第604話 北端にてたたずむ
「よっと」
夜。転移魔法陣で戻ってきて、
「ワフ」「ブルルン」「ニャ!」
留守番をしてくれていたルピ、リゲル、シャルたちと合流。
放課後にいろいろと準備はできたので、しっかりご飯を食べてから、北端の塔を目指そう。
すぐにラケをリーダーにギリー・ドゥー6人が現れ、その後しばらくしてミオンとエルさんが現れた。
「お待たせしました」
「何かあった?」
「アルテナちゃんがちょうど起きたので、ご飯の用意をしてきました」
留守番に残るエメラルディアさんの分をお願いしてたんだけど、そこに白竜姫様も起きてきて、少し時間がかかったらしい。
で、結局、スウィーも留守番に残ることになったそうで。
「すまない」
「いえいえ」
俺としても、もう少しのんびりしたいところだけど、10月に入ると中間テストもあるし、それまでにはかたをつけたいところ。
北の森を抜けて北端の塔までクリアリングできれば、島の全貌がわかるので、そこで一区切りできるはず。
「じゃ、こっちも出発前に腹ごしらえにしようか」
「はぃ」
みんなで輪になって座る。
今日のご飯はお手軽に食べられてボリュームもしっかりあるカレーパン。
バランスを考えて、キャロッタ(ニンジン)とキューカ(キュウリ)のピクルスを副菜にした。
この後の事を考えて食事バフもバッチリだし、
「どう?」
「美味しいです」「ワフ!」「ニャ〜」
冷めても美味しいので、猫舌なシャルたちにも好評。
食べ終えたところで一息つきつつ、今日の目的をみんなに再共有。
北端にある塔まで辿り着くことを目標にして、敵がいても戦闘はできるだけ避ける方向で。
「はぃ」「了解だ」
みんなやる気まんまんだし、そろそろ出発かな。
「じゃあ、行こう」
「ワフ!」
………
……
…
ルピたちを先頭に、俺とシャルたちが続き、ミオン、エルさん、リゲルと続く。
ラケたちは森に入ってすぐ樹上へと移動し、周りを警戒し始めてくれている。
「そっちは大丈夫そう?」
『はぃ』
大声で確認するわけにもいかないので、ギルドカードをつかって会話。
正直、バックアタックされるのが一番怖いんだけど、特に問題はなさそう。
先行してるルピたちも、警戒はしてるけど、特におかしなこともないようでスルスルと進んでいく。
しばらく進んだところで、ルピがピタッと足を止めた。それに合わせて、俺も右手をあげる。
この合図を出した時は、俺から話しかけるまでは音を立てないよう気をつけてもらうことになっている。
ルピが振り向いたので感知共有をして確認……、前に見かけたクロクハイエナが遠くからこっちをうかがってるっぽい。
「ルピ」
手招きしつつ、小声でルピを呼び寄せる。
前にルピやリゲルを恐れて逃げた相手だから負けはしないだろうけど、相手するのもめんどくさいだけなんだよな。
「少し右へ避けよう」
「ワフ」
それでも襲ってくる様なら相手するしかないけど、多分、遠巻きに見てるだけだろうし。
「少し進路を変えるよ」
『はぃ』
北端の塔までまっすぐ北東方向へ進んでいたのを、東北東へと変更して進む。
ハイエナたちは追いかけてはこないっぽいし、だんだんと森の様子が明るくなってきた。
「東側は大丈夫っぽいね」
『そんな気がします』
森の西側に何かありそうな気がするけど、まずは塔の方を優先。
海が見えてきたところで北へ進路を変更し、やっと見えてきたのは、
「崖下から塔に見えてた部分って、建物の一部だったのか……」
「お城みたいですね」
「そうだね。サイズは小さめだけど」
しっかりとした石壁があって、その中央には立派な門がそびえ立っている。
中の様子はわからないけど、居館や塔までの距離を見る感じ、そこそこ大きな中庭がありそう。
「中を見ますか?」
「門が開けばだけど……時間はまだあるよね?」
「はぃ。10時をまわったところです」
じゃ、10時半まで調査して、転移魔法陣を使って帰るでいいかな。
まずはこの城門が開くかどうかだけど……
「じゃ、みんなはちょっと下がってて」
「はぃ」
俺とルピの二人だけで城門へと近づく。
この大きさの門だと、普通は手で開けるのは不可能だろうけど、古代遺跡なら一人で開けられるよな。
【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。最上位管理者権限を確認しました。開錠しますか?】
「はい」
よし、いけた。
えっと、西洋の門はだいたい内開きらしいから、押せば開くはず。
「おっと」
思った以上に軽い手ごたえだったので、あわてて力を抜く。
何かいるかもしれないしってことで慎重に押し開けると、ルピがすっとその間をすり抜けて中へと入った。
「ワフ」
「おっけ」
異常無しっぽいので、両方の扉を大きく開く。
まず目についたのは、真ん中にある大きな噴水。ただ、水は出てないし、干上がってそう。
その向こうには玄関でいいのかな。緩やかな上り坂の先に居館への扉が見えた。
左右を見渡すと……荒れ放題だなあ。
『どうですか?』
「あ、うん。大丈夫そうだから、来ていいよ」
ミオンたちも中に入ったところで門を閉めて施錠。
いったん落ち着けそうかな?
「ワフ?」
「うん、お願い」
「「バウ」」
ルピたちが周りを確認したいらしいのでオッケーを出した。
ミオンとラケたちは荒れてる花壇を調べてるけど、エルさんもシャルたちも警護についてくれているし大丈夫だろう。
と、リゲルが噴水のところまで行って……首を傾げた。
「あ、水飲みたい?」
「ブルルン」
水の精霊にお願いし、俺の両手に注がれる水を美味しそうに飲むリゲル。
こぼれ落ちる水が噴水池に落ちるんだけど、底石が割れちゃってて、溜まりそうにないな。
「ワフン」
「おかえり。ルピたちもどうぞ」
居館と奥の塔が気になるんだけど、中を全部見て回るには残り時間が微妙。
うーん、とりあえず、居館の玄関扉が開くかだけ確認するか? 開かないなら、この中庭は安全になるわけで、今後の探索もしやすくなるはず。
「ミオン。とりあえず、玄関扉が開くかだけ見てくるよ」
「ぁ、私も行きます」
「ワフ!」
短い石段を上った先には見慣れた古代魔導扉。
ミオンの見立てでは、管理者権限が必要な扉らしいけど、一応確認ってことで。
【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。最上位管理者権限を確認しました。開錠しますか?】
よし。ここは「いいえ」と答えて、続きは明日にしよう。










