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ヒロシマ〆アウト〆サバイバル 〜凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツないレベルシステムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです〜  作者: しば犬部隊
凡人の生存者は敗北した主人公から洋ゲー的エゲツない成長システムを受け継ぎ、ポストアポカリプスなヒロシマでクリーチャーを狩って生き残るようです
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青い血肉の味、甘味を探せ

 


 'ポジティブ 可食部の切り離しも完了しました、摂取量としては400g程が適量です。さあ、ヨキヒト。摂取を'



 むんずと掴んだ腿肉を海原は眺める。青とピンクの色がてらりと艶めく。


 皮を剥いでいない脹脛の部分を掴み、過食部位である腿を見つめる。


 大きさの割には軽い。海原は狼の足の肉をまるでクリスマスターキーのように解体して食べるつもりだ。


 くんと、嗅いでみる。甘い花のような香りが花を擽る。肉から漂う匂いではない、嗅げば嗅ぐほど食欲は薄れて行く。



「……肉か」



 'ポジティブ 怪物種の肉には高品質のタンパク質、血にはビタミンと僅かな糖分が含まれています。3時間以内であれば生食も充分可能です'



 マルスから返ってくる返答は変わる事はない。海原は本格的に空腹が己の生命に手をかけ始めた事を自覚していた。



 頭がふわふわしていき、それと反対に足には重りがついたような重量感。



 もう、食べるしかない。


 海原は皮を剥いだ肉を眺める、白い脂肪がところどころ残っているが、肉はほとんど露わになっている。


 肉の色は鮮やかなピンク色、青い血あいがところどころ残る。泉に浸けながら解体したので血は洗い流されている。


「……頂きます」


 海原はぺろりと青い血肉を舐める。甘い、果実のような匂いが口の中に入る。


 あれ、割と食える? 肉と思わずに果物系だと思っていけば……



 ぶちり。


 気付けば大口を開けて、海原は肉へかぶりついていた。


 前歯、犬歯が肉の筋を噛み潰す。下顎、上顎が肉を捉えて噛みちぎる。


 もにゅる、もにゅる、もにゅる。


 青い血肉を海原が咀嚼する。甘い匂いの中に僅かな塩気を感じる。


 あ、割とマジで食える。



 ごくん。いつのまにか海原は肉を飲み込んでいた。


 身体がこれを必要なものと認識したらしい。


 みちり。一口が終わると、二口、三口と続いていく。旬の魚の刺身のように弾力のある肉をちぎりその、塩気と甘みをいつしか愉しんでいた。


 いずみのほとりに座り込み、ガツガツと肉を平らげていく。口の周りに青い血がマブれる。


 伏せるようにしゃがみこみ泉の水で肉を流し込んだ。


 口がさっぱりするとまた一口、みちりと肉を噛みちぎる。ぶりんとピンクの肉が震えながら千切れた。



 食える、むしろ美味い。どこかで食べた事のある味にすら似ている。



 なんだっけ、これは。



 海原はぶちり、ぶちりと肉を咀嚼し続ける。



 'ポジティブ 体内の血糖値、緩やかに上昇。筋肉のグリコース分解速度、下降。栄養素は順調に体内へ吸収されていっています'



 マルスの頭の中で鳴る解説のようなものを聞き流し海原はこの青い血肉の味を噛みしめる。



 あ、思い出した。



 この塩気、それを包む滋味深い甘み。



「生ハムメロンだ」



 そうだ、あれに似ている。生ハムメロンだ。


 海原はそのまま、果物と肉を合わせた料理に似た味の青い血肉を頬張り続けた。



 結局、マルスからの摂取ストップがかかるまでに海原の食餌の手が止まることはなかった。



 ……

 …


「あー、食った、ふっつーに美味かった」



 海原は大樹に背を預けて、腹が満ちた後の感覚を楽しんでいた。ぼーと、ぼんやりとした眠気が瞼の蓋を閉めようとする。


 残っだ死骸や肉はマルスの指示に従い遠くの砂原に埋めてきた、鉄腕は容易に穴を掘る事を可能にしていたのだ。


 飯を食い、軽い運動をした海原に眠気が絡むのは当然だったかもしれない。



 'ポジティブ ヨキヒト。これで一旦の生命維持の危機は去りました。再生により消耗した身体には現在、充分なカロリーが行き渡っています'



 マルスの声に海原はそーかーと間延びした返事をする。喉も渇いていない、腹も飢えていない。おまけに怪我もない。


 嗚呼、健康万歳。海原は己の身体になんの問題もないことに心から安堵した。



 安心したら眠くなって来た、よっしゃ少し寝たろ、と海原がそのまま眠気と手を繋ごうとした時



 'ネガティブ ヨキヒト。まだ入眠には早いです。貴方には今のうちにやるべきことがある'



 頭の中に響く声が眠気との握手を邪魔する。眠気と海原の間をマルスが割り込んで来たみたいだ。声が響いた瞬間、眠気が遠くなったような気がする。



「えー、まだ他に何かあんのか?」



 割と怠惰な海原は、億劫そうに返事をする。眠気を引き剥がされた妙な気分、腹が重たくなったことで動くのか面倒になっていた。



 'ポジティブ ヨキヒト。貴方が栄養補給をしている間に、貴方の生存プランを作成しました。名付けてフロアプラン、貴方にはこのプランを基に行動してほしい'



「フロアプラン? えーと、ありがとう?」


 気が効く……と表現するべきなのだろうか。マルスの言葉に海原は首をひねる。



 'ポジティブ 礼には及びません。貴方の生存を確立させる事が、私のプロトコルなのですから。フロアプランは来たる1週間後のアビス脱出のチャンスまでの生存、及び貴方の進化を主眼においた行動計画です。盛り上がってきましたね、ヨキヒト'



「待て、マルス。今なんて?」


 海原はマルスの言葉の中にとてもきになるものを聞き見つけた。


 今、とても不穏な数字が聞こえたような…



 'ネガティブ 質問がよくわかりません。盛り上がってきましたねと言ったのですが…… やはりこの状況は貴方にとってたのしいものではないのでしょうか?'


