第590話 翡翠の女神の使徒
教会の中はうちの島のとほぼ同じ。
さすがに長椅子の形なんかは違うけど、サイズや並んでる数も同じっぽい。
そして、その一番奥には、俺が作った翡翠の女神像が飾られてるんだけど、その手前に腰ぐらいの高さの木の柵が置かれている。
「この柵、いい出来だなあ」
「おい、そっちじゃねーだろ」
いや、だって気になるし。
ニスが塗ってあるっぽいんだけど、どうやって作ったんだろう。
「ワフ」
「うん。お祈りしようか」
この後のことも考えて、ちゃんとみんなが無事であるようお祈りしておく。
なんか女神様に見られてるような気がするんだよな。いや、うん、実際、見られてるんだけど……ん?
「おい、ショウ。バフついたんじゃね?」
「は?」
後ろにいた人たちが、俺やルピたちが一瞬淡く光ったのを見たらしい。
そういえば、死霊都市の女神像って、お祈りするとバフがつくって聞いたし、それが適用されたのかな?
いや、でも、あれってイベントアイテムみたいな像だし、俺が作った女神像でっていうのも変なんだけど……
『ショウ君。ステータスを』
「あ、うん」
そんなことを思いながら確認すると、
【翡翠の女神の使徒の加護】
「は?」
【翡翠の女神の使徒の加護】
『翡翠の女神に愛された使徒。その加護は大いなる力を与えてくれる。神聖魔法と精霊魔法の消費MP5%減少、AGI、LUK+3%(1時間)』
……あれ? 今までそんなことあったっけ?
いや、『翡翠の女神の使徒』って称号を獲得したのは覚えてる。死霊都市に翡翠の女神像を設置した時にもらったやつだ。
「どうした?」
「いや、なんか【翡翠の女神の使徒の加護】ってついてるんだけど」
「お前、自分で気づいてなかったのかよ」
ナットやボルドーさん、他の人たちは俺だからなって納得してたらしい。
なんだろう、その謎の信頼……
「これって今までもついてたのかな?」
『ショウ君がお祈りすることで発動したんでしょうか?』
「ああ、そういうことか」
女神の使徒の称号持ちがお祈りすれば発動?
まあ、悪いことじゃないから、今はいいや。
「そろそろ行こうぜ」
「りょ。で、どういう流れなんだ?」
「待ってくれてる連中の話だと、森に入るつもりのパーティが何組かいるっぽいし、アライアンスに誘ってみてって感じだな」
そう言ってギルドカードを見せるナット。
そのまま「合流できたから、そっち行くぞ」と伝えてからカードをしまう。
「見物に来てる人たちはどうする?」
「ほっときゃよくね?」
「まあ、ルピたちに触ろうとしてこなければ、そのままでいいか……」
「気にしててもしょうがねーぞ、有名人」
ってことで、来た道を戻ることに。
さすがに一緒に行くのに、俺だけリゲルに乗るのもなんなので……
「ガジュ、代わりに乗ってて。モグ君も良かったら」
「ジュ!」「グ〜?」
「ブルルン♪」
リゲルももちろんオッケーってことでガジュを抱え上げて乗せ、ナットがモグ君を抱え上げて乗せる。
なんか、遠巻きに見てる観客(?)から歓声が上がってるけど……気にしない。
「じゃ、行きましょう」
「おう」「了解」
………
……
…
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
門前町の南側。壁の外にまで歩いてきて、ナットと一緒にきたメンバーに一通り挨拶を終えたところ。
目の前には森というか密林が広がっている。前にコボルトを撃退した時に少し入ったけど、あの時は迷うほど奥には行かなかったんだろうなあ。
「で、どうするつもりなんだ?」
「そこは考えてあるぞ。ショウ、頼んだ」
「頼んだってお前……」
俺たちが森の奥へ行くにあたって、一緒に来たいっていう人たちがいれば、ナットたちと同じようにアライアンスで参加してもらうって話。
おっと、ナットのところの『妖精の友』をサブリーダーにしておかないとだった。
「えーっと、ちょっと森の奥の様子を見に行くつもりなんで、参加したいパーティはアライアンスに加わってください」
そう声を張り上げると、少し離れた場所で見てた人たちがどよめく。あとはナットに任せる形だけど、5分で締め切りってことに。
短いなと思うけど、どんどん増えていくとキリがなくなって、いつ行くんだって話になっちゃうので。
「気になったら言ってね」
「ジュジュ!」
参加したいパーティがナットの前に並んでるので、ガジュに変な人がいないかしっかりとチェックしてもらう。
結構な人数になりそうだよなとパーティ、アライアンスを確認……
【ティル・ナ・ノーグ】
☆ショウのパーティ
ショウ、ルピ、レダ、ロイ、リゲル
・元銀猫騎士団
シャル、ケット・シーたち(24名)
・キジムナーの戦士
ガジュ、キジムナーたち(10名)
☆妖精の友
ナット、ボルドー、……
………
……
…
スクロールしないと見れないんだけど……
加わった人たちには、ボルドーさんがいろいろと説明してくれている。
森の奥へ進むと迷うので、そこは俺が(というかガジュたちが)解決して、さらに先へと進むっていう手はず。
「締め切ったし、そろそろ行こうぜ。午後2時回ってるし」
「りょ。じゃあ、出発します!」
「「「おおー!」」」
なんか、ちょっとしたレイド規模になってる気がするけど、少ないよりはいいよな。
………
……
…
ルピたちが先頭を進み、リゲルに二人乗りしてる俺とガジュが続く。
ナットのところやアライアンスの人たちは、人数が人数なので固まって移動するのは難しいんだけど、左右にメンバーが見える範囲にはまとまってもらっている。
「やることないな……」
「ジュ」
遭遇するコボルトは、多くて5、6匹ってところなので、ほとんどが逃げていく。
迷って逸れる可能性があるので無理に追わずに、その逃げた方向へと進んで行く感じ。
そのまま15分ほど進んだところで……
「ジュ!」
「ルピ! 待て!」
ガジュが声をあげ、ルピたちにも止まってもらった。
どうやら何かあるっぽい?
「どうした?」
「なんかあるっぽいぞ。ちょっと見てくるから、警戒を続けてくれ」
「え? マジか。気をつけろよ」
リゲルから降り、ルピのところまでダッシュ。
その先は、今までよりもちょっと薄暗くはあるけど、別段、変な感じはしないんだけど……
「ジュ。ジュジュ!」
「え? あそこ?」
膝を折って、ガジュの目線に合わせ、ガジュが指差す先を見る。
そうだ、真贋を発動させないと……
「え? なんだあれ!?」
今まで全然気づかなかった場所に、瘴気(?)を纏った巨木が歩いていた……










