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霧の夜
真夜中、太極拳の型を練りに家を出た
扉を開けると外は濃い霧
昼間融けた雪が凍り
氷になって
霧に見とれる足元を危うくしている
少し離れた街灯の光はぼやけ
次の角が見通せない
歩く人は他になく
自分の足音だけが聞こえるが
それも霧に吸われて高くは響かない
先の見えないことに
不思議な喜びを感じた
1997年春の夜、賀茂川の畔を歩いた
故郷を離れて一人暮らしを始めたばかりだった
歩いていると
霧が出た
対岸がかすむ程の
濃い霧だった
街灯の光がぼんやりと滲み
周りを歩く人もいなかった
新しい生活に不安を感じていた
けれど霧に覆われながら歩いて
なぜだか大丈夫だと思った
思いがけない程に時が流れて
希望を感じることも稀になって
先が見通せない不安に
動きがとれなくなっている
それでも
霧に喜びを感じた
滲む灯りがきれいだと思った
あの春のようには動かない体だけれど
技を練り今の方が戦う力は高い
そしてまだ
強くなりたいと思えている




