10:異母弟の馬鹿げた言動による被害〜ハルトリッヒ〜
ハルトリッヒ視点です。
兄弟の情より将来的に益が有る方を取るタイプ。国と私なら国を取る典型的な為政者思考の持ち主なので、ランスベルトの事は見限りました。異母弟が使えないのも見限る理由の一つです。
ある日、優秀で扱き使いたい公爵家の年下の友人から手紙が来た。私の4歳下だが5歳下の異母弟よりかなり優秀で使い勝手が良い。一を話せば十を知るとは良く言うが、さすがにそこまででは無いものの此方が望む物を読み取るのが上手いので、私が将来国王の位に着いた時には是非実力を発揮してもらいたい男なのは確かだ。その男……ヒュルトユウリからの手紙には、聞きたいことがある。全て話せ。とだけあった。
「あー。あのバカ弟のやらかしを説明しろ、と言われてもね……」
4歳下なのだが上から目線の手紙を読んでその怒り具合が想像つく。ヒュルトユウリは優秀なのだがたった一つ弱点というか難点というか厄介な点が有った。
彼の姉であり、私の異母弟の婚約者であるベリエット嬢である。彼女が絡むと途端に短気になり彼女の敵を容赦なく排除する性質へと変化する。所謂地雷であった。だから私はベリエット嬢を大切にしている。……まぁそれだけじゃなくて彼女は泣き虫で精神的に弱い部分があるけれど聡明だし優しい性格で私は割と好ましいと思うので、それも込みで大切にしている。女性としてというよりは妹のように思っているのだが。
実際異母弟である第三王子のランスベルトと結婚すれば義理の妹になるのだから強ち間違っていない。
だが、今回その異母弟がやらかしてくれた。いや正確に言えば現王妃である義母も一緒に。婚約者であるベリエット嬢と結婚するよりも前に側妃として男爵家の令嬢を迎えると結婚してしまった。私と弟のバイスルークが知った時には既に結婚証明書を教会に出して式も挙げてしまっていた。この情報が遅かったのは、おそらく父である国王陛下が意図的に留めていたのだろう。
あの腹黒が知らないわけがないので、その考えは読めたが……。この情報を私と共に知ったバイスルークの怒りを宥める方が厄介だった。
元々ベリエット嬢はバイスルークと婚約する予定だった。同い年で3歳くらいから良く登城する公爵について来ていたベリエット嬢をバイスルークは気に入っていた。恋愛云々はともかく何年も仲が良かったのは間違いない。だからこそ国王陛下と公爵で婚約を締結しようと考えていた。そこへ横槍を入れたのが私とバイスルークの母が儚くなり後妻としてやって来た現王妃。ベリエット嬢が光魔法の属性持ちである事を知ってランスベルトの婚約者にして欲しい、と父上に泣きついた。父上は王妃を宥めるのが面倒くさくてランスベルトの婚約者にしてしまった。そしてバイスルークはもう一つの公爵家の令嬢と婚約を締結させられた。
横槍を入れておきながら、ランスベルトに好きな女が出来て結婚したいなら……と勝手に結婚させた王妃。そして婚約者であるベリエット嬢を蔑ろにして正妃より先に側妃を作ったランスベルト。後々臣下に降下するまでは王子だが、何をやっても許されるわけではない。その異母弟のやらかし具合に、バイスルークは激怒していた。……バイスルークはベリエット嬢を大切にしていた。いや、成長するに従い女性として密かに好意を持つに至ったので、この扱いは許せないのだろう。それは分かるが私に当られても困るんだよね……。
バイスルークはバカでは無いのでベリエット嬢がそんな目に遭ったからといって、自分の婚約を解消してベリエット嬢を迎え入れる、なんて行動は起こさないだろうが、それにしてもこの怒り具合。兄弟間で血で血を洗う事態に陥らなければいいのだが、と危惧するほどだった。
だが、ヒュルトユウリから再び来た手紙で危惧どころか実際にその事態が起こり得る可能性が大きくなる事になろうとは……。
“姉ちゃんが自殺を図った”
この一文に私はギョッとした。ベリエット嬢が自殺を……? という事は医師が必要? いやそれならそう書いてくる。ならば医師の手配は済んだのだろう。しかしこれは本来なら私にも黙っておくべき案件。それを敢えて書いて来たのなら父上に報告しろ、ということか。ついでに婚約解消の話し合いをしたいということだな。それにしてもバイスルークに話すべきか否か。……いや父上に報告する時点でバイスルークの耳にも入るだろう。王妃はともかくランスベルトには報告しない方がいいな。どう考えてもこのタイミングでの自殺未遂などあのバカが原因だ。だがバカな事を仕出かした自覚のないクズが見舞いになど行くわけがない。
……バイスルークがあのバカを殺しかねない。うん、ランスベルトには黙っておこう。バイスルークには黙っておけないが見舞いに行くよう話せば一先ずは大丈夫だ。その間にランスベルトを殺さないように宥めよう。うんそれが良い。血で血を洗う争いは避けたい。
問題を先送りした気がしないでもないが、気のせいだと思う事にする。それよりもベリエット嬢の容体が気になる。早めに公爵家を訪ねる事にした。
ハルトリッヒは兄としてだと、割と色々苦労を背負い込む典型的な長男。典型的な長男で典型的な為政者……。型に嵌るタイプらしいです。きっと弟と異母弟のやり取りを想像するだけでキリキリと胃が痛むはず。
次話はモールナ(ランスベルトの恋人)視点




