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恋もバイトも24時間営業?  作者: 鏡野ゆう
本編 2

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第六話 自衛官だって休日はある

 待ち合わせの場所にしていた最寄り駅の改札に行くと、すでに山南(やまなみ)さんが待っていた。


「おはようございます! お待たせしてすみません!」


 慌てて走っていくと、山南さんは穏やかに笑いながら首を横にふる。


「おはようございます。まだ待ち合わせの時間じゃないですから、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」

「でも山南さん、とっくに待ってたじゃないですか」

「これは習慣みたいなものなので、お気になさらず」


 そう言われてピンときた。


「まさかの五分前ですか?」

「そんなところです。ああ、だからって五分前に来なくても良いですからね。お互いにどんどん早く来るようになって、気がついたら三十分ぐらい前に集合とか、本当に笑えないので」

「それ、お店のレジを新しくする時に、レジ設定でシステム会社さんから言われたことですよ」

「ですよねえ。あの、なにか?」


 私の視線に気がついたのか、首をかしげる。


「ひさしぶりに、自衛官じゃない山南さんを見た気がします」

「あー、そうかもしれないですね。御厨(みくりや)さんと外で顔を合わせるのって、三月に行った師団長主催のツーリング以来かな?」

「ですよね。それにここ最近、お休み前の飲み会にも、参加してないですよね?」


 休み前にコンビニにやってくるのは、山南さん以外の人達ばかりだ。そう言えば、斎藤(さいとう)さんも尾形(おがた)さんも、ここ最近は休み前には来ていないような。その指摘に、山南さんが困ったような顔をして笑った。


「実は上から、昇任試験を受けろと言われまして。俺も斎藤も尾形も今、勉強中なんですよ」

「そうなんですか? あ、だったら! 映画に誘っちゃって良かったんでしょうか?!」


 もしかしたらこの休みも、貴重な勉強の時間だったのではないだろうかと心配になる。


「ああ、それは大丈夫です。たまにはこうやって息抜きをしないとね」

「自衛隊さんでも、昇進試験があるんですね」

「そのへんは民間の企業と変わらないですよ。昔の軍隊みたいに軍功(ぐんこう)を立てて昇進なんてこと、自衛隊ではあまりないですから」

「なるほどー」


 それと山南さんいわく、普段の自衛隊はお役所的なことも多いらしい。すごく意外なことだった。


「ああ、それで思い出しました。ここしばらくは急がしくて行けてないんですが、教育隊の修了式が終われば一息つけるので、師団長がツーリングに行こうって言ってましたよ。御厨さんも行きますか?」

「そうなんですか? 行きたいです!」

「それと師団長、御厨さんがそろそろ、大型免許を取りたくなっているんじゃないかなって言ってましたよ。俺の後ろで、おとなしく座っているタイプじゃないだろうって」

「あー……その気持ちはあるんですが、ほら、免許をとったら大型バイクがほしくなるでしょ? で、そんなの買ったら、維持費が大変じゃないですか。私、まだバイトの身ですし」


 もちろんバイトは好きでやっているので、現状に不満はないけれど、大型バイクの維持となると話は別だ。


「免許もとれて、安定的な収入も得ることができるとなれば、やはりここは自衛隊に入隊ですね。半年ほど訓練を頑張れば、あなたも立派な特別国家公務員です。定年までというなら、一般曹候補生で入隊するのがおすすめですよ」

「まだあきらめてないんですか」

「司令と師団長からは、ことあるごとに話題にはさめと言われているので」


 思わず吹き出した。まあ山南さん的には冗談で言っているんだろうけど、司令さんと師団長さんはまだ諦めていないらしい。募集年齢の間は油断大敵だ。


「さて、では行きましょうか!」

「了解しました」


 その返事のしかたはまるで自衛官そのものだった。


「今の、自衛官っぽかったですよ?」

「休みだからって、身についた言葉遣いはそう簡単には消えないですからね」

「ですよねえ。敬語もなかなか消えませんし」

「それはもうあきらめてください」

「ま、それも山南さんらしさってやつですかねー」

「そういうことです」


 笑いながら私達は改札を通り抜けた。こうやって一緒に歩いてみると、姿勢の良さがよく分かる。私服を着ているからパッと見わからないけれど、立ち姿は間違いなく自衛官さんだ。


