82.自然と
ジェイドは私が思う以上に、私が言ったこと――行動したことをしっかりと覚えてくれているようだ。
そんな彼の一面を見て、胸がポカポカする気持ちが生まれてくる。
「そうね……ノエルに会って、話す――親子の時間を過ごしたいわ」
「ああ、いいと思う」
「あなたの言葉のおかげだわ……ありがとう、ジェイド」
私は自然と笑みが浮かび――彼に微笑みながら、そう言った。
すると彼は私をじっと見つめてきて。
両手を握っていた手を解放したかと思うと――片手で私の頬へ……そっと触れてきて。
「でもせっかくここへ来たのだから――もう少し俺と……」
「わんっ!」
――ドン!
「こ、子犬ちゃん!?」
ジェイドが話を言い切る前に、ずっと静かに座っていた子犬が、私の胸元にジャンプしてきたのだ。
「ふふ……ずっと構えなくて、ごめんなさいね」
「わんっ! わん!」
子犬は、「ずっと待っていたんだぞ!」と言わんばかりに、私の顔の方へ頭をスリスリとこすりつけてから――ペロペロと舐めて来た。
気分が沈んでいた時に、心配そうにこちらを見ていた子犬のことを思い出して――この子に構えなかったことを申し訳なく思った。
一方で、子犬の鳴き声によって言葉を遮られてしまったジェイドは無言でこちらを見ていて。
「あ! ジェイド、ごめんなさい。続きが途切れてしまったようで……」
「……いいんだ」
私がそう言うと、ジェイドはどこか仕方ないな――といった具合で、気にしなくていいと伝えてくれた。
そんな彼の言葉に、頭でハテナマークを浮かべていると。
「次はもっと時間をとって――ここで過ごしたい」
「!」
「そう言ったら、お前を困らせてしまうか?」
「そ、それは……」
彼の気持ちを聞いて、私は再度……顔に熱が集まってくるのを感じる。
そんな私の様子を見たジェイドは、優しく笑うと。
先ほどから手を当てていた――私の頬から名残惜しそうに、そっと手を引き。
スッと私の耳元に顔を近づけ……。
「次の時にでも――返事をまっているからな」
「っ!」
そして顔を放してから。
「今からはノエルに会いに行くのだろう? 宮の出口まで送ろう」
「え……あ……あ! その、お身体はもう大丈夫ですか?」
「ああ、お前のおかげで――だいぶん軽くなった。感謝する、レイラ」
そう言葉を、彼は紡いだ。
そして私の方に身体を預けていた子犬を、ぐいっと抱いて。
ベッドから立ち上がった。
「わん! わんっ!」
「お前の抗議は聞かない、今度レイラにかまってもらえ」
「ワヴ~~~」
子犬と明るくやり取りをするジェイドを見て、先ほどの言葉は――実は幻聴ではないのかと、そう思いそうになるが。
(ジェイドの言う……家族以外の関係って……)
もしかしたら私の想像以上に、とんでもなく近い距離の関係値のような気がして。
その想像に思わず、顔に火が灯ったような熱さを感じてしまう。
一人、想像であたふたしていると。
「ほら、行くんじゃないのか?」
「あ……! 行くわ……!」
ジェイドにそう呼びかけられて――彼にエスコートしてもらいながら。
私は彼の宮の外へと向かうのであった。
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