決戦日③
作成中のノベルゲームのシナリオを公開しています。
初めて乗るエレベーターは意外と緊張する。
見慣れないボタンやポスター。それに今は女の子と二人っきり。
彼女は緊張している僕なんかお構いなしに無言で最上階のボタンを押した。
さっきの話では両親は離婚していていない、ということは独り暮らしなのか?
娘の独り暮らしにマンションの最上階を用意してくれるあたり元親はお金持ちなのだろうか?
野暮な詮索をしているとエレベーターは最上階へと僕たちを運んでくれた。
未可「いい?絶対に誰にも言っちゃだめだから。」
彼女はおそらく自分の家であろう扉の前で僕に忠告する。
男を家にあげたことだろうか?
女の子の家は、心優ですでに経験済みだ。そんなに興奮するようなイベントでもない。
弘人「大丈夫だよ。誰にも言わないから。」
未可「はぁ……。まぁいいや。じゃあ入って。」
なぜかこいつ何もわかってねぇな、みたいなため息をつき、彼女は僕を家に招き入れてくれた。
扉の向こうから嗅いだことのないフローラルな匂いが鼻をくすぶった。
あれ?なんかすごい緊張してきた。
そういえば女の子が独り暮らしをしている家にはお呼ばれされたことがない!
きっとかわいい小物とかぬいぐるみがたくさんあるに違いない。
心臓の高鳴る音が聞こえる。
靴を脱ぎ、リビングに通じる廊下を一歩一歩進み、リビングへと入るとそこには。
弘人「な、なにこれ……。」
そこは飾り気のない一般的なリビングには似つかない本格的なパソコン設備と、緑の幕が壁の一面を染めていた。
グリーンバックって言うんだっけ?クロマキー合成などをする時には使うあれだ。
弘人「こ、これは一体……?」
未可「あんたやっぱり気づいてなかったのね。普通気づくでしょ。1番いい場所って言ったらひとつしかないじゃん。」
そう言いながら素早くパソコンを起動し、なにかの準備をしていた。
服の上からワンピースを被り、先程まで着ていたジャージを脱ぎ捨てた。
時間は、18時59分。
まさか……。そんなことって……。
未可「いい!?絶対声出しちゃだめだからね!あと、この線から絶対に入らないこと!」
弘人「コクン。」
危機迫った剣幕で睨まれたものだから自分の口に手をやって、頷くことしかできなかった。
嘘だ…、そんなことがあるのか……。
未可「それじゃあ、始めるから。」
エンターキーを叩く音が聞こえた。
その瞬間、聞いたことのあるメロディーが流れる。
いや、聞いたことがあるなんてもんじゃない。僕の体温が急上昇するのを感じた。
これは、配信のオープニング曲だ。誰のかだなんて言わせないでほしい。
彼女が部屋の隅でうずくまっている僕を見て、くしゃっと笑う。
その笑顔は間違いなく 彼女 のものだった。
未可「みんなーーー!!こんばんはーーー!!」
僕は彼女が目の前で行う配信を見ながら最初に彼女と会ったときのことを思い出していた。
確かにあの声。どこかで聞いたことがあるような気はしていた。
言われたことが衝撃的だったのでずっと忘れられないでいたのかと思っていたが、そうじゃなかった。
彼女の声は僕にとって特別だったから。
だから忘れられなかったんだ。
彼女は僕が聞いたことのない新しい曲を歌い始める。
身体を揺らしながら全身で歌を表現する。
かわいい振り付けに目を奪われる。
画面を通さなければ見れなかった、ソライロ ツバサ がたしかにそこにいた。
彼女の歌声は、やさしくて、でも強くて美しくて。
彼女の歌には、「出会ってくれてありがとう。」という気持ちがこれでもかと散りばめられていた。
なぜだかわからないが、胸のあたりがじーんと熱くなり僕は知らない間に目から涙がこぼれていた。