 微妙にネジの外れた事をマルスがのたまう。どことなくシュンとしているような雰囲気を海原は感じ取った。


 違う、そこじゃないと脳内でマルスへ語りかける。



「一週間後の脱出?」


 'ポジティブ 脱出ルートの発生までの1週間貴方にはここで生きてもらいます、アビスは人類が長期に渡り生存可能な環境ではありません。最短期間での脱出、これがフロアプランです'



 おう、まじか。1週間……。脱出までにそれだけの時間が……


「その脱出ルートてのは早めに向かうわけにはいかないのか?」


 'ネガティブ 残念ながら現時点では脱出ルートは存在すらしていません。シエラチームの遺した記録から計算すると本日より1週間後にルートは発生します'




「……散り散りになった仲間がいるんだ。早く探して合流もしなくちゃなんねえ」



 'ネガティブ ヨキヒト。貴方の仲間はおそらくここより上、アビス上層にいるはずです。上層から地上へは物理的手段での脱出が可能ですが、中層に堕ちた貴方は違う。仲間との合流もまずは1週間の脱出ルート発生を待つしか方法はありません'


「……記憶を見たのか?」


 海原はやけに話の理解が早いマルスへ問いかける。その声には抑えきれない棘が見え隠れした。



 'ネガティブ ポジティブ 閲覧したのは事実です。しかしその仲間のイメージは貴方から強い逆流として流れ込んで来ました。貴方との結合最中です…… 貴方は夢を見ていましたね'


「ああ、見ていた。お前が起こしてくれたんだろ?」



 'ポジティブ 貴方から仲間への強い感情を感じます。懐かしい…… シエラⅠも貴方と同じ感情を良く抱いていました。ヨキヒト、貴方が仲間との合流を目指すのならば、どちらにせよ貴方自身が生き残って、アビス中層からの脱出を為さねばなりません。協力を'



 まっすぐに海原へ語りかけるマルスの言葉。腑に落ちない点もいくつかある。しかし、マルスが海原を助けようとしている事だけは伝わる。



 今はそれで充分だ。


 海原はパチリと膝を叩き、勢いよく立ち上がる。背伸びをして、それから肩をぐるぐる回した。



「分かったよ、マルス。それで行こう。お前の判断に従うよ。次はどうすればいい?」


 身体に満ちる活力を使用し、さらに生存へ向けて邁進する。


 サバイバルだ。


 俺は生き残るぞ、鮫島。化け物を殺して、その血肉を貪ってでも生き残ってやる。



 だからお前も絶対生き延びろ、生きて必ず、また会おう。


 海原は別れた仲間を思う。頭のどこか何か忘れている事があるような奇妙な違和感を覚えたが、マルスの声が響いた事によりその違和感もすぐに消えて行った。



 'ここから数百メートル先の地点に火石の集積地、及び、摂取可能な果実群が記録されています。ヨキヒト、ルートを指示するのでそこへ向かいましょう'



 海原は、その言葉にうなづき脳内で始まったらナビに従い、輝く砂原を進み始めた。













 ……

 …

 〜海原のいる中層より上、アビス上層において〜









 がちゃる、ガジュル。ゾリゾリ。



 液体を啜るような音がその空間に響き続けていた。


 聞き分けて見れば粘着質な音もそれに混じる。


 ああ、これは美味い。


 神聖な神殿のような建物内、大穴の付近でソレは舌鼓を打っていた。


 ソレは深く傷付いていた。生まれた瞬間に身体中をつき穿たれ、生まれ変わる最中にも身体をシェイクされ変化をめちゃくちゃにいじられた。


 先ほどの狩りにおいては、せっかく生えた羽すら片方はズタズタにされ、片方はえぐり取られていた。


 ずちゅ、ずちゅ、ぼきん。



 ああ、本当に美味い。


 それでもソレは生き残っていた。


 ぼろぼろの身体で這うように力尽きた獲物の肉体に近づいたソレは食餌を開始していた。



 ()()()()の味にソレは酔う。



 ああ、本当に美味い。美味すぎる。


 これがもっとほしい。


 邪魔な骨を手織り、柔らかな肉をソレは夢中で頬張る。いつしかソレの身体に変化が現れていた。


 いも虫の頭がぞわり、ぞわりと形を変えていく。目のない顔に埋め込まれるように新たなる部位が生まれていく。


 瞬膜を備えた爬虫類の瞳がいも虫の頭に備わる。


 血肉の味に感動するようにソレは、新しく生まれてきた瞳から涙を流していた。


 あらかたソレは、赤い血肉を貪り尽くし、身体の骨を舐めしゃぶる。


 もっと、もっとほしい。


 クン、クン。



 ソレは近くの大穴の下から、同じような匂いがしているのに気付いた。


 その匂いをソレは知っていた。


読んで頂きありがとうございます!


宜しければ是非ブクマして続きをご覧下さい!

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