第605話 ショウ君の最優先は当然
土曜日
「よっと」
土曜のお昼。
ミオンはいつも通りボイストレーニングなのでソロプレイってことで、北端の城の中庭へと転移してきた。
居館の中が気になるけど、今日は夜にライブがあるので、いったんおあずけ。
ミオンが不在の時に進めちゃうのもどうかなと思うし。
「ワフン」
「ちょっと待ってね」
ざっと見回す限り敵はいなさそう。
転移魔法陣を置いてエルさんに連絡する。
「置きました。みんなに伝えてください」
『了解だ』
まずレダとロイが現れ、次にシャルたち、最後にパーンたちが現れた。
パーンたちを呼んだのは、ひとまずこの中庭が安全なのを再確認し、ついでに綺麗にするため。
「リュ?」
「うん。ここをお願いしたいんだけど大丈夫?」
「リュ!」「「「リュリュ〜!」」」
任せろとさっそく指示を出すパーン。
手伝いに来てくれたウリシュクたちが、まずは噴水の周りからってことで、雑草を手際よく抜いていく。
「ルピたち、シャルたちは警戒お願いね」
「ワフ!」「ニャ!」
何もいないとは思うけど、今住んでる屋敷がすっぽり入る広さの庭だからなあ。
屋敷の近くにいたヘビやネズミ、洞窟にいたムカデとかにも気をつけないと。で、俺はこの噴水を直したい。
「リュ?」
「うん。この噴水を直そうと思って」
水が噴き出すようにはできないと思うけど、せめて溜まるようにはしたいかなと。
割れた底石を掘削で粉砕して外へと。剥き出しになった土を埋めてから転圧し、代わりになる石壁を作ってはめていく。
「リュ〜! リュリュ?」
「あー、屋敷の裏庭にも作っていいかもね」
もともとどうやって水が出てたんだろう。っていうか、この噴水は古代遺跡の機能で水が出るのか? 鑑定してみればわかる?
【古代魔導噴水】
『元素魔法によって定量的に浄水を湧き出す噴水。機能停止中』
へー、浄水の魔法を発動し続けてくれるのか。
古代遺跡なんだし、この建物にも制御室ってあるよな。早めに見つけられれば、探索も楽になりそうだけど……
そんなことを考えつつ作業して、噴水の底と側面を補修し終わった。
「よし、できた! 休憩にするからみんな呼んできて」
「リュ!」
ずっと手伝ってくれていたパーンにお願いし、ルピたちにも集まってもらう。
気がついたら噴水の周りの雑草は綺麗さっぱり消えていて、土が露出した状態になっていた。もともとは芝生が生えてたのかな?
「リュ?」
「そのへんはスウィーにでも相談するよ。今は休憩、おやつにしよう」
「ワフ!」「ニャ!」「リュ〜!」
キリのいいところで終わりにして、夜のライブに備えないと。
***
夕食後にバーチャル部室へと。ライブの準備もあるので早めにログイン。
昨日の進捗も含めて、ベル部長やセスに報告&説明。
「お城というと、ラムネさんの島もそうだったわね」
「あー、そういえば……」
シャルたちが元いた島、今はシトロン王国になってるけど、あの島には古代遺跡の城があったって話。
「ラムネさんはそのお城を探索し終えたんですか?」
「ある程度はね。ただ、管理者権限で開かない扉があって、そこで諦めて他のところに行っちゃってるわ」
「え? 管理者権限つきの指輪を持ってない?」
「ラムネさんは持ってないわよ? 死霊都市のワールドクエストのころは島にいたし、その後に残ったインスタンスダンジョンにも入ってないもの」
あー、そうだよなあ……
じゃあ、誰か別の人がってなるんだけれど、権限が足りなくて開かないんだとか。
蒼雲、蒼星、蒼月の指輪の三種類あって権限がそもそも違ったっけ。
「兄上が持っておる『蒼月の指輪』が現状では最上位権限の指輪よの。おそらく、所持しておるのは兄上だけであろうて」
「マジかー……」
一昨日、その辺りの話はしたっけ。ワールドユニークってわけじゃないだろうけど、そもそもうちの島がエンドコンテンツっぽいからっていう。
「部長が持っている蒼星の指輪でもダメなんでしょうか?」
ミオンの言う『蒼星の指輪』は死霊都市のワールドクエストで強い悪魔を倒したら手に入るやつ。
ベル部長も持ってるし、ミオンも俺が死霊都市でバーミリオンさんからもらったやつを持っている。
「わからないわ。ラムネさんがその気になれば手伝うつもりではあるけれど、今のところ興味はないみたいね」
と呆れ顔のベル部長。
ラムネさんらしいっちゃらしいけど、ダメってわかったら切り替え早いタイプだしなあ。
「我らが気を揉んでもしかたあるまい。それより兄上、今日のライブはその中庭でやるのか?」
「いや、普通に屋敷の裏庭でやるよ。ライブ終わったらアルバムの発売だし、今日は予定通りの時間で終わるつもりだし」
「そうであった!」
ミオンがちょっと申し訳なさそうにしてるけど、今日が発売日なんだし、そっちの方を絶対に優先すべきだと思う。
城のことはライブで話すつもりではあるけど、居館の調査は日曜にミオンも一緒にじっくりの予定。森の西側が不穏なのもなんとかしたいし……
「ショウ君。そろそろ転移魔法のクールタイムが終わってると思います」
「りょ」
まずは転移魔法陣をトゥルーたちのところに持って行って、今日のライブに参加できるようにしないとだよな。
………
……
…
<10秒前……、5、4、……>
「みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムへようこそ! ミオンです」
「ショウです」
「「よろしくお願いします」」
【コイチー】「おや? スタジオスタート?」
【シェケナ】「きゃ〜! ミオンちゃ〜ん〜!」
【ブルーシャ】「かわい〜♪(*'▽'*)」
【サテナー】「今日はいよいよ発売日!ヽ(´▽`)/」
etcetc...
今日はそろってスタジオからスタート。
まずはこのライブが終わった後、ミオンのファーストアルバムが午後10時に発売開始となる話をして、ミオンが一曲歌ってるうちに俺はログイン。
あとはみんなで、食べて、飲んで、歌って、かな?










