115:小さいからと侮るなよ
「波動砲二、四、六番撃てェ! 一、三、五番は冷却急げよ!!」
我が半身の装甲を炙る光。
これは私を砦に押し込むペリトロペーをもろともに焼く砦の防衛装備であった。
「チッ! こーんな程度のキーナイトカノンで抵抗とは哀れなもの……グッ」
「冷却が間に合わない!? ならばバリスタでも何でも構わん! とにかく攻撃を絶やすな!!」
「……この! お前たちに、味方しているニクスレイアを……躊躇無しに巻き込んで……ッ!?」
偶数番砲台からの砲撃。それに続く大小様々な質量弾の連打にペリトロペーは嘲りの言葉を遮られる。
そうだ。それで良い。
私とて無傷とはいかんが、この程度で倒れるほどヤワでは無いのは見せつけてきたからな。
というわけでペリトロペーの意識が逸れたその隙に、ソードウィップを鞭型へ。同時にフラッシュブラストと蹴りをくれてやる。
カメラアイの瞬きとうめき声を残しつつ吹き飛ぶ鋼の女戦士。その右前腕、三つの光刃を回すローターブレードには、我が半身の手首から伸びた光の鞭がしっかりと絡みついている。
なので腕を振り下ろせば光刃で繋がったヤツの体は地面に墜落。そこへダメ押しにニクスの目と要塞からの波動砲が殺到、光の柱を作り上げる。
「申し訳ございません閣下! やるしか無いとまとめてに撃つように命じたのはこの私! 何卒、従った部下には……」
「良い良い。良い判断だった。あと一拍送れていれば私から命じていた。後で感状を添えた褒美も取らせよう」
必要だったとはいえ摂政――の持ち物を撃たせた事は事実と畏まる守将に、私は気に病むなと褒め言葉を。
しかしその一方で未だに鞭で繋がった相手からは目を離さない。
土煙と乱れた波動の奥。何かを仕掛けようとしている気配は、ソードウィップ越しにも感じ取ってニクスに構えさせていた。
が、大気が急激に渦巻くのに負けて、引きずり込まれてしまう。
「情けないじゃあないかニクスレイア!! 小動物どもの力をあてにしてるだなんてさぁーあッ!?」
それは当然、ペリトロペーのブレードローターの回転。それが絡みついた我がソードウィップを機体もろともに巻き取ったのだ。
引かれるまま宙に浮いた私に、ペリトロペーは逆の腕に備えたエナジーカノンを発射。
機体の奥に砦を配したこの射撃に、私はそのまま当たる事を選ぶ。
辛うじて装甲で受けたものの、機体を貫いた衝撃に、一瞬肉体と機体のリンクが断絶。そして再びにコントロールを取り戻した瞬間には視界をメタルの塊が埋め尽くして――。
衝撃。
硬く重いものがぶつかりあった轟音が頭部を反響。この響きが収まらぬ間に重く鈍い音が機体を揺るがす。
「み、ミエスク煌冠ッ!?」
「援護! 波動砲急げッ! 倒れたゴーレムに鉄巨神を近づけさせるなッ!!」
倒れた?
ああ、そうか。良いのをもらったせいで受け身を取り損なったか。
援護はありがたい。が、しかし将兵らよ。そなたらをペリトロペーの矢面に立たせねばならない程には打ちのめされてはいないぞ?
「ほぉーん。そうこなくっちゃね。まだまだ楽しませて貰えるかな」
互いを繋ぐソードウィップ。コレを解除して立ち上がる私にペリトロペーは左を前にした半身の構えを。
トドメを刺さず、こちらが立ち上がるのを待っておきながらよくも言うものだ。その油断と遊び癖で足元を掬われた経験も一度や二度では無いというのにな。
「お前の期待に応えるつもりは無い。が、この程度で寝ていてやるつもりも無いのでな」
「ふぅーん。それもちっこい家畜どものためってヤツ?」
そう問いかける鉄の女戦士は、バイザーカメラに不快げなリズムを顕に。
そう感じるヤツの価値観はいい。
己の価値観に忠実に動くのも良い。大切な事だ。
だから私も私自身に従わせて貰うがな。
「家畜……家畜な……お前はそう見下すが、私にとっては忠勇なる民なのだ。それを大切にして何がおかしい?」
「それで倒れるようじゃあバカらしいでしょうがよぉーお?」
軽く嘲り笑うペリトロペー。だがその指先には細かな振動が。
もうひとつつきというところかな。
「あいにくと、仮にそうなったとて私に悔いは無いな。もっとも、お前に出来るとは思わんが」
この一押しが届くや、ヤツの手が拳に固まる。
「だったらお望み通りにしてやろうじゃないか!!」
いきり立つ心を吐き出すペリトロペー。だがその機体が飛んだのはこちらにではない。
