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恋もバイトも24時間営業?  作者: 鏡野ゆう
本編 2

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第二十話 コーヒーブレイク

「あー、やっぱり缶コーヒーより、こっちのほうが断然うまいねえ」

「今まで、よく缶コーヒーで満足してたよな、俺達」

「こっちの味を知ったら、もう缶コーヒーには戻れないな」


 隊員さん達が晩ご飯を食べに食堂に行くはずの時間、山南(やまなみ)さん達はお店の前の長椅子に座り、コーヒーを飲みながらまったりとしている。


「良かったです、満足してもらえて」

「ありがとねー、御厨(みくりや)さん。俺達のワガママをきいてもらって」

「いえいえ。一円でも今日の売り上げになってくれれば。ねえ、慶子(けいこ)さん」


 慶子さんが、バックヤードからひょっこりと顔を出した。


「いつもご利用ありがとうございます。ここではどうかしらと思っていたんだけど、おもいのほか利用者が多くて嬉しい誤算ね」

「コンビニ様様ですよ」

「山南はここのおかげで、カノジョまでできたしな」

「いちいち一言多いんだよ、お前は」


 山南さんが斎藤(さいとう)さんをこづく。


「意外な伏兵の出現に、少なからずショックを受けている女性隊員も、いたかもしれないな」

「私、伏兵だったんですか? もしかして山南さん、狙われていたとか?」


 思わず質問をしてしまった。山南さんが少しだけギョッとした顔をしたけど、斎藤さんと尾形(おがた)さんはまったく気にしていない様子。


「どうだろうねえ。ここにも少ないなりにお年頃の女性はそれなりにいるから、狙っていた子はいたかもしれないね」

「こいつ、カピバラモードの時は、それなりに紳士に見えるからね。当社比ってヤツだけど」


 斎藤さんと尾形さんの言葉に、山南さんはブンブンと首を横にふる。


「俺はそういう存在からのアプローチは、一度も受けたことないですから!」

「でも、一撃必殺(いちげきひっさつ)とか見敵必殺(けんてきひっさつ)とか、そういう武勇伝はあるんですよね、山南さん」


 最初の頃、若い隊員さん達が言っていたことを指摘した。


「それは根拠のない噂話です!」


 山南さんの後ろで、斎藤さんと尾形さんがニヤニヤしている。あのニヤニヤはどういう意味なんだろう?


「安心していいよ、御厨さん。少なくとも入隊してからの山南は、ほぼカピバラモードだったから」

「そうそう。こいつの意味不明の武勇伝も、その当社比のカピバラモードのせいで、勝手に周りが盛り上がった話だから」

「あー……なんとなく理解できました」


 つまり、山南さんが気づかないうちに玉砕してしまった女性達が、それなりの人数いたということなんだろう。


「山南さんがカピバラさんのままで良かったです」

「まあなんていうか、御厨さんと山南の組み合わせもカピバラっぽいからね。お似合いで良かった」

「それ、ほめてます?」


 なんとなく引っかかりを感じて斎藤さんの顔を見る。


「ん? うん、ほめてるつもり。なあ、尾形」

「もちろんほめてる。本当にお似合いだと思うよ。ただまあ、お互いにカピバラすぎて、すでに熟年夫婦の雰囲気になっている気はするけど」

「あの、それ、本当にほめてます?」

「うん、そのつもり」


 二人は邪気のない顔をしてみせた。


「ま、不釣り合いって言われるより良いですけどね……あ、そうだ」


 慶子さんと仰木(おうぎ)さんに言われたことを思い出す。


「実は仰木さんご夫妻から、山南さんに習志野(ならしの)駐屯地の夏祭りにつれて行ってもらったらどうかって、言われたんですけど」


 習志野駐屯地の夏祭りという言葉が出たとたん、三人がなんとも言えない変な顔をした。そして三人がそろって、お店の奥に立っていた慶子さんに目を向ける。三人の視線に気がついた慶子さんは、ニッコリとほほ笑んで首をかしげてみせた。


「なに? だって、近場であるイベントって言えば、もうあそこの夏祭りぐらいでしょ? 御厨さん、陸自のイベントに行ったことないみたいだから、ぜひにと思ったんだけど」

「その日はバイトも休みにしてもらえるそうなんです。山南さん、どうでしょう。あ、尾形さんと斎藤さんもどうですか? りかさんとえみさんも誘って」


 山南さん達三人は同じ部隊だから、同時に休むことは難しいかもしれないと思いつつ提案する。


「終業後に集まることは可能でも、昼間に三人そろって休みをとるのは、ちょっと難しいかもしれないね」

「だよなあ。でも、あれを見た御厨さんの反応は見てみたいよなあ」

「だよな」


 尾形さんと斎藤さんの口ぶりは残念そうだけど、なぜか顔がニヤニヤ状態だ。しかも「あれを見た」私の反応?


