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・エピローグ1/2 惑星ファンタジア、宇宙進出を果たし銀河連邦構成国となる

 それからだいぶ状況が変わった。あのワームホールのせいだ。敵国に続くワームホールがこの辺境宇宙に開いたことにより、ここは最前線のうち1つとなった。


 コモンウェルス星団としては守るべき防衛ポイントが増えて苦しいところだ。宇宙では目下、この恒星系の要塞化が進んでいる。


「コモンウェルスからの外交、使節……?」


「はっ、天からきた者たちはそう名乗っておりますが、どういたしましょう、魔王様」


 そんな折り、デスから使節の来訪を聞かされた。


「は、はは……そりゃなるほどな……。謁見の間に通してくれ、話はだいたい見えてるけどな」


 一応の政務室から謁見の間に移ると、そこにはコモンウェルス大統領リグベルド氏のクローンが立っていた。

 宇宙は広い。己のクローンを派遣するのもまた1つの外交の形だった。


「おい、条約違反だろ、こりゃ……。何やってんだ、アンタ……?」


「やあ、直接会うのは初めてだね、騎士ヨアヒム。磁気嵐の件は本当に助かった、感謝しているよ」


 リグベルド・アディスン大統領は大統領としては若く気さくな男だった。立派な口髭を伸ばしてはいるが、若々しさゆえか髭はあまり似合っていなかった。


「おう、今は正直に報告した自分を褒めてやりたいぜ」


 皮肉なことにワームホールの報告が辺境警備隊の到着をもたらした。彼らは乱心した惑星監視官を討った後に、駐屯してワームホールを監視する任務を与えられていた。


「騎士ヨアヒム、コモンウェルス星団は方針を変えることにしたよ」


「……は?」


「背に腹は変えられない。議会は惑星ファンタジア代表政府とのファーストコンタクトを行うことを承認した」


「は、はぁぁぁっっ?!」


 なんだよそれは!?

 俺が条約違反に頭を悩ませていたのがバカみたいじゃねぇかよ!?


 未開惑星の政府とのファーストコンタクト。それもまた銀河条約違反のはずだった。


「この星の優れた労働力を貸してほしい。無論、君の力と、魅惑的な埋蔵資源の力も借りたい」


「なんかよぉ、それ、ずるくねぇ……?」


「一国の政府とはそういうものだ。さて、惑星ファンタジアの盟主バーニィ・ゴライアスよ、君はこの星の民だな?」


「あ? ああ……この星は俺の故郷だ。ここはニューフロンティア・コロニーが眠る地だ」


 迷わずに言い切ると、リグベルドはずるい笑顔を浮かべた。


「つまり我らは同胞。コモンウェルスは同胞を守る義務がある」


「へっ、都合のいい理屈だな」


「さて、次だ。この星の民である君は先日、重力のくびきから解放され、見事宇宙飛行を果たした。相違ないね?」


「お、おう……? まあ飛行したことは飛行したぜ?」


 大統領のずるい笑顔が楽しげなものに変わった。


「宇宙に行ったね?」


「おう、行ったけどなんだよっ!?」


「おお、惑星ファンタジアの民よ、宇宙進出おめでとう!」


「はぁぁ……っっ!?」


「君たちは見事、宇宙文明の仲間入りを果たした!」


「て、てめぇ……てめぇら、まさか……」


 大統領が手を鳴らすと、寒々しい拍手喝采が周囲の取り巻きたちから響き渡った。

 他者の力を借りずに宇宙飛行を果たしたとき、その星は未開惑星保護条約という枷から解き放たれる。


 その条約には『生身で宇宙飛行を達成した文明は例外とする』とはなかったはずだ。


「銀河連邦は我々の屁理屈についぞ折れた。まあ、笑うしかなかったのも大いにある」


 これでコモンウェルスは要塞建築の労働力、資源を惑星ファンタジアから確保できる。シルバークリスタルはレーザー兵器の戦略資源でもある。これにより要塞化は順調に進むだろう。


「ははははっ! まさか生身で大気圏を突破し宇宙にやってくる常識知らずがいるとは、私も想像しなかった! いやよくやってくれたっ、君のおかげでコモンウェルス星団は救われたっ!」


