19:絆の強さ〜トホルス〜
昨日はすみません。なんかいつも通り6時に予約したつもりだったのですが、投稿時刻を見たら8時になってました。今日は間違いなく6時投稿です。
さて。トホルス視点です。長めです。
俺とベリエットが出会ったのは、俺がこの国に留学してきて1ヶ月もしない頃のこと。国が違うから些細な習慣にも戸惑う事が多かった俺の世話係としてバイスルークという年下のこの国の第二王子がついていた。だがその頃の俺はプライドが邪魔をしてルークに尋ねられない事の方が多かった。
多分、母国では学力は同年代の誰よりも高く医術を学べばあっという間に新米医者と同じくらいの知識を持てた。足りないのは経験くらいだった。
つまり、そういう自分を周囲もチヤホヤと煽てるか嫉妬で恨まれるかどちらかしかなくて。そういう人間しか周囲に居なかった俺は周囲を疎ましく思いながらも見下すというプライドの高い嫌な人間だった。高慢で鼻持ちならない子どもだっただろう。だが優秀な事に間違いなく医術よりも治癒魔法に重きを置いているこの国に留学にきて治癒魔法と医術を合わせた技術を勉強するという期待を背負った身としては、王子とはいえ誰かに頭を下げて教えを請いたくなかった。
そんな俺はルークとの関係は微妙だった。当然だろう。そんな俺達の関係を変えたのがベリエットだった。
今でも鮮明に思い出せる。ルークと距離を取るために1人になった途端に群がる女達。勉強ばかりで、しかも三男の俺は婚約者も恋人も居なかったから俺と結婚して安定した生活を送りたいご令嬢達に辟易していたところへ、怖がっているようにしか見えない表情でやって来たと思ったら丁寧な口調ながら有無を言わさない空気で女達を追い払った。
皆が居なくなるとホッとした表情を浮かべてまるで大役を果たしたと言わんばかりに満面の笑みを1人で浮かべた後、ハッとした表情で深呼吸すると次の瞬間には俺に向いて「令嬢」の仮面を被って「差し出がましい事をしたとは思いますがお許しを」と頭を下げてそのまま名乗らずに去って行った。短い間にクルクルと表情を変えたくせに令嬢の仮面を被っておいて全く俺に興味を持たない彼女に、俺が興味を引いた。
彼女の事を知りたい。
そう思う間もなくルークから紹介された。ルークの異母弟の婚約者だ、と。同時にルークと共に俺の世話係をするという彼女と共に居て、ようやくルークとの距離が縮まった。彼女とルークと俺は常に一緒にいた。そのせいでルークの気持ちにも自分の想いにも気付いてしまったが。
今では親友と言っていいルークと同じ女を好きになるなんて不毛だし、更に言えば第三王子の婚約者という立場付きなんて、どうにもならない。だからベリエの友人という立場に甘んじて卒業後も付き合っていた。
ところが。
久しぶりにベリエの家から連絡が来たと思ったら、ベリエが自殺を図ったから助けて欲しいなんて言う。ベリエは結婚間近だというのに、どういう事だと混乱しながら駆けつけ……真っ青な顔色のベリエを見た瞬間、事情だの恋愛感情だの抜きにして助けなくては! と使命に駆られた。
やっと落ち着いたところで前世からベリエの弟であるヒュルトユウリに事情を聞いた。ーー当然、ランスベルトには殺意が沸いた。ルークとその兄でありこの国の王太子であるハルトとも仲良くなり、ランスベルトとも顔を合わせた事があった。その隣に立つベリエは控えめながら幸せそうに微笑んでいて。ベリエが幸せならいいか、と思っていたのに。
ベリエをここまで追い詰めたんだ。相応の報いは受けてもらおう。
そんな事を思いつつ仕事の合間にベリエの様子を見に来ていたが、一向に生きる気力が湧かないベリエが痩せて衰えていくさまを見て歯痒くて仕方なかった。俺だったらベリエだけを大切にして愛していくのに、と歯軋りをしていた。
そうして今日もベリエの元に来たのだが、ドアが開いていて訝しんだ直後にヒュルトの声が聞こえて来た。声の調子から怒りを感じるが、どうやら怒りのあまり前世の言葉を使用しているらしく意味が分からない。ただ、俺やルークなどの名前が聞こえて来たから俺達の事も交えて話しているらしい。
やがてベリエの弱々しい声が力強い声に変わって静かになった。おそらく話が終わった、と思った俺は開いているドアをノックした。
「トホルス」
「なんだか分からない言葉で叫んでたな、ヒュルト」
ハッとした表情はやっぱり姉弟でベリエにそっくりだな、と思いながらヒュルトに言えば気まずそうな表情で肩を竦めて苦笑した。
「前世の言葉が出てたみたいだな」
「ニホンゴだったか」
「ああ」
そんな事を言いつつヒュルトはベリエの部屋を出て行く。俺が診察に来たと分かっているからだろう。残された俺がベリエを見れば、恥ずかしそうな表情で俺を見上げて来る。そんな目と表情でこっちを見て来られるとキスをしたくなると思う俺は悪くない。実際はやらない。そこはさすがに自制する。
「具合はどうだ?」
「大丈夫よ。いつも忙しいのに来てくれてありがとう」
微笑むベリエが美しい。
「自分に治癒魔法をかけるからもう来なくて大丈夫だわ」
それは俺が必要無いってことで。
そうか、と力無く応える。ベリエは気落ちした俺に気づかずに何かを決意した表情で俺を見た。
こんな表情が出来るなら大丈夫なのだろうが少し悔しい思いもする。ヒュルトの言葉が届いたという事は、先程の感情を迸らせたようなヒュルトが間違いなかったのだろう。
姉弟とはいえ、その絆の強さに嫉妬している俺がいたーー。
次話はベリエット視点。その後ヒュルトユウリ視点の予定。




