表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

今日はきっと、こういう日

作者: りな

彼女は突然の雷雨に、自転車のペダルをこぐ力を込めた。

前が見えなくなるほどの豪雨で、空と地面の境目が溶けたみたいだった。雨粒が顔に叩きつけられ、息をするたびに水の匂いが肺に入り込む。


鞄は、いつも持ち歩いているゴミ袋で覆った。用心深い自分を少しだけ誇らしく思ったけれど、そんな工夫も焼け石に水だった。制服はすっかり水を吸い込み、気づけば下着までずぶ濡れだ。


「はー……雨宿りの場所まで、間に合わなかった」


独り言が雨音に消える。

彼女は睫毛から滴る水を腕で拭った。その仕草は少し乱暴で、少し投げやりだった。


思い返せば、今日は朝からついていなかった。

ホームルームで名前を呼ばれた時、返事が小さいと注意され、提出した課題は「ここ、雑」と赤ペンで突き返された。昼休みには、仲がいいと思っていた子たちが、自分抜きで笑っているのを見てしまった。放課後、勇気を出して声をかけたら、忙しいからと軽く流されて、それ以上踏み込めなかった。


胸の奥に、小さな石がいくつも積み重なっていくみたいだった。


それでも彼女は、ふっと息を吐いた。


「まあ、仕方ないか」


靴の中はぐちゃぐちゃで、踏み込むたびに気持ち悪い音がする。髪は濡れ鼠で、きっと鏡を見たらひどい顔をしているだろう。それなのに、なぜか笑みがこぼれた。


「たまには、濡れるのもいいんじゃない?」


誰に言うでもなく、そう呟く。

完璧な日なんて、そうそうない。嫌なことが重なる日は、理由もなく続く。だったら今日は、そういう日だったと認めてしまえばいい。


「今日は、濡れる日だったのさ」


そう思えた瞬間、胸の重さが少しだけ軽くなった。

困難は消えない。でも、笑えば、前に進む力は残る。


彼女はペダルを踏み続ける。

雨の中を、顔を上げて。

明日がどうなるかは分からないけれど、今日を越えた自分は、きっと少しだけ強い。


雷鳴の向こうで、彼女は静かに、確かに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