高く飛び上がったヤツはそのまま変形。戦闘ヘリとしての姿に。そこへ空からまた別の鋼の巨影が突っ込んでくる。
プロペラを備えた翼影は旅客機か。見るからに容量の大きいその機体が展開し、胴から頭に空洞のある人型の巨体に。
その空洞にヘリ女がドッキング。私で言うところのオーバーユナイト形態を完成させる。
「さぁーあ吹き飛べぇーえ!!」
数多のプロペラを高速回転。一気に上昇したペリトロペーは大地に向かってその回転翼を。
だがあいにくとそこに私はいない。棒立ちになってなどいない。
「バカなッ!? ドコにッ!?」
「ここだ」
ぶつけどころを見失った暴風を抱えたまま、慌ただしく明滅するカメラアイを動かすペリトロペー。そこへ投げかけた一言で、ヤツは私を。すでに懐に潜り込んでいた私を見つける。
別段凝った仕掛けをしたわけではない。先ほどと同じだ。
ヤツの回転翼に再び絡ませた光鞭を巻き上げさせ、その勢いで跳んだまでの事。その力を貰うのと合わせて一度ソードウィップは切り離して、私の手からはすでに新しい光が伸びている。
状況をヤツが悟ったその時には、すでに編み上げ束ねた我が刃はヘリと旅客機部分の継ぎ目に。
「ガッ……ああッ!? バカなッ!?」
「何がおかしいものか。相変わらずのお前の慢心が招いただけの事」
「おのれぇーえ!!」
痛いところをさらに抉るニクスに、ペリトロペーは未だプロペラに留まった波動を開放。爆ぜるように広がった暴風に、ニクスの機体も木の葉のように吹き飛ばされてしまう。
五体を広げ、スラスターを吹かして制動。さらに着地点を狙って飛んでくる光弾へバク転とフラッシュブラストとで対応。
そうして深く膝を曲げて静止。合わせてエナジー・ソードウィップを振るって波動の弾丸を切り刻んでジャンプ。
直後、宙返りする我が半身の真下をペリトロペーの腕が通り過ぎる。
「ええいちょこまかと!!」
「なんの。こちらは小回りを活かしているまでの事。お前が飛べるだけでノロマなだけよ」
「ぬぅああぁーあッ!!」
挑発混じりのフラッシュブラストや光鞭を織り交ぜお見舞いしつつ、追いかけてくる刃や蹴り足を交わしていく。
そうして傷ついた巨体にチクチクとやっている。が、本当に細かな傷が増すばかり。
先にペリトロペー自身が自爆同然に放った暴風の方がまだ深手なくらいだ。その傷を的確に突いた部位だけは例外だがな。
そうしてまた苛立ち任せに振られた蹴り足とすれ違いながらに、プロペラ部にエネルギー刃と弾丸を。
怒りに飲まれているようでありながら、面制圧を狙って力をためているのだから油断がならん。
「ええいッ! 小賢しいマネをッ!! コレが使えさえすればッ!!」
「使いたいのなら使ってみれば良いではないか? もっとも、チャージなどさせはしないが」
向こうには大したダメージにもならない攻撃。これを添えて挑発をもう一つ。するとたまらずにペリトロペーのプロペラから突風が。
タメもなし、狙いも甘いそれでは二割落ちのニクスであっても食らってはやれんがな。
とはいえ、まだ冷静さを失ってくれている今のうちが頃合いか。というわけでフラッシュブラスト。胸元に弾けたこれに合わせる形で、ペリトロペーの背中に光が爆ぜる。
「う……ぐ、どこから……!?」
「それはご挨拶というものだろう。さっきからお前を相手に戦っていた我が部下に対して」
後ろから波動砲を斉射した砦に目を向けたペリトロペーに、私は再び編み上げソードウィップを突き入れてやる。
その狙いも先と寸分違わず同じ、旅客機部とのジョイントだ。
いくらその身を巡るエネルギーに差があろうと、開いた穴をこじ開けられては耐えられまいが。
そんな私の目論みどおり、ペリトロペー本体との繋がりを乱された巨体は片腕をダラリと落として片膝をその場に。
「ば、バカな!? どうやってあんなタイミングを……体ひとつでは受信も出来ないチビスケの原生生物如きが……!?」
「何もおかしい事はあるまいが。合図を送る方法などいくらでもある」
タネを明かせば単純な話。
ペリトロペーの装甲を叩く攻撃。そのパターンを信号にして命令しただけの事だ。
砦に詰めた将兵の連度あっての成功であるので、私としてはあまり自慢出来る策では無かったがな。
ともあれ我と我が兵の連携を受けたペリトロペーは合体を解除。高く飛び上がってこの場を後にする。
さすがに追撃しようにも手札は無し。この場は撤退を見送る他無いのであった。




