59:子どものような大人のような〜トホルス〜
ベリエを訪ねて話している最中にベリエから叱られた。前世でも既に成人に達している年齢だというのに女性に叱られるとは情けない。それも好きな人だ。……好きな人だから叱られたのがキツイのかもしれないが。情けない。本当に何にも変わってないなぁ自分は。年齢的には成人している……つまり大人なのだが、こういう時は精神年齢が子どもみたいに自分が思えて。大人であるはずなのに子どもで子どもみたいなのに大人で居なくてはならない。宙ぶらりんな自分に嫌気が差す。
トホルスとして生を受けた時は王子だった。それが嬉しいと思った事は一度もない。何しろ常に命を狙われている人生だったからだ。寧ろ何故生きているのかわからないくらいだった。生きている楽しみが分からない。公爵家に匿われている時は優しいがどこかよそよそしい公爵夫妻や義兄2人に気を遣う事が辛かった。この国に来て少し息苦しさが抜けてベリエを好きになって初めて息が出来るようになった。
そう。俺はベリエを好きになったんだ。いつだって優しく微笑む彼女に見惚れていた。そうやって見続けていたからルークの気持ちにも気付いたしベリエが誰を思っているのかさえ分かった。寧ろ婚約者を好きになったベリエの誠実なところに益々惹かれて同時にどこか誇らしい気持ちになった。一途さがベリエらしくて自分が好きになった女性はこんなに素敵な人なのか、と。だから一生告げる気はない想いを抱えて生きていく事にした。それは苦しいけれど初めて生きている事を実感した瞬間でもあった。
彼女の優しさに可愛い微笑みに容易く心を揺らされる自分が自分らしくないとは思ったけれど。それすら心地良かった。
前世を思い出して納得した。
道理で心地良いはずだ。
彼女の優しさは変わらない。その優しさを踏み躙ったバカな男は俺なのにそれでもやっぱり惹かれてしまうのは記憶なんて関係なく彼女が彼女だからなのだろう。
それなのになんでこんな情けない姿を晒しているのかと思えば凹む凹む。折角生まれ変わって会えたのだからもう少し格好付けたいと思うのは男としての本能なのかただの1人よがりか。でもなんだっていい。今度こそ彼女を傷つけるなんてバカな事をしないで何が大切な事かを忘れないで彼女の幸せを願おう。
幸い今の自分は彼女を傷つける事はしていない。今の俺なら間に合う。今度こそ間違えない。……そのためにもルークには頑張ってもらわないと。
ーー理解出来ているんだ。ベリエの隣に居るのは俺じゃなくてルークの方が幸せになれるだろうってことは。




