表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私のことはどうぞお気遣いなく、これまで通りにお過ごしください。  作者: くびのほきょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

13

『義妹に婚約者の第二王子を奪われ領地に追放された公爵令嬢は、帝国で聖女になります』のメルことメリッサ。

『継母と異母妹に家を追い出された伯爵令嬢は、帝国で皇太子に愛される』のブレイことオーブリー。

『両親を亡くし叔父に家督を奪われた侯爵令嬢は、帝国で第二皇子に愛される』のキャリーことキャロライン。

『異母兄弟達の爵位争いから逃げてきた辺境伯の隠し子は、帝国で美少女たちに囲まれて困ってます』のノア。


ブレイが考えたこの流行りの恋愛小説風自己紹介は、後半の“帝国で”から後は真っ赤な嘘だが、前半部分は的確な表現だとメリッサは思った。4人共この自己紹介以上の詳しい事情は話さなかったが、4人で過ごす学園生活にはこれだけで充分だった。


友達だと思っていたジャクリーンからあっさり嫌われた過去のせいで、学園で友達ができるのか不安だったメリッサだが、ブレイに話しかけられたすぐ後には不安に思っていたことすら忘れていた。


周囲の帝国貴族の令息令嬢達のように派閥の関係を考慮したり、会話の裏を読んだりする必要がない穏やかな学園生活。メリッサ念願の帝都生活でもあるため、休日のたびにブレイ、キャリー、ノアと街へ繰り出し、路上で演奏している人たちから様々な楽器の演奏や歌を耳にすることができた。


平民になる予定のメリッサは自国ではなく帝国の学園で良かったと心底思っているが、この帝国の貴族学園を卒業してウェインライト王国へ戻り貴族として生きないといけない他の3人にとっては違うのだろうなと、メリッサは3人の今後が心配になっていた。


頻繁に文通しているローズからの手紙に、帝国貴族の子女達と仲良くなり、ピアノの腕をアピールして、今後の伝を作るのはどうかと書いてあったが、大切な友人と過ごす時間を優先したいとメリッサは返事を書いた。ローズは、友達ができてよかったと喜んでくれた。


ウェインライト人の先輩後輩もいて、他国出身として注意しないといけない事などを先輩たちに教えてもらい、また、自分たちの後に入学してきた後輩たちに教えた。皆何かしら傷付き国を追われた人ばかりのためか、優しく助け合っていた。こうして狭かったメリッサの人間関係は、少しずつではあるが広がっていった。


それでも、夜になると、心の中が空っぽになってしまったような寂しさに押しつぶされそうになる。そんな寂しい夜は青緑のリボンを眺めて過ごすようになっていた。


メリッサは入学前からジョンストン公爵家にいるネイト宛に手紙を出し続けていた。アメリアに読まれるかもしれない可能性を考慮して、当たり障りない内容とネイトの体を心配する手紙だ。


そして、貴族学園へ入学してしばらくした頃、ネイトからも手紙が届くようになったのだ!


くしゃくしゃになった封筒で届くネイトからの手紙は、「元気にしているか」「元気にしている」「心配いらない」「ピアノが聴きたい」「帝国で頑張れ」といった内容ばかりで、メリッサが送った手紙の問いかけへの返事はない。

メリッサが送った手紙と噛み合わないネイトからの手紙に、メリッサの手紙はネイトに届いていないことを察する。それでも、たくさん送れば1枚くらいはネイトに届くかもしれない、メリッサから手紙が届いていることだけでも伝わるかもしれないと思い、誰かに見られても大丈夫な内容でネイトに向けて手紙を出し続けている。


ネイトから届いた手紙はメリッサの大切な宝物だ。短文の羅列ばかりでそっけない内容なのだが、それが却って筆不精なのにメリッサのためにわざわざ手紙を書いて送ってくれてるのだと分かり嬉しくなる。リボンと一緒に宝箱に入れて、寝る前に見返している。


