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戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。  作者: 隣のカキ
第三章 ルートⅡ

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第3話 慰霊碑と英勇像

 あの戦いでエイミーを失った俺とアオイは互いの傷を慰め合い、二人でエイミーの話をしながら日々を過ごした。


 アオイはエイミーが男として振る舞う以前の話を特に聞きたがり、俺も彼女の事を知って欲しかったのでほんの些細な事まで教える。


 アオイは「エイミーとまた会えたようで嬉しい……」と、話をする度涙を浮かべて喜び、俺もまた、エイミーがまだ生きているかのような錯覚を起こす。


 幼馴染として過ごし積み上げてきた時間をアオイと共有する事で、エイミーはアオイの心にも生き続ける事が出来るようになった。


 こうした状況にいる中で、俺とアオイが惹かれ合うのも自然な流れ。


 男と女である以上、それは必然だったのか偶然だったのか…………


 彼女の最後の願いを叶えようという思いもあり、俺達は結婚した。



「エイミー。生きていてくれれば、三人で暮らす未来だってあったのかもしれないな……。」



 ストレッチ王国は解体吸収され、新生イットリウム王国として生まれ変わった。


 俺とアオイが結婚した後に王より大公の地位を賜り、旧イットリウム王国の国土をそのまま俺達が治める形で話は着いた。



「そうだね。エイミーが生きていれば、毎日賑やかだったろうね。」



 俺達は互いを愛する気持ちを持ちつつも、心に空いた穴を埋められずにいた。



「とうとう慰霊碑と、私達の像が建つんだ…………。」



 戦後処理と同時に俺達が与えられた仕事。


 それは旧イットリウム王国王都中心の広場に、戦争と怪物との戦いで散っていった人々の慰霊碑と英勇トリオの等身大石像を建てる事。


 慰霊碑はともかく石像は勘弁して欲しかったのだが、民衆からの嘆願を無下にも出来ず、結局押し切られる形で建設する運びとなった。


 自分達の像が建つというのはあまり気乗りしないが、民衆からの願いでは仕方ない。


 俺とアオイは何度となく職人と打ち合わせを行う事になった。



「おい。エイミーの目尻を後0.5㎜下げろ。彼女は少し垂れ目だった。」


「ちょっと。エイミーの鼻はもう0.1㎜低いよ。」


「待て待て。何でそうなる? 彼女の胸をもう少し減らせ。大きすぎる。」


「なーんか違うなぁ……分かった。肩を若干なで肩にして、足のサイズを21.2㎝にして。」


「待って下せぇ!! いくらなんでも注文が細かすぎまさぁ!」



 何を言ってるんだ?


 そうしないと100%寸分の違いもなくエイミーにならないだろうが。



「国一番の職人さんなんでしょ? ちゃんと本人と瓜二つにならないと困るじゃん。」



 アオイの言う通りだ。



「いやいや! いくらなんでも無茶苦茶だ!」



 そうだろうか?



「後な、エイミーはスカートが良く似合うんだ。髪に花飾りも付けてやってくれ。」


「確かに似合いそうだね。」


「……戦時の姿で像を作るって聞いてましたぜ?」


「女の子なんだから着飾っていても問題ない。」


「うん。問題ないね。髪とスカートが風に靡くような形にするとより自然だよ。」


「髪飾りが飛ばないように手で抑えるような仕草も必要だぞ。」


「……明日また来ますぜ。」



 大分集中して作業していたから疲れたのだろう。


 職人は粘土で作った仮の像を置いたまま部屋を出て行った。


 粘土である程度の形を決めて、それを見ながら石で作ればそう違いは出ないだろうと、アオイから職人に提案した方法なのだがどうにも作業が進まない。



「結構似てきたよね。」


「あぁ。だが100%ではない。」


「だね。まだ40%ぐらいか。」










 そうして連日のように注文をつけ、三ヶ月という期間で仮の像が完成した。


 アオイが悪戦苦闘し色まで塗ってくれた結果、まるでそこに本物のエイミーがいるかのようだ。


 今にも動き出しそうな像を目の前に、俺とアオイはその部屋で過ごす事が多くなった。



「慰霊碑は既に完成した。後はエイミーの石像だけだな。」


「うん。完成したら、合同葬儀だね。」



 葬儀。


 慰霊碑と像が完成したら、亡くなった人達の合同葬儀を予定している。


 そこでエイミーの葬儀も執り行われるのだが…………君とはやはり、以前のようには会えないのだろうか?


