウィップを伸ばした右腕を大きく振り回す。
伴って轟音を帯びて宙を舞うのは鉄の円盤。奪い取った鉄巨兵をひとまとめに固めた鉄塊だ。
大質量の神秘金属塊であるこれは抵抗として放たれた波動弾を容易くかき消して空を走る。
これで威力と警告が充分に行き届いたと見なした私は腕を一閃。一気に我が支配圏の外で立つ鉄巨兵の囲いを薙ぎ払う。
乗り手がまろび出た直後の鋼の上半身を吹き飛ばす我が一撃。
陶器細工のように砕けた鉄人形の残骸を取り込みさらに大きく、鋸のような荒刃を成した大円盤を私は見せびらかすようにまた振り上げてやる。
たった今見せつけてやった破壊力。そしてすぐにでもまた同じ……いや、より大規模に繰り返せるのだぞとのメッセージ。
この威力に、私を狙って来た鉄巨兵の軍団は動きを止める。その中でも警戒心と想像力に秀でた乗り手を持つ者は逃走に移り始める。
だがそれは許されない。
私が催しの警備に配置していた兵員が、ぎこちない逃げ足を絡めとり転ばせたからだ。そうして倒れたところへスメラヴィア製の重機鉄人がそのショベルアームでダメ押し。ツルハシや手持ちシャベルを長柄武器代わりに叩き込む。
逃げ出した仲間達が容赦なく叩きのめされていく。この有様に侵入軍は味方を助けるためか自身の退路確保のためか、我が旗印を示した兵らを襲う。
が、生身の兵らは素早く物陰に退き、代わりと割り込んだ重機鉄人がそのシャベルで敵波動弾を切り払い。そのまま体当たりをぶちかまして押し返す。
うむ。コレでこそである。
工事仕様の装備にしてあるとはいえ、元は私が監修したスメラヴィア製の鉄巨兵。いわば鉄巨人の工兵。
乗り手の防護装甲を施した上でなお敵方より滑らかな動きが可能。となれば一方的に押し戻せても何の不思議もない。
そうして前衛役として鉄巨兵が立ち、隠れ距離を取っていた歩兵がまた素早く足回りや乗り手を攻める。この深く通じた連携こそ我が精兵の真髄よ。
この精兵らへの援護と褒美を兼ねて、私は頭上に振り上げたガラクタの円盤から装備を作って飛ばしてやる。
私直々に力を込めた神秘金属の塊であり、高効率の波動具でもあるそれらは歩兵、機兵の区別なく行き渡り、弱兵らの泣きっ面へさらに打撃を重ねる事になる。
「無闇に殺すでないぞ! 降れば兵ともなり、民ともなる者であるからなッ!!」
我が兵としては耳にタコが出来ている内容であろうが、調子良く仕留めて行く様に改めて命じておく。
ここに至って、盤面はもはや我が方の勝ち戦として定まった。
手持ち無沙汰になってしまった私は、未だ威嚇の意を込めて振り回しているプロトスティウム円盤を見上げる。
分割して部下に配ってなお、未だに大地を砕くハンマーとしての威容を保つコレ。
ここはひとつ自分用の追加ユニットへの作り替えを試みても面白いか。
これまでに作ったのは元がしっかりとあったものを修復改造したようなモノばかりだからな。
というわけでソードウィップを介して新たな波動を流してみる。
「……不敬な」
瞬間、不快感をあらわにした声が我が耳に触れ、我が頭上に回る円盤が二つに砕かれる。




