狼牙騎士
「何のことですか!? 突然切り掛かられれば、そりゃあ避けますよ! 俺だって中級の冒険者だ!」
「そう、私もまだ初級ですが、プロの冒険者です! アンディと共に冒険しています、もうすぐ中級になれます!」
二人とも、『潜伏騎士』であることがバレていると分かった上での演技だ。
そもそも、相手が『潜伏騎士』という言葉を使ってくること自体、なにかやましい事情があると明かしているようなものだ。
問題は、その言葉をうっかり口に出したのか、あるいは口に出しても問題ない認識で、あえてそうしたのかということだ。
前者ならばただの愚者だが、後者ならば少々厄介だ。
警備兵の一人が腰に付けていた笛を吹く。応援を呼ぶためのものに間違いない。
窓の明かりの件もあり、やはり『潜伏騎士』に潜り込まれることを想定し、備えていた……つまり、あえてその言葉を選択したものであり、生かしては返さぬという態度と自信の表れだ。
アクトとミリアもそのことを即座に把握。最短距離で敷地を取り囲む外壁に向かう。
しかしすでに複数名の衛兵に回り込まれている。
二人はそのまま突っ込み、衛兵らに衝突する寸前で左右に分かれ、それぞれ外壁を目指す。
が、衛兵らはその動きを予測したように、何かを投げつけた。
二人の進行方向に素早く、複数投げられた握りこぶしより小さめのそれらは、地面についた途端に破裂、一瞬で紫色の煙が広がる。
さらに衛兵らが持つ魔道具から、その煙の範囲を覆うように投擲ネットが放たれた。
あらかじめ訓練された通りの動作だったが、二人は刺激性の煙幕をものともせず、さらに投擲ネットの範囲を迂回して脱出する。
いつの間にか、両者ともゴーグルとマスクを装着している。
あっさりと突破されたことに司祭は舌打ちしたが、ほんのわずか、逃亡を遅らせることには成功した。
司祭が持っていた錫杖を振るう。
魔道具であるそれから、電撃の魔法が放たれる。狙いはアリスと名乗った女性、つまりミリアだ。
非常に速く、命を奪いかねない威力のそれだったが、彼女は避けようともしない。
まともに直撃し、派手に火花が飛び散ったが、ほんの一瞬動きを止めただけで逃亡行動に変化はない。
彼女の高度な魔力結界によって無効化されたことを悟った司祭は、さらに威力を高めて再度放とうとするが、そこに光の刃が飛来して動きを止めた。
アンディと名乗った男、つまりアクトが放った、魔力を込めた剣撃だ。
思わずのけぞって避けたが、それが威力も速度も調整されたものであることを瞬時に悟る。
(手加減されていた――まさか、こちらの攻撃もわざと受けたのか――)
衛兵たちは二人を追いかけようとしたが、
「無駄だ、深追いするな!」
と司祭が止めた。
彼らはその言葉に困惑したが、二人が6メートル以上もある壁面を軽々と飛び越えて敷地外に脱出する姿に唖然とした。
なぜ止めたのか……という表情を浮かべる護衛や衛兵らに、
「あれらは、我々の手に負える相手ではない。捕獲目的とは言え、こちらの攻撃は一切通用せず、逆に逃亡中に反撃されるありさまだ。しかも、それすら手加減されていた。私が当てた電撃も、その性質や魔道具の種別を把握するために躱さずに受けたのだろう……大したダメージを受けないと見切った上で。それでいてあの身体能力だ。相当高性能な魔道スーツを着こんでいる。あれは、『潜伏騎士』の中でも相当上位の存在……ひょっとしたら、『狼牙騎士』かもしれぬ」
「『狼牙騎士』……まさか!? 存在すら疑われる、超エリートの呼称ではないですか! あんな若く、みすぼらしい二人が……」
「その姿すらも仮のものかもしれぬ。あるいは、年齢すらも」
「まさか……そんなことが……だとしたら、いったい何が目的で……」
護衛達は、ずっと困惑したままだ。
ただ司祭だけが、その心当たりに「どこまで感づいているのか」と焦りを募らせた。
それすらも、狼牙騎士の狙いの一つであると気づかずに。




