第591話 迷いの森に潜むもの
よくよく見ると、ファンタジーにあるトレントとは違って人っぽい。
樹木に擬態した巨人? 瘴気のせいなのか、そいつの周りの空間が歪んでるし、とにかく変だ。
これ、ミオンからもらったスカーフがないと、気分悪くなってたかも?
「ルピは見える?」
「ワフ」
じっと、そいつから目をそらさずにいるルピ。
ただ、こっちには気づいてないのか、ゆらりゆらりと森の奥へと歩いていく。
『ぁの、何が見えてるんですか?』
「え?」
配信を通したミオンには見えてない?
他の人たちはどうなんだろうと振り向くと、キジムナーたちはわかってるのか、石槍を構えてるのに対し、ナットたちは……何があったのかわかってない様子。
「いったん戻ろう」
「ワフ」「ジュ」
見失っちゃうけど、俺たちだけで追いかけるのもまずいよな。
キジムナーたちには見えてるっぽいのと、その近くにいれば認識できそうなことをナットに伝える。
「じゃ、キジムナーに一人ずつ付いてもらえりゃいいんじゃね?」
「だよな。一人じゃ不安だろうし、ケット・シーとペアでかな?」
「わかった。うちにもモグがいるし、妖精たちで固まってる方がいいな」
「グー」
任せろと胸を叩くモグ君。
ガジュとシャルに説明して、それぞれのパーティにキジムナーとケット・シーが一人ずついるようにしてもらう。
「で、そのヤバいのはトレントか?」
「うーん、違う気がするんだよな。木っていうよりは人っぽかったし……」
とにかく、もっと近づいてみないとわからないってことで前進再開。ルピとガジュを連れた俺が先頭を進む。
他のパーティも斥候メインの人がキジムナーとケット・シーを連れて先頭に立ってもらっている。何かあったら声をあげて集まる手はず。
あと、リゲルにはその目印になってもらい、レダとロイにサポートをお願いした。
「こっちだったよね?」
「ワフン」「ジュジュ」
さっきの巨人がいたあたりまで来たんだけど……どこいったんだ? 歩くスピードはかなりゆっくりだったのに……
ナットたちの方も特に異常なしっぽいし。
「ジュジュ!」
「ん? あれ? こっちか」
さっきのやつのせいで、微妙に進む方向を間違えてたっぽい?
俺が進む方向を、まわりのプレイヤーさんたちにも確認してもらって、同じ方向へと進んでもらう。
しばらく進んだところで……
「ジュ!」「いたぞ!」
右側の端近くにいたプレイヤーさんから声があがり、みんながそっちへと駆け寄る。
「あいつですよね!?」
「ええ、あいつです」
改めて見ると、やっぱり瘴気の周りが歪んでいて気味が悪い。
これ、催眠術みたいなものを仕掛けられてたりするのかな?
「ショウ、どうする?」
「近寄ってモンスターかどうか確認だな。ネームプレートが見えるところまでは行きたい」
ネームプレートが赤ならモンスターだし、倒したほうがいいだろう。いや、というかそもそも、
「ガジュ。あいつって悪いやつだよな?」
「ジュ!」
うん。ガジュもあいつはダメだって言ってるし、隣のシャルも頷いている。
「一人で行くか?」
「いや、見間違いは避けたいし、みんなで行こう。この人数なら戦闘になってもいける……よな?」
「おう、任せとけ」
ナットからそれぞれのパーティリーダーに説明してもらってる間、ガジュにはあいつを見張っててもらい、俺とルピ、シャルで作戦会議。
今回は他のプレイヤーさんたちもいるし、光の精霊での目潰しもダメだし、隠密もちょっと使いづらい。戦闘は任せちゃって、フォローに回ることを優先しよう。
あ、精霊の加護つけるの忘れてた。翡翠の女神の使徒の加護があるから、つけないともったいないよな。
「こっちは準備オッケーだ。モンスターなのが確認できたら行くぞ?」
「おっけ」
ナットが右手を上げて前へ。それに従って、全員があいつへと近づいていく。
こちらに気づいていないのか、無視しているのか、ゆっくりと歩いている奴に徐々に近づいていくと……
「敵だな。行くぞ!」
ネームプレートは赤。名前はウィザーレーシー。
鑑定はまだできない距離だけど、ナットを先頭に近接攻撃のファイターたちが突っ込んでいく。
それぞれに、自分たちのパーティメンバーから神聖魔法の加護をもらってるっぽい。
「グオオォォ……」
ゆっくりと振り向いたそいつが、木の枝のような腕を振り上げると、イバラの蔓が地面から生えて、ナットたちの足元に絡みつく。
「シャル!」
「ニャ!」「「「ニャニャ!」」」
シャルたちケット・シーが駆け寄って、声掛けしてから絡んだ蔓を切っていく。
「ワフ?」
「ごめん、もう少し待ってて。これだけ騒いでたら、きっと……」
「ジュジュ!」
ガジュが声を上げて左前方を指差す。
その方向から、かなりの数のコボルトたちが現れて、左側にいたプレイヤーたちへと襲い掛かった。
「ガジュ! ルピ! レダとロイもあっちの援護お願い!」
「ジュ!」「ワフ!」「「バウ!」」
フォローを任せ、俺はやや苦戦してるナットたちの方へ近づく。
後ろから見ている感じ、いばらの蔓はなんとかなったみたいだけど、やつの腕や足から伸びてきた蔦の攻撃が多彩で苦戦してる様子。
「キツいか!?」
「ああ! ちょっと! 近寄れねえな!」
両手剣を器用に振り回して、襲い掛かってくる蔦を切り払うナット。
持久戦に持ち込むとこっちが不利な気がするし……
「リゲル!」
「ブルルン!」
待ってましたと駆けてきたリゲルに飛び乗り、一気にナットの前へと出た。
「思いっ切りやっていいよ!」
「ヒヒーン!!」
大きく前足を振り上げ、さらに軽くジャンプして地面に叩きつけると、ウィザーレーシーの足元から大きな氷の塊が生えて、奴を空中へと突き上げた。
さすがに突き上げられると蔦の制御もできないようで、無軌道に暴れながら墜落する。
「今だ! 行け!」
「「「うおおっ!!」」」
ナットたちが横を通り過ぎ、ここぞとばかりに突っ込んでいく。
なんか、斧を持ってる人がクリティカルヒットしてるみたいだし、あとは任せちゃって大丈夫かな?










