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恋もバイトも24時間営業?  作者: 鏡野ゆう
本編 3 習志野の夏祭

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第六話 なんかいた!

 ゲートが見えてきた。それまで普通に歩いていた山南(やまなみ)さんの歩調が急に遅くなる。


「どうしたんですか?」

「いや、なんか知っている人間が立っているなと」

「え、そうなんですか? こちらの警備さんにもお知り合いが?」

「いえ、警備じゃなくて単独で門の前に立っている隊員です」


 そう言われて門を見る。警備として立っている隊員さんとは別に、妙に存在感のある人が立っていた。しかもその人はこっちを見て、白い歯を見せてニカッと笑っている。


「めちゃくちゃ笑顔ですね」

胡散臭(うさんくさ)すぎで顔面を思いっきり殴りたくなってきました。相手が相手だから返り討ちにされそうですが」


 山南さんはとても物騒なことを言い出した。


「殴りたいとか返り討ちとか、穏やかじゃないですね?」

「穏やかな気分が吹き飛んでしまったので」


 山南さん一人だったら引き返してしまったかもしれない。でもあいにくと今日は、初夏祭の私がいた。


「なんでいるかな、アレ」


 呼び方が隊員からアレになっている。そして山南さんはなんと、その人を無視して通りすぎようとした。もしかして非常に無礼なのでは?!と焦ったけど、その人は気を悪くした様子もなく、笑いながら山南さんの腕をつかむ。


「おいおいおい、それはないだろ、山南。せっかく出迎えてやったのに」

「てことは、斎藤(さいとう)が一枚かんでるってわけですね」

「あいつとは限らんぞ? そっちの駐屯地にはまだ知り合いはたくさんいるし」

「はぁぁぁぁ、どうもお久しぶりです。会いたくなかったですけど」


 いつものカピバラさんとは思えない物言いだ。


「まったくあいかわらずだな」


 その人はニコニコしたまま私を見た。


「こちらのご婦人を紹介してくれないのか?」

「紹介したくありません」

「上官の命令だ。ちゃんと紹介しろ」


 山南さんを見ていたその人の顔が、一瞬だけ真顔になる。


―― こ、こわい~~!! ――


「うちの駐屯地のコンビニで働いている御厨(みくりや)あやさんです。で、俺のカノジョです。手を出したら、上官だろうと東京湾に沈めますから」


 山南さんも一瞬だけ真顔になった。


―― こ、こっちもこわい~~!! ――


「はじめまして、御厨と申します」


 内心、冷や汗をかきながら頭をさげる。


「こちらこそはじめまして。今日は習志野(ならしの)駐屯地の夏祭に、ようこそお越しくださいました。こちらの部隊に所属している原田(はらだ)と申します。以後お見知りおきを」


 そう言ってその人、原田さんが敬礼をする。


「山南さんとはどういった……?」

「自衛官として2年先輩なんですよ」

「そうなんですか……」


 だったらやはり、無視して通りすぎようとしたのは無礼だったのでは?


「何年か前までは同じ部隊にいたんですよ、山南と俺は」

「そうなんですか~~」


 うなづきながら、あらためて相手を観察してみる。山南さん達もそれなりに体格が良いほうだけど、この原田さんはそれ以上だ。なぜか腕まくりをしてむき出しになっている腕は、丸太みたいに太くてムキムキだった。めちゃくちゃ筋肉がついているのが私でもわかる。


「山南さん、なんか負けてますよ」


 原田さんの腕を指さしながら言う。それを聞いた原田さんは吹き出した。


「御厨さん、コレには勝てませんから。コレに勝とうなんて思ったらダメです」

「そうなんですか?」

「コレとはひどいな。だが、カノジョさんは実に目のつけどころが良い。さて、では行こうか」

「目のつけどころが良いんですって」


 ほめられた!と喜んでいると、山南さんがため息をつく。


「あれ、腕の筋肉を見せつけるために、わざと袖をまくっているんですよ」

「え、そうなんですか?」

「ちょっと変なんですよ、先輩。いや、先輩だけじゃないか」


 それってどういうことなんだろうと首をかしげた。


「見せたがりさん達が多いんですか?」

「そんなところですね」

「そりゃ、厳しい訓練の末についた筋肉なんだ。自慢したいに決まっている」

「……と、いうことです」


 ということです、と言われてもよくわからない。


「山南さん、あれ、なんですか?」


 なにやら高い紅白の塔のようなものが見える。こっちの駐屯地にある通信用のアンテナよりも、ずっと高いし大きい。しかも傘のようなものが四つ、上がったり下がったりしている。


