絶賛いじめられっ子だ
残酷な描写注意です。
予想外にクラスメイトたちがお人好しすぎたが、好意的に迫害されているようなので結果オーライだ。無駄に話しかけたりはしてこないけど、いじめられるわけでもなく、学校に不慣れな私にささやかに手助けをしてくれている。なんて使えるやつらなんだろう。
でも一つ困るのは、浅月のことだ。
私と浅月が同室であることは事実だし、隠してもいない。私も、手が届かないとかで何か頼むなら浅月に頼む。手下ってそういうもんでしょ?
だから自然に私と浅月はよく接触することになるのだが、
「浅月さん、あれ、取ってもらえません?」
「わかった。あなたは手が届かないからな」
「浅月」とあだ名で呼び、年上の浅月から「あなた」と敬意を払われている私は、何故か妙な関係に見えてしまうらしかった。
私に話しかけない分、浅月に聞きに行ったらしいが、浅月は「同室で、いろいろ手助けをしている」と、「あの人のことは尊敬している」と言ってしまったらしかった。
手下だ、と言わなかっただけマシだが、何言ってくれてんだお前、状態だ。尊敬されてるなんて、私が尊敬にたる人物でそんぐらいの実力があるって言ってるようなものじゃないか。私は舐め腐って油断してるやつらを最小限の力で支配したいんだよ。
浅月はそういう、詰めが甘いところがあるが、基本的には有能で良い手下だ。絶対に油断はしないし気を許す気はないが、今のところ切り捨てる気もない。
で、悠々と学校生活を送っていたわけですが。
「あんた、生意気なのよ」
「貧民のくせに、身の程知らずね」
何故か上級生のお姉さまに絡まれてます。おかしいね。
いや、理由はわかる。悲しいことに、わかることはわかるんだ。
まず、私の年齢と編入。しかも編入試験も受けずに、コネでいきなり入学だ。これは目立つ。だから私のことを知っていても不思議ではない。
さらに寄宿舎での行動。もう私は寄宿舎の番長のような扱いになっている。貧民や平民など立場の弱い者のいる場所だから、私が台頭しても『一番働いているから仕方ない』と、働くものにはある程度寛容なのだ。コネもあるから、下手に刺激しては自分たちの立場が危うい、と思われているのかもしれない。
寄宿舎を清潔に保ち、個室に押し入って弱みを握った私に逆らう馬鹿は、現在の寄宿舎にはいない。私が横暴な支配者ではなく、それとなく自分が過ごしやすいようにお願いする程度の支配者だからなおさらだ。つーか君たちは何もしないでくれたらそれでいい。自分のことは自分でやったほうが楽で信用できるから、君たちは私の邪魔をしないでくれたらそれでいい。
そんなわけで、寄宿舎は完全に私の支配下だ。
下手をすれば一番良い寄宿舎より清潔で環境が整っているかもしれない(ただ焼却炉の悪臭はまだある。そのうち何とかする予定だ)寄宿舎を作った私は、これまた目立つ。支配者として君臨しているからなおさらだ。
そして学校での行動。いきなり『い』組にあがって、しかもあの宣言。クラスメイトたちから同情され良い扱いをしてもらっているから、妬まれるのかもしれない。成績も常にトップな優秀な生徒だし。あんな子供の問題で間違えるほうがどうかしてる。大人をあまり舐めるな。
で、最大の原因。
浅月だ。
そう、またあいつである。
浅月は同室で一番よく接するので、汚くて臭いのは困る。さすがに下野さんにしたように『一緒にお風呂』とかはしないが、裸にひんむいて風呂に投げ入れ、全身洗ってやるぐらいはした。で、「汚いのはよくないですよね」と言って、毎日清潔に体を清めるように言外に命令した。石鹸はさすがに目立つので、代わりに糠も渡してやったが、それで毎日綺麗にしているようだ。服も清潔にさせ、兄のおさがりだとかいう服を適当にリメイクしてやった。なんでも商人に弟子入りしている兄がいるとかで、それなりに上等な服も持っていたのだ。サイズが合わないからと言って着ないのはもったいない。どうせその兄もすぐ大きくなってまた下がってくるんだから、ちゃっちゃとサイズを合わせてやって着せた。端切れで当て布とかも出来るし、浅月に小さくなれば下の兄弟に着させればいいだけだ。