 そういうことである。ファンタジアを守らなければならない俺に拒否権はなく、あきれ果てながら条約の書類にサインを刻むことになった。


 50倍の速さで時が流れる惑星ファンタジアは、生産性もまた50倍。ファンタジアを頼れば確かに、魔法のような早さで要塞を建築することが可能だった。


 つーか正しい進化とかいう建前は、どこに消えたんだよ……。


「そうだった、もう1つあったのだった」


「勘弁してくれよ……。またろくでもない話なんじゃねぇのか……?」


「要塞の司令官となって、来るべき戦いに備えてくれないか? この星を守るならば君は再び宇宙に上がるべきだ」


 侵略者からこの星を守るだけならそれが正しい。この星に残れば、宇宙から見て50倍の速さで老いてゆくことになる。

 魔王の魔力を動力とした超兵器も、50倍の速さで宇宙から消える。


「やなこった。俺っちはこの星で生きるって決めたんだよ」


「なぜだね? もったいない話だと思うが?」


「この星のやつらと同じ時の流れの中で生きたいんだ。かつてニナや故郷の仲間がそうしたように、ファンタジアの民との間に子孫を残し、星と一つになるのが俺っちの望みだ」


 俺の返答に大統領は指を鳴らして笑った。大統領のくせに若くて軽くて、カリスマ性を感じた。


「羨ましい生き方だ。男の子は皆、未開惑星の英雄になることを一度は夢見るものだからね」


「おうっ、大変だが毎日エンジョイしてんぜ」


「私が廃棄処分になったら、私を引き取ってくれたまえ。君のような生き方も悪くない」


「ははは、いつでも歓迎するぜ。なんなら職務放棄してこのままここで暮らせばいい!」


 目の前にいるのはクローンではあるが、リグベルド・アディスン大統領は好ましい男だった。


「んじゃ、家族が待ってっから俺っちは帰るぜ。よけりゃ明日にでも、モフモフやバインバインがいる店に連れてってやんよ」


 話がまとまると些事はデスや文官たちに任せて、俺は自宅に帰った。


「あ、お帰りー、パパー♪」


「お、お帰りなさい、お兄ちゃん……!」


 ステラとパイアは引き続きこの家で暮らしている。宇宙に出た後、しばらく失踪した状態が続いていたからか、星に帰ってきたときは大泣きされた。


「無理してニナのふりをするこたぁねぇ。パパって呼んでくれていいんだぜ……?」


「は、恥ずかしいから、あの、それは次の機会にします……」


「何言ってんだ、実際パパだろ、俺っちはよ」


 星に帰ってすぐにステラとパイアを養子に迎えた。二人とも親を失っていたし、俺っちも99歳のおっさんだ。養子くらい迎えても罰は当たらねぇ。


「何をやっている、ヨアヒム。あまり父親風を吹かせるとかえって嫌われるぞ」


「お、おおっ、ヴィオレッタちゃんっ、帰ってたのか!」


「中に入れ、夕飯を食べさせてやる。そ、某は……そなたの、か、彼女だからな……っ」


 ヴィオレッタは俺と交際してくれた。一緒にここで暮らすと言ってくれた。今では少し、その……尻にしかれているかもわからん。


「パイア、厨房を手伝ってくれ! ステラはその男の相手をしてやれ」


「はいはーい! ヴィオレッタさんきてくれて楽しい! ずぅーーっとここにいてねー!」


「それはヨアヒム次第だ」


 厨房に消えてゆく二人を見送って幸せを噛みしめた。この星に帰ったのはやっぱり正しかったのだと、何度も再確認した。


「今日の話を聞かせてくれよ、ニナ。あ、いや、間違えた、すまん……」


「ヨアヒムお兄ちゃん……」


「お、おう……っ」


「お帰りなさい。この星に残ってくれて、本当に嬉しい……。ありがとう……」


「ニナ……?」


 一瞬、ステラの顔にニナそのままの面影が浮かんだ。だがすぐに消えて、キョトンと俺の顔をのぞき込むステラが残った。


 非科学的な発想だが、この子はニナの生まれ変わり、なんてことはやっぱりないよな……。


「悪い。実は今日、ちょっと面白いことがあってな、ステラにだけ先に教えてやろう。実は、星の世界からな――」


 ニナ、兄ちゃんは帰ってきたぜ。

 みんな一緒だったこの場所に。お前が生きたこの星に。

 これから惑星ファンタジアは宇宙文明の仲間入りを果たすんだぜ。


 ステラに語ると、ニナに言葉が届いているような気がして、俺ぁ幸せだった。失った全てを取り戻した気になれた。


 【いつかガイアに帰ろう】

 先祖のあの言葉にはもう1つの意味があった。彼らはもう自分たちが2度とガイアに帰れないことを知っていた。


 コロニーに残された古いログによると、あの言葉の隠されたもう1つの意味は【いつか子孫をガイアに帰そう】だ。


 きっと、ニナも同じ気持ちだったに違いない。未来の世界で子孫が兄ちゃんと出会うと信じてたくさんの子を残した。


 俺もニナも、もうあの頃には帰れないことを知っていた。

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