「なんですか?」

「簡単に消えないのは、言葉遣いだけじゃないんだなって」

「それは御厨さんが、仕事中の俺のことを知っているからじゃ?」

「そうかなあ……」


 電車が来たので乗り込んだ。開いている場所を見つけると、山南さんは私を素早くそこに座らせ、自分は前に立つ。なんていうか無駄な動きがないなと、勝手に感心した。


「まあ……」

「?」


 山南さんが口を開く。


「なんというか、紳士らしくふるまって陸自隊員の好感度を上げろというのも、司令と師団長からの命令でして」

「もー、二人ともあきらめが悪すぎですよ」

「ですよねー。それにここで俺がそれらしくふるまっても、御厨さんにはオフになった時の浮かれ具合とか見られてますから、いまさらですよねえ」


 そう言って笑った。



+++



「あ、山南?」


 いくつか駅を通りすぎたところで、さっき止まった駅から乗ってきた男性が声をかけてきた。山南さんは声がしたほうに視線を向けると、姿勢を正して最敬礼をする。もしかしてお知り合いだろうか。


「お久しぶりです、小此木(おこのぎ)三佐」


 やはり自衛隊の人らしい。その人が座っている私に目を向ける。


「もしかして、カノジョさんと一緒だったか。申し訳ない。デートの邪魔したかな」

「あ、いえ、そういうわけではなく……」

「ん?」


 山南さんは助けを求めるような顔を私に向けた。そんな顔されても困るんだけどな。


「はじめまして。カノジョさんというより、同僚的な何かかもしれません」

「???」

「うちの厚生施設で働いているバイトさんなんです。こちらが映画のチケットを当てまして、それに自分が乗っからせてもらったといいますか」

「なるほど。山南がチャンスをものにできない、トウヘンボクということは十分に理解した」


 山南さんがますます困った顔をする。


「誘ったのは私なので」

「ではここは押しの一手でお願いします。彼、こう見えても奥手らしいんですよ」

「奥手……そうなんですか?」

「聞かないでください。三佐も余計なことは言わないでください」


 ニヤニヤしている相手を軽くにらんだ。そして何かを思い出して、心なしかニヤッという顔をする。


「あ、そう言えば三佐。お見合いをなさったとか?」


 とたんに相手の三佐さんがしぶい顔つきになった。


「おい。それ、どこで情報を仕入れたんだ」

「もちろん師団長からです」

「もちろんとか。まったく、あのへんの情報保全はどうなってるんだ」


 あきれ顔をしている。


「幹部のお見合い情報は、共有されるべき重要な情報かと」

「うるさい黙れ」

「自分のことをトウヘンボク呼ばわりしておいて、まさか断るとか言いませんよね?」

「だから、うるさい黙れ」


 着信があったのか、その人は上着のポケットからスマホを取り出して画面を見ている。そして軽くため息をついた。


「やれやれまったく」

「休暇の取り消しですか?」

「そんなところだな。心配するな、そっちには関係のない件だから。せっかくの休みだ、ゆっくりデートを楽しんでくれ。あ、そちらのお名前を聞いても?」

「だからデートじゃ、、、」


 山南さんを無視して私に視線を向ける。


「御厨といいます」

「御厨さんね。そちらの駐屯地にうかがうことがあったら、また声をかけます」

「わかりました。お待ちしてますね」

「待ってなくてもいいですよ、どうせ社交辞令(しゃこうじれい)なんだから」


 そっこうで山南さんのツッコミが入った。


「コンビニの営業をしてるんだから、邪魔しないでくださいよ、山南さん。一円でも売り上げがあがったほうが良いんだから。たとえそれが社交辞令(しゃこうじれい)でも、お待ちしていますって言うのが営業です」

「ほら、カノジョさんに怒られたぞ?」

「だから、余計なことは言わないでください」

「ま、がんばれ」


 電車が駅にとまると、その人は笑いながら「じゃあな」と言っておりていった。


「やれやれまったく」

「ちなみに今の人とは、どういうお知り合いなんですか?」

「うちの駐屯地にいたことがある幹部です。御厨さんがバイトを始める前の年度で転勤になったんですよ」

「なるほどー」


 他にもいろいろと聞きたいことがあったけど、なんとなく聞かないほうが良い気がしてやめておくことにする。


「しかし、こんな広い都内で偶然に顔を合わせるなんて、ついてないな」


 山南さんはため息をついた。


「二度あることは三度あるっていいますよ。あ、そう言えば、昨日、女子隊員さん達が映画に行くって言ってました」


 とたんに山南さんの顔つきが変わる。


「御厨さん、映画に行くの、次の休みにしませんか?」

「えー? イヤですよ、せっかく見る気になってるのに。行きたくないなら、山南さんだけあきらめてください。私は一人でも行きますから」

「えー……」


 そんなことを言いつつも、山南さんも映画はあきらめきれないらしい。


「見たいんでしょ?」

「見たいですよ。上映を楽しみにしてたし。ああ、別に映画代をケチってるわけじゃなくてですね」

「そんなことわかってますよ。でも楽しみにしていた映画なんだし。万が一、映画館で女子隊員さん達と遭遇したら、その時はその時ってことで」


 そう言った私も、まさか本当に彼女達と遭遇するとは思ってもみなかったんだけど。都内って広いようでせまい。

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