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春よ、春よ


 高校受験の前に下見をした

 3月はじめ

 まだまだ山に雪は見え

 朝は氷が張る

 その日は晴れていて

 家から7㎞程離れた高校の周りには

 オオイヌノフグリが咲いていた

 知らぬ間に春が来ていたことに驚き

 一輪摘んだ


 中学生の頃に好きだった

 下駄箱に花を置いた人には

 卒業してから何度となく春が過ぎたけれど

 二度と会うことはなかった



 大学に合格して故郷を離れた春

 心細く思いながら

 賀茂川のほとりを歩いた

 日が暮れて霧がでて

 対岸の灯りがにじんだ

 少しだけ新しい街を好きになった


 その後のいろいろなど

 考えなかった

 ただただ霧に煙る灯がきれいだった



 春は過ぎていった

 また春が来て

 また春が去ってゆく

 春よ、春よと呼びかけても

 また春は過ぎてゆく

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