第589話 妖精王の行軍
月曜日
「ニャア〜……」
「うん……、外、見ない方がいいよ」
エメラルディアさんが運んでくれてる竜籠の中。俺はルピを膝に抱え、シャルは俺の腕にしがみついている。
大人四人がゆったりと乗れる竜籠に、俺、ルピ、レダ、ロイ、シャルとケット・シーたちの合計13人がみっちり。
『大丈夫ですか?』
「上空まで来ちゃったら大丈夫。外さえ見なければ……」
窓の近くのケット・シーたちは外に見える空の景色に夢中なんだよな。
結構高いところを、かなりのスピードで飛んでるっぽい。
『神樹経由でも良かった気がしますけど……』
「まあ、今回はエメラルディアさんに運んでもらってるっていう実績作りみたいなものだから」
なんで、南の島に着陸する前に軽くアピールしてもらう予定。
『着くょ』
「はい。じゃ、ぐるっと一周、お願いします」
『ぁぃ』
島の上空を目立つようにぐるっと一周してもらって、エメラルディアさんが来たことをアピール。その後でキジムナーの里の奥にある川岸に着陸してもらう。
「ワフ?」
「さんきゅ、大丈夫。外に出ようか」
心配そうに覗き込むルピを撫でてから竜籠を下りると、ガジュたちが出迎えてくれていた。
「ジュジュ〜」
「ありがとう。今日はよろしくな」
「ジュ!」
「「「ジュジュ!!」」」
えーっと、10人ぐらい並んでるんだけど、ここにいる子たち、みんな参戦するのかな?
まずはアライアンスを組むところから始めないとだけど、その前に、
「ガジュ。これ、ミオンから」
「ジュ!?」
「今日はガジュの分だけだけど、みんなの分も作ってくれるって言ってたから」
ガジュ用のスカーフを巻いてあげる。
赤い髪とちょっと合ってないかもだけど、効果の方が大事ってことで。
他の子たちが羨ましそうにしてるので、ミオンには頑張ってもらわないとかな。
「で、ちょっと待ってね。<召喚:リゲル>」
うちの島でスタンバイしてるリゲルをさくっと召喚。
MP消費も魔狼の牙のアクセサリー分で十分足りたっぽいな。
「ブルルン♪」
【召喚魔法スキルのレベルが上がりました!】
お、ラッキー。
エピックスキルのレベルアップには、条件があるとかいう話だったけど、この場合ってなんだろ? 累積距離とか?
「ワフ〜」「ブルル〜」
「ニャフ?」
「ジュジュ〜」
ガジュたちの準備もオッケーみたいだし、さっそく外へ出てナットと合流しないとと思ったんだけど、
『ショウ君。エメラルディアさんに』
「ああ、そうだった。エメラルディアさん。連絡があるまで、ここで待っててもらえます?」
「ぁぃ、ぁぃ」
ガジュたちが不在になる間はここにいてもらう。万一のことも考えて、残るキジムナーたちを守っていてほしい。
帰りも竜籠に乗せてもらうか転移魔法を使うかは……その時に考えよう。
………
……
…
石壁に挟まれている大きな扉を押し開けると、ちょっと懐かしい風景……じゃなくなっている。以前は荒地だった場所が全部門前町になっていた。
「ワフ!」
「よし、行こうか」
ルピに促されてリゲルに騎乗。
ルピを先頭にレダとロイが続き、リゲルに乗った俺をガジュたちが囲んで、しんがりはシャルとケット・シーたち。
ナットとは教会前で合流予定だし、邪魔にならないよう門前町の端っこを移動するんだけど……
『やっぱり気づかれてますね』
「まあ、しょうがないよ」
ちょっとした行軍っぽくなってるし、なんと言ってもリゲルが目立つ。この島で馬に乗ってる人って他にいないだろうからなあ……
ただ、周りのガジュたちが戦闘モードなせいか、かなり遠巻きにって状態。
セスには「堂々としておる方が絡まれんで済むぞ」と聞いていたので、まっすぐ前だけを見る。
「ワフ」「「バウ」」
門前町の東側を出て、教会までは道が細くなるので一列になって進む。
すれ違う人たちがめっちゃびっくりしてるけど、
「こんにちは」
「あ、ああ、こんにちは……」
ちゃんと挨拶が返ってくるのがすごいよな。
たまに一緒にいるケット・シーや、ノームも驚いてるけど、ガジュやシャルたちと挨拶をかわしている。
そのままアームラの林に到着し、しばらく進んだところで参道の入り口に到着。
「おお、実際見るとすごいな」
『すごく綺麗です!』
フラワーアーチを眺めつつ進むんだけど、後方、少し離れたところに、追っかけって言っていいのかな? ついてくる人たちがいる……
「ニャ?」
「気にしなくていいよ」
シャルが近づいてきて「どうします?」って感じで聞いてきたけど、特に何かしてくるわけじゃないみたいだし、そりゃ気になるよなって。
教会の入り口が見えてきて、同時に馴染みのある顔が見えてきた。
右隣には昨日見たモグ君。左隣にいる背の高い男の人は、ナットのギルド『妖精の友』のサブマスターだと聞いている。
「おう! 来たな!」
リゲルから降りて手綱をシャルに渡し、ナットのところまで。
まずはサブマスターさんに挨拶しないとだな。
「どうも、ショウです」
「あ、ああ、ボルドーだ。しかし、本当に知り合いだったんだな」
「だから言ったじゃん。親友だって」
そう言って肩を組んでくるナット。
普段と全然ノリが変わらないのすごいよ、ホント。
「なんかすいません。こいつ、いつもは俺が見てるんですが……」
「お前は俺の嫁か!」
よし、とりあえず一発殴っとくかと思っていると、教会の中からケット・シーたちが一斉に出てきて、シャルの前に整列する。
「ニャ。ニャニャ!」
「「「ニャ〜」」」
「『え?』」
シャルの号令で、ケット・シーたちが一斉に俺の前に跪くんだけど……
どういうことなんだろうとシャルを見ると、
「ニャニャン」
「なんて言ってんだ?」
「えーっと、シャルの以前の部下なんだって」
それはそれで、これから一緒に来てくれるにあたって不安もないんだけど、終わったらうちの島に来ちゃったりするのかな?
「じゃ、行こうぜ。こっちの他のメンバーは森の入り口で待ってるし」
「りょ」
待たせてるなら急いだ方がいいかなって思ったんだけど、
「いやいや、その前に教会の中を見てからでも遅くないだろう。君が作った女神像が飾られてるわけだし」
『ぁ』
……そうだった。
ここまで来て見に行かないのも変だし、ちゃんとお参りしてからがいいかな。