食事も、たまに分けてやったら美味い美味いと大喜びなので、たまに良い働いをしたときに褒美として作ってやっている。浅月は優秀なので、結果、二日に一回ぐらい食事を作ってやっている。そうなると栄養豊富で清潔な食事を食べることで、肌や髪の艶も良くなる。体格もよくなる。いいことづくめだ。
ついでにいえば、浅月は結構顔が良い。
おわかりいただけただろう。
格好良くて清潔で身なりがちゃんとしていて頭が良い、有望株。
浅月は、人気者になったのだ。
男からも女からも好かれている。士族からも、囲い込みするつもりなのか、それなりにアプローチをかけられている。
で、そんな浅月の近くにいる、貧民の幼女。
はい、嫉妬ですね。
猛烈に可哀想なだけなら、幼さもあって浅月の評判が増すだけだろうけど、私は良くも悪くも目立っていて、庇護欲をそそる感じではない。下手すれば士族並みの格好してるし、髪艶とかはそれ以上だ。手入れもしてないくせに嫉妬されても…、なんて思ってるからさらに嫌われる。知ってた。
というわけで、私は絶賛いじめられっ子だ。クラウスメイトたちが優しくしてくれるのだけが救いだ。
「聞いてるの?」
「答えなさいよ、貧民!」
上級生のお姉さま二人がぎゃんぎゃん言ってる。後ろには取り巻きらしき女の子たちが私をみて眉を顰めたりくすくす笑ったりしている。
私、六歳なんですけど、ご存知ですか?大人気ないっていうか、六歳の女の子にこんなことして恥ずかしくないんですか?むしろあなたたちのほうが滑稽じゃないですか?
思っても言いませんよ、ええ。
だから代わりにお姉さまの顔面殴ったよ。
「っきゃあ!?」
「な、なにをするの!この方をどなただと…!」
五月蠅いもう一人も殴った。
ここで悲鳴をあげられそうだったから、最初に殴ったお姉さまの腹を思いっきり殴って蹲らせ、その際に髪の毛を引っ張って背中に乗っかった。痛いでしょう、はは。
「騒ぐなら、この髪切りますよ」
マイ包丁を出して根元に当てる。下野さんのところにいた時に勝手に買った一品だ。きちんと手入れしているから切れ味はいいぞ。髪だって皮膚だって肉だって切り裂ける。
「あ、あなた、わた、私たちは、士族で…」
足元のお姉さまは何も言えないようだけど、もう一人のお姉さまは腰を抜かしながら何か言ってきた。
士族?
そんなもん知るか。
「そうですか。私は元奴隷です。士族の尊さなんて、知りませんね」
包丁をそらして、お姉さまの服を裂く。一応肌を切らないように気を付けてはいる。悲鳴あげられたら面倒だからだ。
「こんなことして、ただで済むと思ってないでしょうね!」
お姉さまは元気だなあ。足元のお姉さまは、私の手が滑れば切られるから、息を殺して泣いてるのに。
「思ってますよ。子供のちょっとした悪戯でしょう。それに、あなたたちは言うんですか?」
服を切り終わり、髪を引っ張って上半身を上げさせる。足で布を踏みつければ、服は脱げた。腕のところも切ったから、本当に綺麗に脱げた。
髪を持ったままお姉さまを蹴り、服の上から退ける。そして魔法。えーと。
「C+O2→CO2 【炭素と酸素を反応させた場合、二酸化炭素が生成される】」
この反応を、人は『燃焼』と呼ぶ。
服は大体が炭素を含む。燃えて炭になるものは炭素を持ってると考えても良い。
で、服の炭素と空気中の酸素と反応させて燃やした、というわけだ。
その副産物で発火するかと思ったけど、生憎発火はしなかった。残念だ。
でも、服の大部分が空気に溶け、反応せず残ったものも、砂のようにさらさらと風に流されて消えた。
ふう、またつまらぬことで地球温暖化に加担してしまった。ここが地球である確信はないけど。
