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78.気持ち



(何も……問題はない……)


そう彼に言われて、私は心の中で……ずっと表立っては出てこなかったモヤモヤが、すっと和らいでいく気持ちになった。


それほど彼の言葉をまっすぐに私に届いてきて。


「それに、俺も……なんでもかんでもお前に話せてはいない」

「え?」

「国の執政のこと、他国との交易状況……言わないことで秘密にしていることは多い」

「でもそれは、お互いには……」

「そんなこともない」

「?」


私がそう言うと、彼は……やっぱりまた、あの優しい微笑みのまま。


「今後もし何かあれば、俺への交渉材料にだってなるはずだ」

「っ!」

「ふっ……まったく考えてなかったという顔だな?」


まさしく彼が言った通りの顔を、私はしていたのだろう。


そう彼に指摘されて、恥ずかしさで顔を赤くしていれば。


「俺も言えないことはある……だが、言えるようになれば、お前に共有したいと思っている」

「!」

「お前も、今……言えないことでも、今後言えそうな時があれば、言えばいい」


そう言った彼は、私の髪を触っていた手を……彼自身の口元へ持っていき。


優しく唇を落とした。

そして。


「そんな関係も……家族や夫婦の一つだと思うが――どうだ?」

「それは……」


ジェイドからそう問われた私は、自然と口が開いて。


「私も、それがいいと思います」


思わずそう、答えていた。


「そうか」


ジェイドはそう言葉を紡ぐと――ゆっくりと頷いた。

そして嬉しそうに笑みを浮かべて、こちらを見てきたので。


私も彼をじっと見つめる形となり……。


(あ、あれ……? ダンスの練習でもないのに……いつの間にこんなに近く……)


ふと、彼との距離が近すぎたことに――ハッとなった。


(そもそも、いつのまにか髪の毛にも触れている……!?)


彼へ意識をすればするほど、なんだか顔に熱が集まってくるような感覚になり……。


どうにか今の気持ちを冷静に落ち着かせるため、私は――。


「あ、そ、そういえば……! 今から、ジェイドの希望を叶える時間だったわよね……っ!」

「? ああ、そうだったな……」

「私の話で遮ってしまったわね……! ごめんなさい……!」

「いや、別に気にしていないが……」


挙動不審のように焦りまくる私を見たジェイドは――じっとこちらを見てから。


「ふ……まぁ、そう言うのなら、そちらに専念してもらおうか」


どこか意地悪なように、笑みを浮かべたのち。

私の髪の毛から手を放すと。


彼はスタスタと、部屋の奥にある豪奢なベッドに上る。


(……? ベッドに……?)


てっきり、部屋の中にあるソファに座って撫でるのだと――そう思っていたので。


彼の方をキョトンと見つめていれば。


「ほら、お前も――ここに来い」

「え……?」


ジェイドの言葉を聞いて、私は――目を見開いてしまうのであった。




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