ある日、ネイトから届いた手紙の中に「パトリックにピアノを聴かせるな」という不穏な文があり、どういうことなのかと不安に駆られたが、いつかネイトと再会した時に理由を聞けばいいと気にしないことにした。ネイトと再会し許可が出るまではメリッサが兄の前でピアノを弾くことはないだろう。


こうして時は流れ、メリッサは貴族学園の3年に上がり15歳となり、秋にあるテルフォート国際音楽コンクールに応募できる歳になった。


15歳のメリッサがコンクールへ応募するには父かウェインライト王国の王族のサインが必要だが、父に帝国でピアニストになると知られるわけにはいかないため、今年の応募は見送るのだ。


貴族学園の卒業最終試験直前に行方をくらまし貴族籍を捨て、卒業式を過ぎた後に国籍を帝国に移して帝国の平民メルになる。そして、平民メルとして帝国の魔法学園へ入学し、来年、16歳の秋に憂いなくコンクールに応募する。心の中で今後の計画を復習する。


国籍は本人と王族以外は勝手に閲覧できないと国際法で決まっているため、家族にバレる心配は少ないはずだし、魔法学園ではカツラをやめて、貴族学園のメリッサ・ジョンストンとは別人を装おうと思っている。


貴族学園3年の夏の終わり、夏休みが明けて新学期が始まった日の放課後、メリッサ達4人はいつものようにメリッサが通年で借りているピアノ自習室に集まっていた。


メリッサがピアノを弾く横で他の3人が勉強するのが4人の中でお決まりの放課後の過ごし方だった。


「皆も帝国の魔法学園に行くのよね?」


メリッサがキリの良いところで演奏を一旦休憩していた時、皆へ問いかけたキャリー。新学期となり卒業まで半年となったことで皆の今後が気になったのだろう。そんなキャリーの問いかけに、帝国の新聞だけでなくわざわざウェインライトの新聞も取り寄せ、毎日読み込んでいるノアが答える。


「ウェインライト王国の魔法学園が実験的に一部の教育方針を変えるために、来年から数年間、魔法学園の国際条約の加盟から一時的に外れることになると新聞に載ってたよ。今月中には、来年度入学からウェインライトの国籍を持つ者は他国の魔法学園へは入学できないと正式に広報されると思う。僕たちはウェインライトの魔法学園にしか入学できなくなる」


メリッサは知らなかったその事実に驚くが、先日、“自国の魔法学園に入学するため、帝国の貴族学園卒業後にジョンストン公爵家に戻るように”という父からの手紙が届いたことを思い出す。あれは父から子供への手紙ではなく、家令が代筆したジョンストン公爵からの指示書だ。アメリアが魔力操作の訓練を終わらせたのだと思っていたが、これが理由だったのか。


「知らなかったわ。相変わらずノアは勤勉で物知りね。……そう。そうなったら多分私は貴族学園を辞めて帝国の平民になると思う。平民として帝国の魔法学園に通うわ。叔父に無理やりここに入学させられたけれど、平民になってでも逃げようと前から思っていたのよね」


キャリーが帝国で平民として生きるなら、同じく帝国の平民になるメリッサも一緒に帝国の魔法学園へ通える。


「魔法学園って王妃の管轄だったわね。きっと第三王子をウェインライトの魔法学園におびき寄せようとしているんだわ」


「第三王子?」


キャリーの思いがけない発言にブレイが興味津々で問いかけ、メリッサやノアもキャリーの話の続きを待つ。


「亡くなった側妃が産んだ第三王子がいて、陛下が王妃様から隠してるらしいの。その第三王子は私と同い年で、他国の貴族学園に入学する可能性が高いから、私は帝国で第三王子を探すようにって命じられて叔父に無理やりここに入学させられたのよ。……その辺に捨てられるよりはましだからいいけどね。まだ見つかってないらしくて、叔父から同い年だけじゃなく後輩も探れって手紙が沢山きてて辟易してるの。めんどくさいから探してもないけど、この学園に第三王子はいないわ」