「あの、「あれ」とは? 山南さん?」


 山南さんの顔を見る。


「あー……」

「あやさん、それは見てからのお楽しみってやつよ。ねえ、山南君? そのほうが絶対に楽しい思うのよ?」


 慶子さんがニコニコしながら言った。


「まあ、そういうことですね」

「え、ちょっと! すごく気になるんですが!」

「じゃあ、頑張って休みをもらえるように頼んでおきますから、今年の夏祭りに行きましょう。できたらネットとで調べないでもらえると助かります。やっぱりあれは、知らないで見たほうが楽しいと思うので」


 山南さんがクギをさしてくる。帰ったら調べようと思ったのに!


「今からゴマをすりまくって頼みこめば、三人そろって休暇とれるか?」

「袖の下をたんまり用意すれば。あ、御厨さん、袖の下といっても金銭じゃないからね? その点は誤解しないように」


 尾形さんと斎藤さんは山南さんの横で、コソコソと相談を始めた。二人がコソコソしていると、遠くからいつもの泣き声が聞こえてきた。


「なんで代休がないのぉぉぉぉ? 運動会の後って代休があるのがデフォじゃないかぁぁぁ、なんで俺達にはそれがないのぉぉぉ? つらすぎるぅぅぅ!!」


 やっぱりお休みがないことでメソメソしている。甥っ子さんにはたのもしいオニイチャンかもしれないけれど、やっぱりコーヒー牛乳さんはこうでないと!


「おーおー、加納(かのう)陸士、今日も元気だな。今日は医官の芹沢(せりざわ)二佐はいないのか?」


 斎藤さんが笑った。ちょっと前までは、この三人に声をかけられたら直立不動になったものだけど、最近はそのままメソメソしていてることが多い。慣れるのも善し悪しだなとは、尾形さんの言葉だ。


「医務室にはいーきーまーせーんー! 新見(にいみ)さんが戻ってくるまでは、バイトさんに話を聞いてもらえますぅぅぅ」

「おいおい。御厨さんは山南のカノジョなんだぞ? 少しは遠慮しろよ」

「いーやーでーすぅぅぅ!! バイトさぁぁぁぁん!!」


 コーヒー牛乳さんが泣き声をあげた。それを見ていた三人はやれやれとため息をつく。が、いきなりその三人が立ち上がり、姿勢を正して敬礼をした。


「いやいや、そのままそのまま」

「もう勤務時間は終わっているんだ、楽にしていろ」


 やってきたのは、基地司令の永倉(ながくら)さんと師団長の大野(おおの)さんだった。さすがにコーヒー牛乳さんも「ひっ」と息をのんで静かになる。その様子をチラ見した司令さんと師団長さんは、少しだけ笑った。


「なんだ、加納陸士。今日はなんでメソメソしてるんだ? 代休がないのがつらいと言っていたように聞こえたが?」

「え、あの、その……」


 師団長さんの質問に、コーヒー牛乳さんはしどろもどろの状態になる。


「まあ確かに、通常の隊員とは違って訓練課程途中のお前達にとっては、式典の後も訓練が続くからつらいだろうな。それは理解できる。だが、それはここのバイトさんも同じだぞ?」


 師団長さんはそう言って私を見た。


「御厨さん、明日も朝からシフトに入っているね?」

「あ、はい」


 学生さんは学校が終わってからのバイトなので、私は朝からだ。


「普段よりたくさん来ていたお客さんの相手をして、お前達が飯を食って風呂に入っている間も店に立っている。そして明日も朝からここで仕事だ」

「……おつかれさまです」


 コーヒー牛乳が私の顔を見て、メソメソ顔のままポソッと言った。


「それぞれがそれぞれの場所で、自分の職務をきちんと果たしているんだ。お前もここに来たからには、最低でも修了式まではやりとげろ」

「ま、泣き言を言うのは別にかまわんよ。男は黙ってガマンするなんて古いからね。そのために、医務室でのカウンセリングもあるわけだし」


 司令さんがうなづく。


「それで? お前の元気の(もと)はなんなんだ? 加納陸士? なにをすれば元気になれるんだ?」

「……コーヒー牛乳を飲む、です」

「なら今日はそれは俺がおごってやる。それを飲んで明日からも訓練にはげめ」


 師団長さんはそう言うと、コーヒー牛乳さんの肩をつかんでお店の中に入っていった。コーヒー牛乳さんはいきなりのことに、目を白黒させてアワアワしている。


「おお、加納陸士はとうとう、師団長にまでコーヒー牛乳をおごらせることに成功したぞ」

「なかなかすごいな。簡単にできることじゃないぞ」


 そんな二人を司令さんと山南さん達は、なんとも言えない顔で見守っていた。


「どれだ?」

「……これです」

「小さいヤツか? 大きいほうじゃないのか?」

「えっと……大きいほうです」

「俺がおごると言ったんだ、遠慮するやつがどこにいる」


 師団長さんは焼きプリンとコーヒー牛乳を手に、レジにやってきた。


「永倉、お前は自分で買え。お前のおごりは今日はなし」

「はいはい、わかってますよ。それは自分で買いますからご心配なく」


 私はまったく見ることができなかったけど、今年の創立記念式典と一般開放は無事に終わった模様。

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