56:彼女の幸せのために〜トホルス〜
トホルス視点です。
割と重い。トホルスの前世もざっと振り返ります。……前世も気持ちが重い。
あの日、俺の脳内に記憶が蘇った。それは衝撃的で……これ以上無いくらいの後悔。彼女の母にある事ない事言われた俺は高校生だった事も含めて全てが彼女の所為に思えた。彼女に好かれている事さえ気に入らなかった。そうしてクラスで彼女を虐めて嘲笑って彼女を死なせてしまった。その時になって初めて自分の気持ちに気づいた。何もかもが遅かった。
その後は高校卒業後一切高校時代の奴等と顔を合わせる事はなく大学も地方を選んで自分を追い込むように人との接触を拒んでいた。友人も彼女も作らずに勉強の日々。皮肉にもそのおかげである程度有名な企業に就職出来たのは就職難のご時世では有り難かったというべきか。仕事を円滑にするための上司や同僚との付き合いには程々だがこなしていてだからといって相変わらず彼女は作らなかった。アプローチは受けたが全て断った。そんな俺を心配した親が勝手に結婚相談所的なところに申し込んでいたのを知ったのは、俺が30歳を超えた辺りだったか。
そうして出会った女性の中に仕事は辞めたくないし互いに干渉したくないという女性がいた。結婚したいというより親を安心させるためのもので家事もしたくないと言う女。互いの利害が一致して俺はその女と結婚した。子どもも要らないと決めていた。当然夜の夫婦生活もなく妻には恋人を作っても良いとは言っておいた。結婚して2年は上手くやっていたが3年目に子どもが出来ない事を両家の親が口出ししてきた。子どもは不要だと話したというのにそのうち気が変わると思われていたようだ。そうこうしているうちに妻が妊娠してその相手が当然俺じゃない事から俺の親が離婚を迫り。妻も俺も互いに納得して離婚した。
それから5年の月日が経ち俺は酔った勢いで一晩過ごしてしまった女がいた。その一晩で妊娠してしまった女と再婚して今度は俺の親が協力して2人目の妻と“家庭”を築いた。子どもは生まれてしまえばそれなりに可愛いとは思えたし家事も子育ても出来る限り協力した。気づけば子どもが成人していて2人目の妻と2人っきりの生活が始まっていた。老後が始まって穏やかな生活を営んでいた矢先に俺に病気が見つかり呆気なく死んだ。その時願ったのは生まれ変わる事が出来たら里江ちゃんに謝りたい、だった。
そうして俺はこの世界に生まれ変わり里江ちゃんにーーベリエットに出会った。
そして当然のように惹かれて恋に落ちた。彼女を好きになって直ぐにバイスルークの気持ちや彼女に婚約者がいる事に嫉妬した。記憶が蘇った今なら分かる。彼女は俺が今度こそ間違わずに幸せにしたい、と望んだ女性。彼女の幸せが俺ではなくバイスルークと共に在るのか、それとも他の男と共に在るのか、許されるなら俺と共に在るのか。
きっと俺も彼女自身も分からない事。
ーーただ今世の俺は只管に彼女が今度こそ幸せだと思える人生を送れるように願うだけ。もちろんその幸せの時に俺が隣に居られるならば今度はバカな事はせずに彼女を大切にするけれど。
とりあえず俺はバイスルークを焚き付ける事にする。彼女の気持ちがバイスルークに有るというのならバイスルークには本気になってもらわなくてはならないのだから。さぁベリエ。今世は君の幸せを1番に俺は願おう。だからどうかもう一度俺の前で笑って欲しい。
そんなわけでトホルスはルークを焚き付けてベリエの幸せを望みます。
気持ちが重い男トホルス。こんな奴だったのか……と作者が驚いてます。
ベリエの恋が動いていく、かな?




