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風に吹かれる
しばらく体調を崩していました。
幼い頃に住んでいた町は
周りには田んぼが沢山ある
環境の良い所だった
そしていつも
風が吹いていた
小さな手足で走り回り
まだ見ぬ未来を
まだ信じていた
夏の田んぼからは
蛙の鳴く声がしていた
体はまだ動くものの
病にかかりやすくなり
走り回る体力もない今
ふと幼い頃に
戻りたくなる日もある
その時々の不安はあって
幼い悲しみもあった
ではあるのだけれど
あの頃の風に
また吹かれてみたい
風のあまり吹かない街
そこに住んだ青年期
銭湯の帰り道のわずかな風に
夏は喜び
冬は足を急がせた
網戸の無い窓
それでも夏は風を求めて
虫が入るのを面倒に思いながら
開け放っていた
やはり未来を信じていた
夢破れ
なかなか立ち上がれずにいる今
固く凍った雪の上を歩く
戻れない過去を
時々思い出しながら
寒い夜の道で
緩やかな風に吹かれている




