番外編・ベリエの幸福な1日
完結してからおよそ1年。リクエストを頂いていたルークとベリエの結婚生活です。ささやかな1日の一コマ。式についてはサラリと流します。そして視点はヒュルト視点……。一応主役なので。
姉ちゃんから王城に呼び出しが有った。前世から続く姉弟関係だ。やっぱり姉ちゃんの事は優先度が高い。いや今までみたいに何を置いても、というわけにはいかないけど。でも比較的優先度は高いよな。姉ちゃんはルークの粘り勝ちというのか何というのか、3ヶ月くらい前に結婚した。王太子では無いけど、ルークだって国内外に名を知られている第二王子だ。結婚式はそれこそ豪華だったし、招待客も凄かった。まぁ姉ちゃんが相手って事で陰でコソコソ言う奴らが居なかったわけじゃないけど。
そりゃそうだ。姉ちゃんは元々バカ……第三王子の婚約者だったし、ルークも別に婚約者が居たわけで。一応バカのやらかし具合は国外にも通達したらしいけど、見方によれば第二王子であるルークと結婚したいために、バカを罠に嵌めた……と思われても仕方ない。要するに姉ちゃんは、バカを踏み台にしてルークの婚約者も押し退けてその妻になった悪女って見方だ。でもそんな奴らも俺の隣で心底嬉しそうに祝福する第二王子の元婚約者であるニルナーレの笑顔を見てしまえば、何も言えなくなったらしい。結局、言いたい奴らには言わせておくしかないんだよなぁ。まぁあまりにも酷ければそれなりの対応をさせてもらうけどさ。
「姉ちゃん、どうした?」
ついつい日本語で姉ちゃんに話しかけたら、姉ちゃんは俺にゆっくりと笑いかけた。
「ユウちゃん。あのね、ルークが新婚旅行に連れて行ってくれるって」
「おー、ようやくかぁ」
王家を揺るがす事件が起きてしまった事もあり、ルークと姉ちゃんの結婚式は(日付が元々決まっていたために)出来たものの、新婚旅行は延期になっていた。あの事件については真相は闇の中……的に、色々と葬ってある部分もある。王家から国内に向けて発信した情報(バカと姉ちゃんの婚約解消とか諸々)が真実として語られるのだが、まぁだからといってのほほんとルークと姉ちゃんが新婚旅行に行くのもちょっと問題だったわけで。ほとぼりが冷めるまで様子見だった。
それもようやくオッケーになったらしい。姉ちゃんの幸せそうな笑顔を見て、ホッとする。ルークは姉ちゃんにベタ惚れだった。だから姉ちゃんを大切にしてくれるのは解ってた。ただ。姉ちゃんはルークの事をバカの兄として見ているだけだったから、ルークの気持ちと姉ちゃんの気持ちには天地の差が有ったので、実はどんな結婚生活になるのかちょっと不安も有った。
「それでね、何処に行こうかルークと決めるつもりだけど、ユウちゃんは実際行ってみて何処が良かったのかオススメを聞こうと思って」
「おー。そういう事かぁ」
呼び出された理由に頷く。多分、普通の姉弟だったら「一々そんな事くらいで呼び出すなよ」とか、そもそも新婚旅行の相談を姉から受ける事も無いのかもしれない。でも、俺たちは普通の姉弟とは違う。2人して早くに死んじまって、しかも姉ちゃんはイジメられてもいたから。日本の思春期の姉弟関係よりよっぽども俺たちの絆は深い。こればかりは、バイスルークもニルナーレも割り込めない関係だと思う。そこは、2人も良く理解していると思うけどさ。
「一応、此処とか此処とか考えているんだけど」
姉ちゃんが幸せそうに旅行の行き先候補を話し出して。俺は胸がちょっとだけ痛んだ。嬉しいけど、もう俺が守らなくても平気なんだなって思うと、ちょっぴり切なくて痛い。
「ユウちゃん? どうかした?」
「いや。姉ちゃんが幸せそうで良かったなって。姉ちゃん、ルークから好きだって言われていても、姉ちゃんは別にルークの事を好きじゃなかったからさ。ちょっと不安だったんだよね」
俺が姉ちゃんに思っている事を口に出せば、姉ちゃんは珍しくポカンとした顔で俺をマジマジと見た。……なんだよ。俺の顔に何かついてんの?
そんな時だった。
「ベリエ? 休憩時間だから来たよ。……ってヒュルトも居たのか」
「おー。ルーク。お邪魔してるぞ」
「ヒュルトなら別にいいよ。……ってベリエ? どうかした?」
姉ちゃんは、ポカンとした顔のまま俺を見ていたから、ルークが不思議そうな顔で姉ちゃんを見る。姉ちゃんは「ルーク……」と、呆然とした感じで呼びかけて。なんだか心ここにあらず、という感じ。ホント、姉ちゃんどうしたんだ?
「ベリエ、どうかしたかい? 体調が悪い?」
「う、ううん。今ね、ユウちゃんに、私が幸せそうで良かったって言われて」
「うん?」
姉ちゃんのどこかボンヤリした口調に、ルークもどう言えば良いのか分からないみたいで、ちょっと困惑したまま相槌を打つ。
「それでね、今、気付いたの」
「何を?」
姉ちゃんの気付いた発言にルークが首を傾げて促す。
「私……。ユウちゃんから見て幸せって思える程、幸せなんだって。毎日ルークと一緒に居て。同じ未来を歩くために寄り添って。ルークの笑顔がいつの間にか、私にとって毎日必要になっていて……」
「……うん」
姉ちゃん、姉ちゃん、ルークが顔を真っ赤にしてるって! 無自覚でルークを口説くのやめてあげろよ!
「私……、いつの間にかルークを好きになっていたんだわ。ルークを愛して、恋して、私もあなたも幸せで生きていきたいって思っている事を、今、気付いたの」
そう言った姉ちゃんの笑顔はとっても綺麗で、ルークの真っ赤に染まった顔は今にも泣きそうで。俺はこれ以上此処に居ても邪魔なだけだから。そっと部屋を出ることにする。少しだけ振り返ってドアを閉める直前に見えたのは、姉ちゃんを優しくでも逃がさないように抱きしめるルークの泣きそうな笑顔だった。泣きそうなくらい、嬉しくて幸せなんだろうな。
そう思った俺は、早く帰ってニーナを抱きしめたいなって、不意に思った。
(了)
お読み頂きまして、ありがとうございました。1年前に頂いていたリクエストにようやくお応え出来ました。




