第21話 実の妹
その後も何度か話しかけてみましたが、結局、ナナとは打ち解けることができませんでした。
しかし、ミーシャや他の少女達は、積極的に私に近寄って来ます。
特に、マリーは私に甘えてきました。
それは、当然のことだと思います。
彼女達には、周囲に、彼以外の親しい人がいません。
すぐ傍にいる、少女達のことすら嫌っているのです。
そのような環境は、耐え難いほど孤独な状態でしょう。
突然現れた姉であっても、触れて良い相手がいるのは、とても安心できることであるはずです。
私は、彼の傍に張り付いているナナにも注意を向けます。
彼女は、いつも以上に、彼に甘えたがっているようでした。
しかし、ナナも私のことを意識しているように見えます。
今は素直になれなくても、すぐに私にも甘えようとするのではないか、と思いました。
「……」
セーラが近寄ってきて、困った様子で私の袖を引っ張ります。
その様子を見て、私はすぐに察しました。
「御主人様、馬車を停めてください」
私がそう言うと、彼は少し嬉しそうな顔をしました。
「どうした、小便に行きたくなったのか?」
この男……一体、何を期待しているのでしょう。
私は、彼の顔を叩きそうになりました。
「そうです。催したのは、私ではありませんが」
「……何だ、違うのか。誰だ?」
「それは……お教えしなければなりませんか?」
「……つまらないな。長旅の楽しみだというのに……」
彼は、最低極まりないことを言いながら、ため息を吐きました。
この男……女性の感情を、何だと思っているのでしょうか?
彼は、渋りながらも馬車を停めました。
私が促すと、セーラだけでなく、他の少女達も茂みの中へ入ります。
さすがに、ナナも拒否しませんでした。
私も、彼女達に付いて行きます。
当面の目的を果たすことができて、少し満足しました。
「……ねえ。貴方も、お兄ちゃんの妹なの?」
翌朝、ナナが私に話しかけてきました。
「そうよ」
私がそう答えると、ナナは怒りを露にしました。
「お兄ちゃんの妹は、私だけよ! 私は、将来、お兄ちゃんと結婚するんだから!」
「えっ……?」
それは、信じられない言葉でした。
ミーシャと同じくらいの年齢に見える女の子が、そのようなことを言うでしょうか?
彼が創った人格は、実年齢と比べても、随分と幼いようです。
「……そうなの」
「何よ、その反応! あんた、お兄ちゃんのことを狙ってるの!?」
「違うわ。でもね、ナナ。血がつながっていなくても、兄と妹が結婚することは、良くないことだと言われているのよ?」
「何の問題もないわ。私とお兄ちゃんは、お父さんもお母さんも同じだから」
「……えっ!?」
驚きの声を上げた私に対して、ナナは得意げに言いました。
「お兄ちゃんだって、よく言ってるもの。妹は、兄と結婚するのが、一番幸せになれる方法だって」
「……!」
全身に汚物を塗りたくられるような、とてつもない嫌悪感に襲われました。
彼は、ナナに……わざわざ「実の妹」の人格を与えて、自分と結婚させようとしているのです。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
私の頭の中を、その言葉だけが埋め尽くしました。
「絶対に、邪魔をしないでよね!」
ナナは、最後にそう言いました。
それから、しばらくの間、私は何も考えられませんでした。
「ねえさま、ぼんやりしてる」
朝食をとった後で。
いつものように馬車の上で揺られていると、マリーが心配そうに言いました。
「……ごめんなさい。何でもないの」
私は、そう言ってマリーの頭を撫でます。
彼が創った人格は、基本的に良い子です。
それは、支配しやすい人格を好む、彼の願望に由来するのでしょう。
そのことを考えてしまうと、とても不快なのですが……私に撫でられて、嬉しそうにしているマリーを見ると、とても愛らしい女の子です。
この子達に罪はない。自分にそう言い聞かせました。