「同い年のウェインライト人唯一の男で、経歴も辺境伯の庶子ってごまかしてるかもだし、正直、僕が一番怪しくない?なんで違うってわかったの?」


ノアの問いかけにキャリーは自信満々で答える。


「顔よ!あの美形の陛下と、その陛下が寵愛してた側妃との子供なのよ?並大抵の顔じゃ納得できないわ」


並大抵の顔と言われたノアはうなだれ、それを見たブレイが爆笑している。


「正直一番怪しかったのはメルね。容姿端麗で、勉強しなくても常に学年10位以内を取って、プロ並みの素晴らしいピアノ演奏で、珍しい光魔法を使えて、何よりなぜかカツラを被ってるでしょ?最初は疑ってたんだけど、カツラの下はただの金髪で、そのカツラも性別を変える魔道具ってわけでもなかったから違うかなって。第二王子の元婚約者候補が実は第三王子でしたはさすがに無理があるかなーって」


「えっ!?私がカツラだって気づいてたの?」


当たり前のようにカツラのことを言うキャリーにメリッサはびっくりする。


「何か事情があるんだろうなと思って黙っていたけど、私は入学して1週間くらいで気づいたわよ。ふたりは?」

「僕は1ヶ月かな」

「私は入学式!」


キャリー、ノア、ブレイの言葉にメリッサはガッカリと肩を落とす。


「皆はウェインライトの魔法学園に行くなら、私だけお別れね。平民になるのは正直不安だけど、どうにかなるでしょ。落ち着いたら手紙を書くわ」


そう言って寂しそうな顔をしているキャリーだが、メリッサも同じく平民になって帝国の魔法学園へ行くのだ。


この2年半で培った友情を信じよう。


そう決意したメリッサは、帝国でピアニストになる計画を3人に打ち明けた。



--------------------



それから半年経ち、春の日差しが暖かい今日は、メリッサが生まれたウェインライト王国の魔法学園の入学式。


入学式の会場ホールでは、入学生とその家族が席に座って入学式が始まるのを待っている。ギリギリまで帝国を出国しなかったメリッサは、ジョンストン公爵家には寄らずに直接魔法学園に来たため、家族には会っていない。


親の同伴がなく固まって座っているメリッサ、ブレイ、キャリー、ノアの4人は、まるで3年前の貴族学園の入学式の時のようだと笑い合う。3年前と同じく、メリッサの髪には思い出の青緑色のリボンが着いている。


席はステージに近いほどに高位貴族が座っていて、ステージを見下ろすように階段状になっているため、一番後ろに座っている4人にはホール全体を見渡すことができた。


今年は第二王子クリストファー殿下が入学するため、ステージ右手上の特別来賓席には国王夫妻と、魔法学園2年の第一王子エルドレッド殿下がいる。ステージ前の客席最前列の右端に座っているのがクリストファー殿下だろう。ステージ左手上の特別来賓席には国内外の貴賓達が座っている。新しい教育方法の紹介もあるために今年は例年よりも貴賓が多いらしい。


「あの黒髪がメルのネイト?」


ブレイが指差しているのは、ステージの最前列真ん中に陣取っているジョンストン公爵一家の一列後ろに控えるように座っている黒髪の青年。


3年半ぶりに見るネイトの後ろ姿だ。


ネイトは時折り左右に顔を振り周りを見渡しているため、相変わらず長い前髪で顔半分を隠しているのだとわかる。こちらからは見えないが、その胸には入学生を表す造花の薔薇が着いているのだろう。少年から青年に変わったネイトの背中を見てメリッサの胸はドキドキと高鳴る。あの大きな背中のネイトの顔に手を添えて、至近距離で光魔法をかけることはとても出来そうにない。