「まさか、夏祭用のアトラクションでも作ってるんですか、ここ」

「いえいえ。あれも訓練用の設備ですよ。パラシュートで降下するための訓練設備です」


 よく見れば傘の下に人がぶら下がっているのが見える。


「もしかして、あれ、私でも体験できるんですか?」

「やりたいなら止めませんよ。ただし、一人では危険なので、隊員とぶら下がることになりますが」

「なんなら俺がご同行いたしましょうか? 山南はアレの訓練はやってないよな。ああ、お前もするか? もちろん俺が一緒に上がってやる」


 原田さんがニヤニヤしながら振り返った。


「原田さんと一緒なんてイヤですよ。遠慮します」

「なんだ、向上心のないヤツだな。カノジョさんを少しは見習え」

「イヤなものはイヤです」


 そんなことを話しながらその塔の近くまで行った。遠くから見ていた時はわからなかったけど、けっこうな高さだ。しかも降りてくる速さもなかなかなもの。


「けっこう高いですね」

「80メートルほどかな。俺達だけではなく、空自や海自の連中も訓練しにくるんですよ。航空機から脱出する時にパラシュートを使うのでね」

「へえ……」


「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ~~!! こんなのこわすぎるぅぅぅぅぅ~~!! 早くおろしてぇぇぇぇぇ~~!!」


 塔を見上げていると、聞いたことがある声が上から聞こえてきた。思わず山南さんと顔を見合わせる。


「今の声って、もしかして加納(かのう)さん?」

「そう言えば今日、あいつらも外出許可申請を提出していたような」


 上には隊員さんと一緒に宙吊りになっている私服の人がいて、声はそこから聞こえてきた。その声から察するに、上で宙吊りになっている四人のうちの二人は、青柳(あおやぎ)さんと馬越(まごし)さんらしい。


「もしかしてそっちの連中か? 休みを取ってまで降下塔体験にやってくるとは、なかなか見込みがある連中だな」

「少なくとも一人は、この体験を望んでなさそうですけどね」

「声がでかいのは良いことだ」


 そういって原田さんが笑う。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」


 傘が落下を始めた途端、ものすごい叫び声が発せられた。


「声、ちょとでかすぎじゃないか?」

「いつもあんな感じですよ、あいつは」

「そうなのか」


 三人でそのまま降りてくるのを見守る。下に到達した時には、コーヒー牛乳さんは半泣きになっていた。


「もう、絶対にやらないからなぁぁぁぁぁ」

「楽しかったじゃないか。俺、もう一度やってみたいな」

「俺も! もう一度、列に並ぼうぜ!!」

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ~~!!」


 加納さんは二人に引きずられるように連れていかれる。どうやら泣くのに忙しくて、こちらには気がついていなかったようだ。


「すっかりアトラクション状態ですね、降下塔」

「こっちはタンデムの訓練にもなるからちょうど良い。どうだ、部下がやったんだ、お前もやってみろよ」

「イヤです」


 山南さんの返事は取り付く島もない。


「まったく、お前ってヤツは」

「どうとでも」

「カノジョさんはどうしますか? 近くで見るとかなりの高さでしょう」

「ですよねー。それに下りてくるのもスピードあったし」


 そう言いながら山南さんを見上げた。


「俺は別にかまいませんよ? 御厨さんがやってみたいなら止めません。ただし、タンデムする時の相手は、この人じゃない人でお願いします」

「おいおい、なんでだ」

「あの、そんなに信用ならないんですか? 山南さんの先輩さんなんですよね?」

「何気にカノジョさんも酷いこと言ってるね」


 原田さんが笑う。


「いえ。信用はしてますよ。もし何か起きた時、誰か一人に命を預けろと言われたら、間違いなく原田さんを選びますから。ですが、それとこれとは別問題です。御厨さんのタンデム相手は別の隊員を希望します。あんたはダメです」

「こりゃはっきりと言い切ったもんだな」


 上下関係が厳しいはずなのに先輩を「あんた」と呼んだ山南さん。だけど原田さんはゲラゲラ笑うだけで、特に怒っている様子はない。そう言えば師団長さんと司令さんも、こんな感じのやり取りをいつもしていたっけ。先輩と後輩の関係って、階級とは別次元のものなんだろうか。


「まあそりゃ、今やってる連中がいるんだから、わざわざ俺がしゃしゃり出ることもないんだけどな」


 だけど思っていたより高いし、思っていたより下りてくる、というか落ちてくる速度も速い。しかもコーヒー牛乳さんの悲鳴まで聞いてしまったから、正直なところ、ちょっと気持ちがくじけかけている。ここで「やっぱりやめます」と言ったら笑われるかな?


「ま、今回はやめておきましょうか。イベントは年に何回かあるし、次の機会もあるだろうから」


 私の顔を見ていた原田さんが笑いながら言った。


「それに、いつもなら温泉につかったカピバラみたいなこいつが、ここまで真剣に噛みついてくるのは珍しいのでね。今後のお互いの付き合いを考えて。ちなみにこのお互いっていうのは、俺と山南のことだからな? 誤解はするなよ?」


 何か言いかけた山南さんを見てニヤリと笑う。


「ところで、いつまで俺達につきまとうつもりなんですか? ヒマなんですか? もっと他にやることあるでしょ」

「今日はお前達のエスコートが主任務だ。メインイベントまではまだ時間があるしな。ところであれは大丈夫なのか、カノジョさんに見せて」

仰木(おうぎ)さんから是非、見せてやってほしいと言われましたから」

「なるほどな」


 山南さんと原田さんの顔つきは何とも言えないものだった。そんな顔をするようなイベントなの?!と、不穏すぎる二人の表情に、そのイベントを見るのが心配になったのは秘密だ。

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