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104:建前は必要である

「浮いてるよ……あんなデカいのが……うっそだろ?」


「いや神秘金属プロトスティウムの塊だって話だからあり得なくはない……のか?」


「いやいやいや! 元は神託の聖地だったって話だぞッ!? それをあんな勝手にさせてはッ!」


「いいや。アレはあくまでも聖地とされていた箇所の外側。そこにあったという未踏の部分だとか。それにその託宣をしてくれていた神……サンダーホイール様が許しているのなら我々には何も言えまいが」


 空に浮かぶビッグバンの一部。飛行要塞の基部に変じたそれを見上げた野営地からの声を集めて抜粋すればこんな所か。

 重きを置いている所はまとまっていないものの、空気そのものは戸惑い一色と言っていい。

 落ち着いているのはアレを浮かせるところまで持っていった私、レイアと……。


「金属で出来たただの遺跡だと思ってたのに、あんな風に動き出すだなんてなぁ……」


 私の横でシャベルを握ったメイレンだ。

 私に仕えてきた彼女からすれば、私の行いとしてはこの程度は普通の事なようだ。


「動力……所謂心臓に当たる部分が仮死状態だったから出来たまでの事。そうでなくては私とてこの身ひとつで浮上させるまで持っていくのは無理だとも」


 サンダーホイールのホログラム。

 これが不具合を起こしつつも起動出来る。その程度にはキーナイトが巡っていたからこそここまで持っていけたのだ。そうでなければいかにプロトスティウムの塊たるビッグバンの一部とはいえ、土を通じて湛えた力を星に流し、朽ち果てていた事だろう。

 その状態からの改造復活は流石に私でも無理だ。

 仮に形は残っていたとしても、動力部が完全に死んでいたならば、機体レイアも持って来て、さらに超巨大合体形態セレンニクスレイアになった上での長期間の修復作業が必要になった事だろうな。

 その必要がなかったこと、それは良い。それで私たちが土いじりの道具を手にして何をしているのかと言えば、地中から空に出たモノの文字通りの穴埋めだ。

 重ねてになるが現在空にあるあれは、獣人連合にとって神託の聖地であったサンダーホイールホログラムの間。それとそこに続くメタルの洞窟。その部分は切り離して、彼らが手付かずに放置していた残るほとんどの部分を変形。新たな機能を持たせて浮上させたものである。

 外で野営する新参の部下たちを巻き込まぬように地上へ、そして空へと飛ばしたわけであるが、当然抜けた分の穴は空くわけで。

 なのでそうして崩れてしまった土地を埋め直し、均して植樹している最中だと言うわけだ。


「荒したままで後は知らぬと放り出すのは簡単だが、後には間違いなく反感と不信がついてくることになるからな」


「そりゃあそうでしょうけども、それならそれで先に発掘なりの工事をしてしまった方が楽でしたよね」


「あらかじめ方々に手を回そうにも接触するなりに動き出してしまったからな。すべて事後承諾にはなってしまうが仕方ない」


「ああー……っとそうでしたね。レイア様が授かったもの。それが止めるまもなく動き出してしまったからしょうがないんですよね」


 穴埋め作業を進めながらメイレンが思い出したように訂正したように、そういう事になっている。

 私の欲望が先行して、段取りをすっ飛ばしてしまった事の帳尻合わせとして、いきなりだったから仕方がなかったという台本にしたのだ。

 政の上では……そうでなくともよくある事。こういう帳尻合わせを押し通すために、別の要件を飲んで取引するというのもまたありふれた話だ。

 まあよほどの条件でなければ明確に儲けとなる代物であるがな。


「うーん……私はそれは別にいいんですけども、質問されたらポロッとしちゃいそうな自分がちょっと心配」


「メイレンをそういう腹芸を求めて召し抱えてはいないからな。その上で押し通してみせるのも私の度量というものよ」


 そちらが気にするものでもない。フォローのつもりであったのだが、メイレンは微かに眉を顰めている。

 ふむ。これはアレか、そういう方面では最初からまったく当てにしてないし、進歩もしないと見切っている。そのように取られてしまったか。


「苦手分野なのは承知している。だから漏らさぬように努力していてくれれば良い。なんなら真の現場にいたのはこのレイアとサンダーホイールのみなのだから、とパスしてくれれば……何を笑っている?」