 俺とアオイの子供に生まれ変わってくるような話をしていたが、以前の君に会いたいという気持ちはなくならない。


 以前のように会えないならせめて…………



「俺達の屋敷に五体くらいは欲しいな。」


「五体で良いの? 三十体は欲しくない?」


「本当は百体でも良いんだが、職人だって忙しいだろう。」


「そうだよね……。」



 あのくらいの腕の職人がもっといればと思わずにはいられない。



「石像が完成したら注文しよう?」


「あぁ。五体ならば受けてもらえる気が…………。」

「恥ずかしいからそれはやめて。」



 …………は?



「恥ずかしいからやめてってば。」




 この部屋には今、俺とアオイしかいないはず。


 俺とした事が不届き者の侵入を許してしまうなど……。


 しかしやけに聞き覚えのある声だ。


 不届き者の姿を確認する為、俺とアオイは頷き合い、そして同時に振り返った先には…………



「エイミー像が……。」


「動いてる……?」



 信じられん。


 エイミー像が勝手に動くだと?


 だが、間違いなくエイミーの姿で、しかも声まで発している。



「久しぶりだね。二人とも。」



 夢か? 俺は夢を見ているのか?


 いや待てよ?


 そういう事かっっ!!



「アオイ……分かったぞ。エイミーが前に言っていたのはこういう事だったんだ!」


「どういう事?」



 アオイは分かっていないようだな。


 だがそれも仕方ないか。



「何度も思い出していればまた会えるとエイミーは言っていたじゃないか! きっとエイミー像に魂が乗り移って俺達に会いに来てくれたんだ!」


「な、成る程! それなら納得かも!」


「そんなワケないでしょ。」



 俺の言葉はピシャリと否定されてしまった。他ならぬエイミー像に。



「常識で考えて。どうすれば像が動き出すのよ。」



 何故否定する。


 俺達に会いに来てくれたんじゃないのか?



「はぁ……きっと後ろを見たら分かるわ。」



 言われた通り、俺とアオイは後ろを振り返る。



「こっちにもエイミー像だと!?」


「という事は二体目!? 二体目はおしゃべり機能付き!?」


「何言ってるの? 私は本物のエイミー。そっちはただの像でしょ。」



 ほん……もの? 本物?



「つまりどういう事だ?」


「私はエイミー本人。実は生きていたってだけの話なんだけど……まだ混乱してる?」



 生きていた?


 エイミーが生きていた?



「エイミーー!!」



 アオイはエイミーの胸に飛び込んでいき、わんわんと泣き始めた。



「あらら。碧ちゃんったらいつの間にこんな泣き虫になったの?」


「エイミーのぜいだもん……。」



 二人のやり取りを見て俺もようやく理解し、泣いているアオイごとエイミーを抱きしめる。



「お帰り、エイミー。本当に良く戻って来てくれたな。」


「ただいま。レイベルトまで泣き虫になったの?」


「……子供の頃の君の真似だ。」


「私の真似?」


「あぁ。真似だ。」


「私の真似なら……仕方ないわね。」


「あぁ……仕方ない。」



 エイミー。


 生きて戻ってくれて本当に嬉しいよ。


 生きていたならもっと早く戻ってくれれば……という言葉は後にしよう。


 今は君が戻って来た事を素直に喜ぼうじゃないか。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど…こうするしかなかったわけですねぇ
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