第586話 交差する情報網
日曜日
「うん、いい感じ。どう?」
「美味しいです!」
日曜日。今日のデザートは梨のコンポートを作った。
なんか、ミオン家に来るのがいつものことになってしまってるけど、美姫も家にいないしなあと。
去年まではナットが遊びにくるか、ナットの家に行くかだったけど、今年はお互いIROにはまってるし、そっちでも俺は島から出ないし……
「どうしました?」
「いや、なんでもないよ。余った分は冷凍庫に入れておくから。半解凍ぐらいで食べるとシャーベットみたいになるよ」
「そうなんですね。夜にでも食べてみます」
で、それはそれとして、そのナットとは今朝話した。南の島のコボルトの件を調べて欲しいので、
「ぁ、ポリーさんから限定配信の招待が来ました」
「おけ。じゃ、見ようか」
ポリーにはミオンから話がもう伝わっていて、ナットはそれを聞いたら絶対に二人一緒に来るよなっていう。
『えーっと、ミオンさん、聞こえる?』
「はぃ。聞こえますよ」
『お! ショウもいるよな?』
「ああ、いるぞ」
うーん、どこからどうみてもお似合いの二人なんだよなあ。
場所は死霊都市っぽいし、多分、今から南の島へ行くところなんだろう。
『今から渡るけど、何か持って行った方がいいものあるか?』
「うーん、特には思いつかないな。それより気になってるんだけど、隣にいる子ってノーム?」
『おう。俺とよく一緒にいるモグだ』
『グ〜』
二人に頭を撫でられて嬉しそうなモグ君。
なんかもう二人の息子みたいに見えるんだけど、それを言ったらなんか言い返されそうなので黙っておこう。
『じゃ、行きましょうか』
『おう』『グ〜』
死霊都市を少し歩き、すぐに見覚えのある塔が見えてきた。
その手前からがちょうど竜族の区画で、竜人族の守衛さんが立っている。
『ちわっす。いいっすか?』
『ああ、いいよ』
相変わらず気安いナットと、それによく似た感じのモグ君。ポリーがきっちり一礼していくのが対照的。
「竜貨はいらないんですか?」
『妖精と一緒なら見せなくても良くなってるの』
「へー」
そのまま塔の方へと向かっていく三人。
途中でケット・シーを連れたパーティーと軽く挨拶をしたりと、なんだかかなり友好的な雰囲気に。
「プレイヤー結構多いなあ」
『こっちに来てんのは、塔から南の島へ行くか、教会から翡翠の女神様の参拝に来てる連中だな』
「「ぁ」」
翡翠の女神像、俺がミオンそっくりにしちゃったやつを拝みに来てるのか。まあ、なんか一定時間ご利益バフがあるって話だもんな。
その教会前には、竜人族の守衛さんが座っていて、足元にはケット・シーが丸くなっている。なんか平和な風景……
『ま、今日はこっちだ』
南の島へとつながる転移魔法陣がある塔へと入ると、ちょっと懐かしさを感じる。
竜人族の人たちが入島審査をしてくれていて、ギルドカードを見せて申告し、竜貨を預ける形。
結構な数の竜人族が関わってくれてるっぽいし、奥の方で魔導書っぽいものを読んでるの、あれアズールさんだよな。
なんか、もっと報酬を渡さないとって気がしてきた……
『行きましょうか』
『おう』『グ〜』
転移魔法陣が置いてある部屋に入り、三人固まって転移。
配信の映像もワイプして、あっという間に南の島へ。
『ジュ〜♪』
『グ〜♪』
へー、キジムナーがお出迎えしてくれるのか。
そして、こっちにも竜人族が居てくれてて、ちゃんとチェックしてくれてる様子。
コテージ群を抜けて門前町まで行く間も、ケット・シーやノームを連れたプレイヤーとすれ違う。
日曜昼っていうのもあってプレイヤーも多いんだろうけど、夜になったらもっと増えるそうだ。
採掘施設の地下に来て魔銀を掘る人が多く、ついでアームラの実やアレケスの実を採りに来る人たち、キジムナーやケット・シーたちに会いに来る人たちなどなど。
『南側の探索って進んでねえの?』
『それを聞きに来たんでしょ』
そんな話をしているうちに、画面の二人が門前町につき、そのまま南側へと向かうと、そこには石壁ブロックを積んだ外壁が見えてきた。
「おおー、こんなのもできてるのか」
「すごいですね」
『お、知り合いいるから聞いてくる』
ナットがそう言って近寄って行った先には、鎧も着けずにいる男の人が。
腰にダガーが差してあるぐらいで戦闘はしないのかな? いや、斥候専門とかかも。
『リーパさん』
『お、ナットやんけ。彼女さんとデートに来たんか?』
『え、まあそんなところで……ぐはっ!』
相変わらず不憫な男。てか、ポリーも肘打ちするの癖になってるのかな。
『仲ええやん。で、ホンマに何しに来たん?』
『この先でコボルトを良く見かけるようになったって噂を聞いたんで』
俺から頼まれたってことはしっかり隠して、白銀の館の依頼ってことで話し始めるナット。まあ、ポリーからそう仕込まれてたんだろう。
『なんや、似たような理由なんや。こっちもちょっと大旦那から頼まれとってな。ワイが聞いた話で良かったら聞く?』
『お願いします!』
リーパさんの話だと、コボルトとキジムナーは敵対関係。
この島に人が来るまでも定期的な襲撃があって、その度にキジムナーたちが守り勝ってたんだけど、今回もそれの予兆なんじゃないかって話。
うん、知ってる。
『こっちから倒しに行きゃいいのに』
『それやねんけどな。この森、奥の方行ったら絶対に迷うらしいねん。実際、何パーティか偵察に出たんやけど、ぐるぐる回って戻ってきたらしいわ』
いつの間にかはぐれたりと不思議な現象が起きるらしい。
行った人たちからは「この先、未実装?」みたいな話も出てるんだとか。
『んー、海を泳いで迂回しようって奴とかいないんすか?』
『自分、やろ思うか? ワイは嫌やで』
そう笑って返されて答えに窮するナット。
今のところ、わざわざそこまでしてっていうプレイヤーもいないとのこと。
『待って防衛するしかねーのかなあ』
『今んとこ、できることなさそうやね。まあ、なんかわかったら、また連絡するさかい』
『うっす』










