第592話 紫電一閃
ウィザーレーシーの方は任せて、コボルトの群れと対峙している左側へ急ぐ。
石斧のような武器を持って襲い掛かってくるコボルトたちを、プレイヤーさんがタンクになって受けとめて、そのサイドから妖精たちが攻撃の形ができている。
後方から投石をしてくるコボルトスリンガーには、
「ワフ!」
「「バウ!」」
ルピ、レダ、ロイが一撃離脱で襲い掛かることで撹乱中。
こちら側の弓使いや魔法使いも、ルピたちが混乱させた相手を的確に攻撃してくれているし、こっちも俺の出番はなさそう?
「ジュ!」
「おっけ。無理はしないで」
ガジュが参戦したいとのことで送り出す。
ナットたちが終われば、こっちに加勢してくれるだろうけど……
「すまん! 一番奥にいる奴を頼む!」
「了解です!」
ルピたちが走り回ってる奥に、前にもいたコボルトリーダーがいるのが見えた。
「リゲル、行くよ!」
「ブルルン!」
戦闘中のプレイヤーさんたちの横をすり抜け、コボルトスリンガーたちの投石は水の盾で止める。
「ルピ!」
「ワフッ!」「「バウ!」」
ルピたちとも合流し、一気にコボルトリーダーへと向かう。
それを見て、慌てて集中攻撃の指示を出すコボルトリーダーだけど、
「ガウッ!」
「「バウッ!!」」
ルピたちがリーダーの側にいるコボルトやスリンガーに襲いかかる。
慌てて逃げようと振り向いたコボルトリーダーを、
「リゲル! 飛び越せ!」
「ブルルン!」
ジャンプしたリゲルが飛び越す! そして、
「<落石>!」
ベノマスライムをぺしゃんこにしたように、大きな岩を頭上に落とすと、もろに食らったコボルトリーダーがその下敷きになった。
「グゴアァァ!」
「うわ、しぶといな……」
なんとか岩の下から這い出したけど、おぼつかない足取りで、ただ吠えることしかできないコボルトリーダー。
とどめを刺してやろうとリゲルから下りたところで、側近を倒し終えたルピたちがすっと前へと出た。
「ワフ!」
「ん? うん、いいよ」
なんかルピがやる気まんまんなので任せてみよう。
多分もう、クラッシュクロー一発で倒せるだろうし、レダとロイもいるし……ん?
「ウウゥゥゥ……」
四肢を踏ん張って力を溜めるルピの体に紫の光が集まり、やがてそれが雷のように姿を変える。
「ウオォォーン!」
天に向かって吼えた瞬間、集まっていた紫電がコボルトリーダーへと降り注ぎ、一瞬にしてそいつを黒コゲにしてしまった……
「ワフン!」
「お、おう! すごいぞ、ルピ!」
俺に振り向いてドヤ顔のルピ。レダとロイもめちゃくちゃ驚いてるし……
新しいアーツを習得したんだろうけど、これ通知って戦闘が終わらないと出てこないんだっけ。
『ショウ君。他の方たちを』
「うん」
疑問は後回しでいいや。
ナットたちも合流し始めてるし、さっさとコボルトを駆逐して終わりにしよう。
………
……
…
【キャラクターレベルが上がりました!】
【乗馬スキルのレベルが上がりました!】
【精霊魔法スキルのレベルが上がりました!】
【精霊魔法スキルの基礎値が上限に到達しました。1SPが返還されました】
【精霊魔法のスキルレベルが上限を突破しました】
【ワールド初のスキルレベル上限突破(精霊魔法):3SPを取得しました】
【ルピがアーツ<ガルムライトニング>を習得しました!】
お、久々にいろいろレベル上がった!
乗馬スキルはまあいいとして、精霊魔法のスキルレベルがようやっとMAXになったのが嬉しい。
セルキーの呼び子のペンダントで上限突破もしたけど、上位スキルが取れるってのは出なかったか。
あとルピのさっきの攻撃は、この新しく取得したアーツ<ガルムライトニング>だよな。
そういえば、リゲルの氷の柱を出すやつもアーツっぽいのに、全然確認してなかったな、俺……
『ショウ君?』
「あ、ごめん。えーっと、ガジュ、シャル、他のみんなは大丈夫だよね?」
「ジュ〜」「ニャ!」
キジムナーたちも、ケット・シーたちも、ちょっとした擦り傷ぐらいで問題なし。
それもプレイヤーのヒールで治してもらったそうだ。
「ショウ! ウィザーレーシーの鑑定しないのか?」
「あ、やるやる」
俺の鑑定が終わるまで解体も待ってくれたようで、ボコボコにされたウィザーレーシーのところまで道を開けてくれていた。
「すいません。すぐ終わらせます」
「焦らなくていいよー」
「ゆっくりでおけ」
リゲルを降りてその間を進むんだけど、急ぎたいのと恥ずかしいのとで、嫌な汗が出てそう。
そんな俺に対して、先頭を歩くルピ、そのサイドのレダとロイ、後ろからついてくるリゲルは堂々としたもの。
「ルピちゃ〜ん!」
「可愛いすぎ!」
声援を受けながらウィザーレーシーのところに辿り着くと、そこにはズタズタになった材木のようなものが転がっていた。
「え? これ?」
「おう。まあ、剣やら斧やらで殴りまくったからな……」
ナットがそっぽを向きつつそう答え、まわりのプレイヤーさんたちもすっと顔を逸らす。まあ、気持ちはわかるし、ともかく鑑定。
【ウィザーレーシー】
『樹皮の肌を持ち樹木に擬態する悪霊。空間を歪めることで、迷い込んだ人や妖精を捕食する』
「悪霊か……。悪魔とは関係ないよな?」
「わかんねーけど、ないんじゃねーの? それより、もう解体していいのか?」
「ああ、すまん。えーっと、俺はいいんでお願いします」
待ってくれていたプレイヤーさんたちにお願いすると、十人以上でウィザーレーシーの残骸を解体し始めた。
「分配どうする?」
「任せるよ。俺は手伝ってもらった側だから最低限でいいし」
「おう。じゃ、いい感じにしとくぞ」
こういう時はナットに任せておけば、うまくやってくれるだろう。
それはそれとして、
『このまま進みますか?』
「えっと、午後3時すぎか。もうしばらくは大丈夫だけど……」
「そりゃ、先行くだろ」
周りの人たちも頷いてるし、さっさとこの森を抜けてって感じかな? ルピたちもやる気まんまんだし、ガジュもシャルも、
「ジュジュ!」「ニャ!」
「じゃ、行きましょう!」
「「「おおー!!」」」










