第557話 ついついやること増やしがち
木曜日
「アズキはゲイラさんって人に預けといたし、キュミノンもきっちり受け取ったぜ」
得意げに言うナットだけど、実際はいいんちょがやってくれたんだろう。
いいんちょは特に何も言わないけど、うんうんと頷いてるだけだし。
「ん」
「ああ、そういえば、いいんちょは真白姉に会えた?」
「ええ、ユキさんから追加の支援物資も無事渡せたわよ」
サバナ島から物資を受け取りに来たのが、真白姉とシーズンさんの二人で『白銀の館』からの預かってた支援物資を渡したらしい。
指定の時間に転移魔法陣に現れた二人に手渡して、ちょっと雑談してってぐらいとのこと。
「支援物資って食べ物とか?」
「いえ、道具とかよ。ノコギリとかカナヅチとか、釘なんかの消耗品もね」
「そういうのって、交流が始まった時に最初にゲットするもんじゃねえの?」
「今の人数分はないでしょ?」
そりゃそうか。今はサバナさん本人を含めて十数人いるそうだし、道具も複数ないと効率悪いもんな。
「あれ? サバナさんの島に繋がる転移魔法陣って、魔王国の区画にあったんだよな? それって出入りで揉めたりしないの?」
「今はもう魔王国の区画にはないわよ?」
「「え?」」
昨日の夜の段階で、その転移魔法陣はもう南側のプレイヤー管理の区画に移設されたとのこと。
今回の不祥事(?)もあって、転移魔法陣の警備体制はどうなってたんだっていう話になったらしい。
結局、氷姫アンシアの方から転移魔法陣を手放す申し出があって、ひとまずプレイヤー区画で厳重に管理されることになったそうだ。……基本、向こうが封印してるから使えないんだけど。
「実際、どうだったんだ? 20人ぐらいに強行突破されたとか聞いたけど」
「俺が聞いた話だと、別の場所に悪魔が出たって話があって、そっちに人が割かれてたらしいな」
「うわぁ」
陽動までかけてたってことは、かなり計画を練ってたんだろうな。
侵入してすぐに転移魔法陣を封印。サバナさんたちを追い出して建国宣言をし、古代遺跡を制圧しようとしてた感じか。……ん?
「侵入した連中って、なんで建国宣言したんだ? 別にしなくても良かったんじゃ?」
「新規プレイヤーを呼び込みたかったんじゃね?」
「ああ、国民を増やしたかったのか」
うちも島民が増えると褒賞SPがもらえるし、国になったら国民が増えれば褒賞SPもらえそうだもんな。
でも、結局、新規プレイヤーのスタート地点には選べなかったし、古代遺跡の管理者にもなれなかったんだよな……
「?」
「いや、結局、建国して国民増やして、何がしたかったんだろうなって」
その言葉にミオンもふるふると首を横に振るんだけど、
「単に目立ちたかったんだろ」
「そうでしょうね」
ナットといいんちょが呆れた顔でそう答えた。
「目立ちたいって、それだけ?」
「二人やサバナさんのライブを見てると、無人島でゲームプレイするだけでファンがたくさんついて、お金も儲かるって思ったんでしょ」
「その建国した奴って、前にフォーラムで離島解放運動とか言ってた奴だぜ?」
「え、そうなんだ。全然知らなかった……」
………
……
…
「サバナさんの島と繋がる転移魔法陣を氷姫アンシアが手放したって聞いたんですが」
「ええ、アンシアさんも、さすがに失態を認めないとまずいと思ったんでしょうね。サバナさんもそのままなら二度と使わないでしょうし」
まあ、そうか。そこでグダグダと言い訳するのも、カッコ悪いだろうし。
ただ、そうなると、
「それって魔王国的にはオッケーなんです?」
「問題ないんじゃないかしら、もともと、ゲームドールズの人たちから買い取った転移魔法陣はアンシアさんの自領に置いてあるのだし」
あ、そうだった。
ハズレだって言われてる無人島に行ける転移魔法陣は、共和国の南にまで行かないとなのか。
こんなこと言うとなんだけど、微妙だなあ……
「ぁの、もう無人島スタートは終わってますけど……」
「あー、8月いっぱいで終了したんだっけ。もう終わってるのに持ってる意味ってあるのか?」
俺の疑問にミオンもうんうんと頷いてくれる。
「しばらくは無駄な置物になるでしょうけど、遠洋航海ができる船が出てくれば、また変わるんじゃないかしら」
「気の長い話……でもないのか」
「そうね。アンシアさんのところでも、船での交易は始まってるもの」
共和国の南岸に港町を作り、魔王国の南東にある港町との交易が始まってるそうだ。
取引してるのはカラシーナやスターニスという香辛料で、かなり利益を出してるらしい。
カラシーナは芥子菜、つまり、からしの原材料になる香辛料。マスタード作れそうだし欲しいなあ……
***
「ありがとうございます」
「ぁぃ」
IROにログインすると、エメラルディアさんがさっそく竜の都に行って、竜籠を持ってきてくれていた。
外から見る分には王様が乗るような豪華な馬車って感じで、実際に馬車としても使えるそうだ。
ただ、決定的に違うのは天井についた持ち手のような部分。それを両手で掴んで飛ぶことになる。
ひとまず屋敷の玄関を出たところに置いてもらってるんだけど、あとで厩舎に持っていくかな。あそこなら屋根付きのスペースまだあるし。
「ショウ君。中を見ませんか?」
「あ、うん」
両開きの扉を開けると、二人掛けの革張りのシートが向かい合わせになっていて、ミオン家の高級車を思い出す。
ただ、これだと荷物を運ぶにはスペースが少ないんだよなあ……
「荷物もう少し置けるように、こっち側のシート外しちゃダメかな?」
「ぁの、借り物ですし、それは……」
「いや、好きにしてくれて構わない。それに、ショウなら同じものを作れるんじゃないか?」
確かに作れそうな気がしてきた。基本は木造。車軸とか足回りは鉄か合金だよな。
いや、人を乗せるんじゃなくて、荷物運びに特化したのを考えると……コンテナでいい気もする。持ち手のついた。
「ごは〜ん♪」
「アルテナちゃん」
駆けてきた白竜姫様がミオンに飛びついた。
うん、まずはご飯にするかな。先にやらないといけないこともあるし、もっと余裕ができてからでいいや。