「い、いま、の…」
おっと、まだいるんだった。
まあ、燃えないなら、わざわざ剥ぐ必要はない。
もう一回同じ式を唱えて、その場の全員の服を脱がしてやった。
お姉さま方が悲鳴をあげる前に、髪の毛を掴んでいるお姉さまを蹴って、黙らせる。
「喧嘩でしたら、買いますよ。下賎の身ですけど、威張り腐って何もしてくれない馬鹿に下げる頭はありませんから」
ただし、と包丁でお姉さまの髪を切り取る。
切り取った髪は、勿論炭素なのでそのまま二酸化炭素に変換する。頭に残った髪を反応させなかっただけ優しい。人体も大体は炭素から出来てるから、やろうと思えば二酸化炭素に変換させられるだろう。
出来ることは、出来る。
「六歳の元奴隷にひんむかれた、なんて、本当に言いつけられますか?その姿で、どなたに泣きつくつもりですか?言っても構いませんが、その瞬間、皆さんの裸体がさらされることはお忘れなく」
燃焼で発火しないなら、それはそれで、遠慮する必要はない。いくらでも消せる。
要するに、『私がその気になればいつでも裸に出来るんだけど、それでも盾つく気ですか?』と脅しているわけだ。
女の子たちは真っ赤になって私を睨んでいるが、怒鳴る馬鹿はいない。
よしよし。
「では失礼します」ときちんと頭を下げて、帰った。
翌日。
「おはようございます!」
私は、昨日脅したお姉さま方に元気よく挨拶してあげた。
お姉さま方の自室に侵入して、一人一人に、笑顔で。
侵入者だとか、犯罪だとか言われたが、ぐっすり眠っていた間に物色した弱味を見せつけてやれば大人しくなった。写真なんかがあれば、こんなまどろっこしいことしなくても、裸だけで脅せたのになあ。亜硝酸銀が手元にあればなあ。
「うわあ、ありがとうございます!幼くて危なっかしい私の面倒見てくださるんですね!じゃあ今度から、何かあったらお姉さまに頼ることにします!」
「え…?」
「私の行動の、責任を取ってくださるんですよね?――ねえ?」
そしてお姉さま方を脅し、後ろ盾兼責任者ゲット。これで私が暴走しないように、私以外の人を、いさめてくれるはずだ。ははは、私は敵を叩き潰すことに遠慮はしないぞー?それはあんたらが身を持って知ってるだろー?
「…何したんだ?あなたを苛めると嫁にいけない体にされる、とかいう噂が流れてるそうだけど」
「根も葉もない言いがかりですよ」
その後、いい子に登校すると、同じクラスの浅月が情報を寄越してきた。どうやら噂の広がり具合はまずまずのようだ。
私が脅したお姉さま方は結構お偉い人だったみたいだから、これで女子は歯向かわないだろう。次は男子だ。
ここで、『男子からはまだ何もされてないし~』なんて手を緩めるのは馬鹿だ。
こいつらは十歳から十四歳の、日本で言えば小学校高学年から中学生ぐらいまでの、クソ生意気で思春期反抗期盛りの悪ガキどもだ。
暗黙の了解なんて知ったこっちゃないし、手遅れになってからじゃないと理解しないほど自他を把握できない馬鹿だ。
徹底的に力で叩き潰して、絶対に逆らえないようにしなければならない。そこまでしないと、理解しない。
計画は手早く、先手必勝。
女子の間で噂が流行り、男子の耳にも入り始めたぐらいがベスト。
つまり、今だ。
「――でも、前のご主人様に、いろいろ仕込まれたので、そのせいかもしれません。毎日のように一緒に寝たいとねだられて、大変でしたから」
情報提供者の浅月に意味深に微笑み、ついでに周りの男子に色目を使う。
六歳だろうが、女は女。
周りの小汚い処女どもと、小奇麗にしていて、いろいろ仕込まれている私なら、どちらに食指が動くかは、……まあ趣味があるかもしれないが、ヤリたいだけの男なら、まず私を選ぶだろう。
噂は上書きされる。
女子が怯える子供を、色に慣れた女に塗り替える。
ここで、閉鎖空間に暮らす思春期男子どものとる行動は?