「うん。私のじゃないけど、あれがネイトだよ。その前、最前列に座っている金髪の令嬢がアメリア」


そしてそのアメリアの両隣、後ろ姿のため顔は見えないが、右隣の銀髪の紳士が父で、左隣の銀髪の夫人が祖母だろう。上級生は入学式へ参加しないため兄はいないようだ。


ロートンへ行ってからは会うことがなかった、5年ぶりに見る家族の後ろ姿に、感動もなければ、自分の存在を忘れられていることへの悲しみもない。メリッサの目的は彼らではないのだ。家族を気にすることはもうやめよう。


しばらくして、ステージ上の明かりが灯り、ウェインライトの魔法学園の入学式が始まった。校長の挨拶から始まり、順々に外国の高名な魔導師や学者の話が続き、そして、次は新入生代表の挨拶。


新入生の代表の名はアメリア・ジョンストン。


計算高いアメリアが、決して勉強ができないわけではないクリストファー殿下に新入生代表の座を譲らず、王族の面目を潰してでも挨拶をするのには理由がある。先月、アメリアと第一王子エルドレッド殿下は婚約したのだ。


公爵令嬢といっても元は子爵令嬢で高貴な血は流れていないアメリアが、皆へ優秀だと宣言できる場を逃すわけがない。


昨年の晩秋、エルドレッド殿下が次の夏に立太子することが発表された。寵愛する第三王子がウェインライトの魔法学園に入学することになってしまった陛下は、王妃から第三王子を守るために、エルドレッド殿下を立太子させろという王妃の要求に屈したのだ。


エルドレッド殿下の立太子が決まった後、すぐにアメリアはエルドレッド殿下と婚約した。思い立ってすぐに王子と婚約まで持っていったアメリアの政治手腕が恐ろしい。


最前列に座っていたアメリアは完璧な所作で立ち上がり、優雅にステージへ上がっていく。


すらっと長い手足、制服の襟から覗く首筋の透けるように白い肌、輝く金髪にバラのような赤い目、左右均等に配置された形の良い目や鼻。暗い席からゆっくりと明るいステージに上がり、だんだんと鮮明になっていく少女の姿に、皆目が離せない。


メリッサが最後に会った11歳から16歳に成長したアメリアは、まるで神が作った人形のように現実離れした美人になっていた。


とりすますことなく、花が咲いたような微笑みを浮かべたアメリアは、鈴を転がすような澄みわたる美しい声で挨拶をはじめた。


「あたたかな春のおとずれと共に、私た……「国王陛下!私はここで、第一王子エルドレッド殿下の婚約者、アメリア・ジョンストンが犯した殺人について献言いたします!」 」


アメリアがいるステージへ上がり込み、アメリアの挨拶に被せて来賓席の国王陛下へ向かって申し立てを宣言したのは、長い前髪を上げ、アメリアと全く同じ美しい顔を晒したネイトだ。


客席にいる皆は、その現実離れした二人の同じ容姿と突然の出来事に理解が追いつかず、反応を忘れて陛下の言葉を待っていた。

急な場面展開&説明なしの急展開で戸惑わせて申し訳ございません。急すぎだったなと反省してます。

次話からはその急な展開の説明パートになりますので、第三王子が誰なのか予想しながら更新をお待ちいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 分かりやすい自己紹介で笑った おかげで話しもサクサク進むし良い感じだ [一言] ノアの自己紹介だけ本当なのでは… 美少女3人と一緒だし
[一言] 有る意味、危なかったね、他国にまで自国の密偵に近い人間いたんだから。 幸い、密偵も主人公に近かったから良いが。 結果的にネイト、あれに攫われて正解だったんじゃあ。
[気になる点] 帝国と言う以上は、王国とかより格上で属国とか抱えていそうだし、周辺国の子弟の留学先(及び帝国へ早い段階から取り込む為)の帝国貴族学園と思えば、周辺国の訳有り子弟の避難先(追放に近い)か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