第236話 女神の癒やし
「えーっと……」
スタジオに来てみたはいいものの、ミオンどこだ?
『ショウ君。こっちです』
「ああ、いたいた。あ……」
声の方に振り向くと、この間買ったオーバーオールを着たミオンが。
白のブラウスの方を着ているせいか、ちょっと大人っぽく見えてドキッとする……
『ど、どうですか?』
「うん。すごく似合ってる」
『良かったです。ここ、座ってください』
スタジオで映らない場所に置かれた豪華な二人がけソファー。
以前、ベル部長が解説で参加してくれたコラボの時に、待機場所として使ってたそうで、この前、セスも座ったらしい。
そのソファーに座るように促してくるミオン。
「ふう……」
『お疲れ様でした。今日は大変でしたね』
「昨日の今日だったからなあ」
ミオンの隣に腰かけ、ぐったりと背もたれに体を埋める。
アージェンタさんだけならまだしも、白竜姫様まで連れてくるんなら、先にそう言っておいて欲しかった。
それにしても、まさかあんな小さい子が……
「ショウ君」
「え? あー、うん……」
いきなり生声で呼びかけられ、どうしたのかと思ったら、膝に手をポンポンと。
なんていうか、無茶苦茶恥ずかしいけど……そっと横に倒れて頭を乗せる。
「っていうか、身体接触の制限切ってるの?」
『はい。ショウ君だけです』
そう言われてしまうと何も言い返せない。
いや、そもそもリアルでやってもらったことあるのに、何を今さらって話なんだけど。
「そういえば、アーカイブどうだった?」
その問いかけに首を振るミオン。
アージェンタさん、いや、白竜姫アルテナ様を隠したいのかな……
「うーん、明日のライブどうしよっか?」
『お休みしませんか?』
「え? 急に休みはちょっと視聴者さんに悪くない?」
『無理をしてもしょうがないと思います。母も「体調が悪い時はぎこちない笑顔になるから休みなさい」って言うそうですし』
「なるほど。そりゃそうだよな……」
熱があったり、頭痛がしたりしてるのに笑顔を作るとか、俺には無理そう。
目を閉じてゆっくりと深呼吸する。
ミオンがずっと頭を撫でてくれてるのが恥ずかしいけど心地良い。
「明日のライブはのんびりと畑の手入れでもするよ」
『はい』
せっかく買ったアバター衣装、ちゃんとお披露目しないとだし。
「ライブの最初に古代遺跡の管理者のことは話すけど、まだ整理できてないから土曜にってことでいいかな」
『そうですね。あの……』
「ん?」
『女神像のことは話しますか?』
あ……、ミオン的には黙っておいてほしいことなのかな?
部長にあの日のことを説明してくれてた時も、マルーンレイスを倒したことは伝えつつも、女神像のことは伏せてたし。
「なんていうか、ごめん……」
『え?』
「いや、マルーンレイスってのにやられそうになった時にさ、困った時の神頼みって感じだったんだけど……」
翡翠の女神になったのは、俺が最初に作ろうと思ってたし、精霊の加護がかかってたりした部分も大きいんだと思う。
ただ、頭の中にあったイメージがそのまま女神像に反映されると思ってなかった……
『……私じゃない誰かだったら大変でしたよ?』
「はい」
まあ、あの場面で思い浮かぶ女性なんて他にいないんだよな。
俺がとっさに顔を思い出せる女性なんて、真白姉、美姫ぐらいか……
「ごめん……」
『?』
よくよく考えると、自分の中に理想(?)の女性像がないんだよな、俺。
母さんは表情がなくて論外だし、真白姉は荒れてる姉のイメージ、美姫は守らないといけない妹のイメージがまだ残ってる。
身内以外だと誰だろ? いいんちょは小学校の頃の付き合いのせいか『先生』って感じなんだよな。ヤタ先生と同じ感じ。
あとは……ベル部長は『魔女ベル』のイメージがやっぱり強い。最近は崩れつつあるけど……
「なんていうか、その……。俺にとっての女神ってミオンだけだから、ああなっちゃって……」
「は、はぃ……」
それにしても、名も無き女神像が、ミオンの顔の翡翠の女神像になっちゃったのはどうしたもんだかな。
ミオンが恥ずかしいならずっと隠してればいいんだろうけど、そうなると教会に飾る女神像をどう作ろうかなってなる。
違う顔で彫ることもできなくはないだろうけど、それはそれでなんか違う感じがするし。
「教会に飾る女神像どうしよ」
『えっと、ショウ君が思うように作っていいですよ』
「翡翠の女神様飾ろうと思ってたから、ミオンになっちゃうけどいい?」
『はい。でも、できれば……』
お願いされたのは二つ。
他の女神像は彫らないで欲しいこと。
自分以外のよくわからない誰かが隣に立ってるのは居心地が悪いらしい。
まあ、そりゃそうか。俺だって、自分の像の隣に謎のおっさんの像が立ってたら、すごい微妙な気分になりそうだし。
そして、その代わりにルピを彫って欲しいと。できれば、スウィーやトゥルーも。
「りょ。確かにルピは彫ってあげたいなあ」
『蒼空の女神様じゃなくてもいいですよね?』
「いいんじゃないかな。ルピはミオンの声、いつも聞いてるし喜んでくれると思うよ」
女神像の方はインベントリにずっと入れておくかな。この前みたいなことがあったら役立ちそうだし。
……ん?
「ああ、そういうことか……」
『どうしました?』
「あ、いや、ワールドクエストに『女神の威光で区画を浄化する必要がある』ってあったのって、ああいう女神像を使えってことかなって」
『あ……』
鑑定結果に『各家庭に置かれていた』とか書かれてたし、死霊都市を攻略していけば見つかるんだろう。
ベル部長がこの島がエンドコンテンツみたいなこと言ってたけど、俺はたまたまアージェンタさんからそれをもらえて、ギリギリなんとかなったっていう。
いや、運営は俺が詰まないように、アージェンタさんに渡させた? うーん……
『やっぱり部長に話しますか?』
「いや、話さなくてもわかる気がするし、いいんじゃない。それに部長は今日も魔術士の塔の方に行ってるんだよね?」
『はい。もうアーカイブは上がってると思いますし、少し見ますか?』
「うん、見ようか。ん……」
目を開け、ちゃんと起き上がって見ようかと思ったんだけど、
「ダメです」
「はい」
俺が大人しくそれに従うと、ニコニコしながらベル部長のチャンネルを開くミオン。
なんでこんなに俺のこと好いてくれてるんだろう……
『どうしました?』
「え、あ、うん……。お菓子作り、今度の日曜がいい?」
『はい! あ、椿さんに材料を用意してもらわないとです』
いや、椿さんが用意すると、何でもかんでもお高いものが用意されそうで怖い。
それにミオンの金銭感覚も多分おかしいし、このあたりも普通に寄せていかないとだよな。
「駅前のスーパーで買い物すればいいんじゃないかな。お昼は何がいい?」
『あ、えっと……』
あんまり豪華なものを頼まれたら、やんわりと家庭料理レベルに修正しようと思ってたんだけど。
『柏原君にご馳走した焼きそばが食べたいです』
「あー、おっけ」
この前、その話した時に興味津々だったもんなあ。
でもまあ、家庭料理に慣れてくれて、少しでも作ろうかなって気になってくれたら嬉しいかな。










