IRO運営(11):予想どおりに不合理
大きなエアディスプレイに映るのは、魔王国南にある古代遺跡前で祝杯をあげるプレイヤーたち。
自分たちが倒したモンスターや悪魔、手に入れた戦利品などの話が終わることなく続いている。
「予定よりちょっと早く終わっちゃったけど、今回のワールドクエストは大成功だよね?」
「そうですね。速報値ですけど、魔王国アップデートから入った新規さんも9割が『楽しかった』っていう反応ですし」
GMチョコの報告に、ほっと胸を撫で下ろすミシャP。
結果的に一週間早く終わった今回のワールドクエストだが、開始も一週間早まっていたことを考えれば妥当な線だろう。
……サバナ島でいろいろと問題が起きてしまったことを除けば。
「貢献ランキングを部門に分けたのも正解だったかな?」
「ええ。ワールドクエストで何に貢献したのかも分かりやすくなったかと」
「それでもショウ君、二部門でトップなんだよねー」
深くため息をつく二人。
そもそも部門を分けたのも、このままだとまたショウがダントツで一位になってしまうためで、なんとか他のプレイヤー、できれば、新人さんたちにという苦肉の策。
「これで、あの時に悪魔を倒せてたら、捕獲討伐部門と問題解決部門でもトップだったと思いますよ」
「それな」
サバナ島の制御室にいた悪魔の首魁は中ボスクラス。
そいつを含め、残りの悪魔も全て討伐してサバナ島を解放した場合は、捕獲討伐、問題解決の貢献ポイントもすごかったはずで……
「あの場所で飛び込んでたら微妙でしょうけど、隠密があるから、尾行してルピちゃんが気を引いてる間に一人一殺っていう……」
そう聞いて、思わず必殺に仕事する人のフレーズを口ずさむミシャP。
「いいですよね。仕事する人シリーズ」
一通りフレーズを口ずさんだところで、
「さて、明日の話をしましょう」
「はい……」
GMチョコがタブレットを取り出し、明日のためのファイルを送る。
そのタイトルは『建国システム改修パッチの適用作業について』で、作業日時は明日の夕方。メンテナンスを挟まず適用される予定だ。
「ん、おっけー。解説ライブまでには終わるよね?」
「デプロイ自体はすぐ終わりますよ。解説ライブ用のスライド作り、頑張ってくださいね」
「だ、大丈夫! 最初のページは作ったから!」
その答えをスルーし、もう一つ別のファイルを送信する。
そのファイルの内容に、目を通したミシャPが考え込む。
「うーん、次のワールドクエストの前半『再生都市』が始められるのは、10月下旬ぐらいになりそう?」
「そうですね。それくらいにスタートして、前後半合わせてクリスマス前には終わる感じでしょうか?」
「ふむふむ」
前半が11月中旬まで。後半がクリスマス前までという見積もりになっている。
「前半の進捗が悪いと年末年始に入りそうでやだなあ……」
「実家に帰省するご予定でも?」
「ないです。でもさー、三が日ぐらい、こたつ入ってごろごろしてたいじゃん。駅伝見ながらさー」
さすがにその言葉には理解を示しつつも、エアディスプレイに円グラフを映し出すGMチョコ。
「で、これが現在、流通してる魔石について、そのホルダーを表したグラフです」
「ほうほう」
色分けされたそれぞれのうち最大が魔王国でおよそ16%。
ついで、マーシス共和国14%、ウォルースト王国12%。グラニア帝国10%、パルテーム公国8%と続き、それぞれの国家保有量を合わせると60%といったところ。
残り40%はシトロン王国とプレイヤーの個人所有を全て合わせた量になる。
「アンシアが魔王国に納品した分ってどれぐらい?」
「5%弱ですね。死霊都市の副制御室を再起動するには十分かと」
「再結晶化で目減りしても?」
「ええ、1つは確実にできますね」
「おー、頑張ったねえ」
そう言ってコーヒーに口をつけるミシャP。
次にGMチョコがタブレットを操作すると、表示されていた円グラフの残り40%が拡大された。
「……え?」
「驚きますよね……」
7%をデイトロン、2%をアンシアが持っており、ショウも2%を持っている。
魔王国に納品したアンシアがまだ2%を保有しているのも驚きではあるが、それよりもデイトロンの保有量が公国に匹敵しているのが……
「いつ集めてたの!?」
「DBのログを追ってみたんですが、ショウ君が光の精霊石の話をライブでやった後ぐらいからですね。そこからずーっと極小サイズの魔石を買い続けてました」
「一人で?」
「いえ、途中から仲間にも手伝ってもらってますね」
もちろん、それらの一部は魔晶石にし、さらに精霊石として売却もしている。
その利益は『名も無き女神像』の購入に繋がり、その『名も無き女神像』がさらに利益を生むという……
「あの人、エスパー?」
「さー、庶民にはわからない世界が見えてるんじゃないですかねー」
気のない返事を返しつつ、補足を入れるGMチョコ。
デイトロンやアンシアが保有している魔石はどれも極小サイズで、死霊都市の副制御室を再起動するには、当然、再結晶化が必須なことなどを。
「で、これがまた頭が痛いんですが……、アンシアが副制御室の再起動を目指すって宣言しました」
「んんっ!?」
コーヒーを吹き出しそうになって、慌てて口元を押さえるミシャP。
「良かったですねー。次の『再生都市』の前段階が微妙に始まっちゃってて、これならスケジュールが後ろにずれることもないかと」
「えええ、なんで今……」
「魔王国側からの依頼ですね。王女ネメアがアンシアを気に入って、引き続きって感じです。魔王国としても次を見据えた上で、開国した分のメリットを最大限引き出さないとって感じですし」
その話を聞いて、なんとも微妙な表情になるミシャP。
「っていうか再結晶化はどうするの? まさか、ショウ君に頼むつもりとか?」
「いえ。出来る人か、出来るようになりそうな人を募集してました」
そう聞いて、ミシャPがほっと胸を撫で下ろす。
だが、前半の『再生都市』で死霊都市の全機能を開放する段階が始まっていることに変わりはない。
「やっぱり、魔石の再結晶化が早バレだったよね……」
「それはしょうがないかと。それで再結晶化装置の存在はどうします?」
「うーん……」
本来、魔法による魔石の再結晶化方法がバレるのは、次の『再生都市』で発見される魔石の再結晶化装置があって、それを解析することで……のはずだった。
これを、魔法解析スキルも習得しているショウが、思いつきでそれをすっ飛ばした形になる。
「はあ……、死霊都市ダンジョンの攻略状況ってどんな感じ? 再結晶化装置を見つけるのと、出来る人が育つのとどっちが先になりそ?」
「微妙な線ですね。ま、『ショウ君が一晩でやってくれました』ってなると関係ないですけどね!」
「ですよね!」
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