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燐火の響き  作者: 壊れ始めたラジオ
百一回目で叶う前に心が踊る……じゃなくて折れる
22/30

購読漆日目 後編/ラグナロック・コンバット

シーカー「『燐火の響き』前回の話は!」

???「私、参上! 満を持して!」

「……イイことしてくれんじゃん? アンタ誰?」

「私? 私は……通りすがりの浪人生よ!」


 茶色がかったショートヘアの女性は、このショッピングモールのポイントカードを右手で構えながら、まるで自慢するかのように叫んだ。


「おい、おいおいおい。ちょ待てよ。なにか? ヒーローのつもりか? おいおい勘弁してくれよ。さすがに勝つのがわかってる勝負はしねぇぞ?」

「大学生の男が三人、そっちはお前一人だ。取り返しのつかない怪我をする前に、穏便に済ませるべきだ」

「ビビってんじゃないわよ」

「なに?」

「聞こえなかった? かかってきなさい的な感じに言ったのよ」

「イイ度胸じゃん? 後悔しても……知らねぇぜ!」


 三人組の一人が、女性に向かって拳を振り上げた。


「時を越えて十周年パンチ!」

「ごふぅっ!?」


 だけど、男の拳が当たる前に、女性のアッパーが男の腹部に命中した。


「かっ……はっ……」


 男はそのまま、力なく崩れた。


「いいわ。このゲーム……ノーダメージでクリアしてやるわよ!」


「コースケ! ……ンなろうっ!」


 今度は赤ジャケットの男が、フードコートのソフトクリーム屋さんの前に立てられていた旗を台座から引き抜き、襲いかかった。


「その命、神にくれてやるわよ。テーブルカリバー、ラッイッズッアップッ!」


 男が武器を手にしたため、女性も近くにあったテーブルの脚を一本蹴り壊し、金属パイプとして構えた。


「ウラアァァァッ!」

「二手で決めるわ。クライマックスジャンプ!」

「なに!?」


 男の攻撃が当たる寸前、女性はバッタの怪人にでも変身したかのような驚異的な跳躍力をみせ、男の頭上をとった。


「からのクライマックス斬り!」

「うげっ!」


 赤ジャケットの男の脳天に、女性のジャンプ斬り……というよりジャンプ打ちが炸裂した。


「ウソだろ……この女……強え……」


 男は額から血を流し、ゆっくりと倒れていった。周囲からは、「ひっ」という小さな叫び声が。


「……最後はあんたね。これでも手加減するために、結構ふざけてるつもりなのよ?」

「……」


 最後に残った長身の男は表情を変えず、ただ立ち尽くしていた。


「さ、わかったらさっさと帰ることね」

「動くな!」

「あ?」


 女性と男達の戦闘に目がいっていて気がつかなかったけれど、いつの間にか女性の後ろに二人の制服警官が立っていた。


「……誰よ通報したの」


 振り返った女性の視線が向いたのは、最初に打ちのめしたコースケと呼ばれていた男。「へへっ……」という小さな一言のあと、スマホを手にしながら気絶した。


「なんの罪もない一般市民に暴力を振るう不審女性とはキミか!」

「はぁ?」


 女性は顔をしかめて、警官達を睨んだ。


「これ以上騒ぎを大きくするのなら……」

「エクストラプレイヤーはお断りよ」


 女性は二人の警官に全く怯むことなく、歩み寄る。


「と、止まれ、止まるんだ!」

「嫌よ」


 そのうちに恐怖を感じたらしい警官達は、腰に携帯していた警棒をそれぞれ彼女の両肩に打ち付けた。

 ……が、女性はびくともしなかった。


「相手が違うのよバーカ」

「……え?」

「メタルマキシマム……ラグナブランディング!」


 女性は金属パイプの中心を持ち、その両端で警官達を殴りつけて薙ぎ払った。警官達は数メートル吹き飛ばされ、そのまま気絶した。


「悪いけど、この体は今の攻撃なんか足元にも及ばないくらい、過去に酷いことをされてきたのよ。好きな人なんかを……好きな人を守るために。……それに比べたら、こんなものどうってことないのよ。あーあ、ノーダメージノルマ失敗しちゃったじゃない。……さぁて」

「……最後は俺か」

「えぇ。フィニッシュは必殺技で決まりよ!」


 女性は金属パイプの片方の先端にフッと息をかけてから、金属パイプを竹刀を構えるように持ちかえ、男めがけて駆けた。


「必殺、私のキメワザ! 十字! L字! 卍! ラグナストリウムカリバー!」

「ぐっ……ここまで……か……」


 男は防御する暇も無く、女性の横打ちを受けて仰向きに倒れた。


 完膚なきまでに、女性は一騎当千の強さを見せてこの不利な状況を覆した。

 けれど、この事態を終結させた英雄に向けられたのは。


「き、キャアアアァァァァッ!」

「で、出ていけ、ここから出ていけぇっ!」

「レイ、あんな乱暴な子に育っちゃダメよ」

「バ、バケモンだあぁぁぁっ!」

「警察警察っ! いや、それよりも自衛隊呼んだ方がいいの?」

「おい、誰か救急車を呼んでくれぇっ!」

「なんでパパを傷つけたの? パパ、なんにも悪いことしてないのにっ!」

「お前なんか、人間じゃねぇっ!」

「腐ったいもようかん、効く?」

「こいつの悪行を拡散しないと!」

「ヤバいヤバい、アイツマジでヤバいって!」

「こっち来んな!」


 恐怖に駆られた、言葉の暴力。一部始終をひっそりと傍観していた野次馬はもちろんのこと、助けてもらったはずの女子高生二人組までもが、女性を批判していた。今しがた繰り広げられた救出劇は、行き過ぎた強さと、大勢の悪意によって、瞬く間に殺戮劇へと塗り替えられた。


「女だからとナメられて、撃退してやったら怪物扱い……。目の前のものにばっかり振り回されて、忙しい連中ね。こっちは怖くしたくて怖くしてるばかりじゃないのよ……」


 叫んでいるわけじゃない。でも、決して小さくないくらいの微妙な音量で、女性は独り言を残し、去っていった。


「に、逃げるな!」


 たくさんのブーイングを……背に受けながら。


「『怖くしたくて怖くしてるばかりじゃない』……」


 女性のセリフが妙に心に刺さって、アタシは自らの口で呟いた。


 そして、記憶の奥底から引き出されたのは、先日のお客の姿。


 ……そうか。昨日の、キュッと胸の中が締め付けられるような感覚の正体は……。


『ピロリロリーローリー♪』











「え?」


 大事なことに気がついた直後、アタシのスマホが鳴った。


「…………」



窓からはカーテン越しに月明かりが射し込んできて、ほのかな幻想感を部屋に漂わせている。


「……夢?」


上半身を起こして、見回してみる。

アタシはパジャマを着ている。

体には布団がかかっている。


……深夜。


夜独特の空気の冷たさと艶やかさが、肌に触れる感覚をより曖昧なものにしている。


「……そうだ、ケータイ」


アタシは、枕元に置いてあったスマホの画面を点けて確認した。

 新着メールの通知だった。






「『好きな人と一緒に不幸になれますか?』……?」

少しずつクライマックスへ続くよここからは。


(↑元ネタわかる人すごいです。ちなみにヒントは、前書きの???のセリフです)

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