 曲がった意図で伝えてはならん。その一心で私は言葉を重ねる。が、その私の言葉を受けるメイレンは動きの鈍い頬の表情筋を震わせているのだ。それを見咎めて突けば、頭を下げてくる。


「いや、あのレイア様が頑張って訂正いれてるのが面白くて……つい」 


 そんなに面白がる事か?

 まあ良い。メイレンが気を悪くしていないのならば問題は無いからな。

 ともかくメイレンにパンはパン屋と思って回せば良いと念押ししておいて、その誤魔化しと大穴の片付けをしてまで手に入れた儲けものを見上げる。

 真下に近いこの角度からは両脇から羽根を伸ばした筒が浮かんでいるようにしか見えない。が、全体としても大まかに言えば羽根つきのボートのような形だ。

 波動エネルギーを生み出すジェネレーターに、巨体を動かす推進力の基となるスラスター各基。ニクスレイアがメタルの配下諸共に分離形態で寛げるスペースと離発着を可能とする機構。そしてもちろん飛行船としてコントロールするブリッジ。

 そんな機械生命体らのためだけに求める、最低限の機能だけを盛り込んだ状態である。

 キッチンや風呂、寝床等々、人の生活に必要な区画はこれから後付けにしなければならない。

 そんな不完全極まる程度ではあるが、それでも私がコアトルウイングかプテラウイング。あるいはその両方と合体してやっていた飛行移動が、速度はともかくより大規模に出来るようになったのは大きい。

 これでより高性能な通信設備を各拠点に整えておいていけば、私自身の足回りも良くなろうというもの。


「……レイア殿は何をそんなに浮かれているのか」


 そんな文字通りの掘り出し物とその恩恵に思いを馳せていた私に頭上から冷ややかなツッコミの声が。


「なんのサンダーホイール殿。そなたと共に迎えられた逸品たるあの船が私に齎すモノについて考えていたら自然と頬も緩むというものよ」


 隠し立てするような事は何にもない。というわけで素直に答えたならば、サンダーホイールは受け止め損ねたように渋い顔をして目を瞬かせる。

 私とコイツ。かつては対立する陣営に身を置いていたモノ同士ではあるが、我が傘下に加わったからには存分に働いて貰うとしよう。ただいまの穴埋めの作業はもちろんのこと、獣人氏族らから託宣の神として崇められる身の上としての説得もな。

 船を預けて私の代わりに遠征を任せるのも良いかもしれん。

 今の所、ヤツに取っても所在不明のガストロリトスは脅威であろうからな。私がかつての上役との対立をしている内は利用したいだろうとも。

 その脅威が解消されるまで共闘した上で、まだ昔の因縁に固執するか、サンダーホイールなりの野心を抱いたかして手向かうのならばそれもまた面白い。

 そんな私の考えを察しているのか、サンダーホイールは顔に浮かべた渋みを深くする。

 今は土木作業に集中するかと意識を向けかけた所へ、こちらに近づいてくるジープが。屋台を牽引してきたそれは、メイレンに預けたホンシンである。


「あ、来た来た。じゃあ昼の休憩にしましょうかレイア様」


「おお。もうそんな時間が。土木班は皆道具を置いて休め! 腹を満たして一息入れよ!」


 メイレンに促されるままに私が号令をかけ、これを全体に伝えるべくラッパの音が高らかに響く。


「……ニクスレイアってこんなヤツだったのか?」


 そんな休息を告げる音に紛れるように、首を捻った鉄巨人がつぶやきを漏らすのであった。

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― 新着の感想 ―
かつての敵が見せる意外な一面に困惑しきりですなあ。
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