「へへっ…お前、ご主人様にご奉仕してたんだって?どんなことしてたのか教えてくれよ」
短絡的な馬鹿が上手に釣られるよね。
浅月みたいな厄介なのじゃない、ただの馬鹿ガキ。
――簡単に殺せる、素敵な獲物。
「教えを請う態度がなってませんね」
にこっと微笑んで、一切の容赦なく、金的に蹴りを放った。
馬鹿ガキが前のめりに倒れたから、こめかみをさらに蹴った。
あ、運がいいな。
死んでないや。
「て、テメエ!何、して…!」
「C+O2→CO2(炭素と酸素を反応させた場合、二酸化炭素が生成される)」
なら、とりあえず、その場の全員の服を二酸化炭素と塵に変えて、
「――っきゃぁあああああああーーーーーーーーー!!!」
思いっきり、大声で、叫んだ。
「助けてください!!!誰か!!いやぁあああああーーーー!!!」
ガキどもは目に見えて慌てた。突然、リーダーっぽいやつがやられて、服が消えて、人を呼ばれたら、まあ慌てるだろう。
「に、逃げるぞ!今日のところはこれで勘弁しておいて…!」
「――逃がすわけねえだろ勘弁してやる気もないわ」
慌てて、リーダーっぽいやつも置いて逃げ出そうとしたから、その隙だらけな背中に椅子をぶん投げる。椅子は綺麗にそいつに当たって、押し倒した。うーん、ストライク!
もう一人ぐらい欲しいから、次に偉そうなやつの足にほうきを投擲。そいつの足が絡まって転ぶのを確認しつつ、椅子に押し倒されてるガキの股間を上から踏みつぶした。断末魔のような絶叫を上げられたけど、まあ死にはしないよ、多分。てか、五月蠅いなあ。近くに他の人がいるんだから、もうちょっと配慮して欲しい。
椅子とよろしくやってるそいつの絶叫に耳を塞ぎながら、ほうきに足を取られたやつの背中にかかと落とし。のちに素早くひっくり返して、やっぱり金的潰し。二重合唱の悲鳴が実に五月蠅くて、頭がくわんくわんしてくる。
嫌になりながらも、まずはリーダーっぽいやつを縄で縛りあげ、次は椅子男、その次はほうき男と順に縛る。気絶していたリーダーっぽいやつはともかく、後の二人のガキは、意識はあったのに従順に縛られてくれた。痛みでそれどころじゃなかったのかな?リンドウも山田花子(仮名)も私も、女だからその痛みがわかんないんだよね、幸いなことに。
三人とも縛り終えたら、縄を柱にしっかり縛り付けて、窓を開けて、ぽーんと投げ飛ばした。頭が上になるようにしてあげたから、血が上ることはないだろう。
大体、こんな日暮れの校舎に連れ込むこいつらの頭がおかしい。
何故よりによって、野外じゃなくて校舎内で事に及ぼうとするのか。
細工をする時間が取れないじゃないか。もっともっと、いろいろ、犯罪者の拷問手口を披露してあげてかったのに。
日暮れなんて時間だから、人も案外集まりやすいし。まったくもう、深夜か早朝にして欲しい。
見つからないうちにこっそり逃げ出したが、なんとなく不完全燃焼な気持ちが残った。このぐらいで、いじめって止むのか?根性のあるやつなら続行してきそうだなあ。
「……昨日の夕方、裸で四階の窓から吊るされていた三年生たちは、あなたのしわざか?」
「噂になってますか?」
「なってる。三年生たちの面目は丸つぶれだ。漏らしながら助けを呼んでいた。下ろされた後も、股間の怪我について、みんなの前でしっかり診られていた。後遺症は残らないようだが、子供にひどく怯えるようになったそうだ」
「そのぐらいなら、まだ誰か尋ねて来そうですね…」
「はあ!? 来るわけないだろ!あいつらがあんな目に合わせられたのに!」
「浅月さん、大きな声を出されると、私、怖くって、うっかり泣かせちゃいそうです」
「ごめんなさい」
五月蠅い浅月は脅して黙らせたが、その後、私に表立って盾突いてくる生徒はおらず、それどことか、教師すらも腰の引けた扱いをしてくるようになった。
リフォーム大成功。とても暮らしやすくなった。




